エルドラド39
「ノ、ノーラ・・・」
「あなたがノーラね?じゃあ彼女は?」
牢屋の中で大きくなったお腹を抱えながらフラフラ歩き回る女を指さして聞く。
「あ、あいつはナツナです・・・」
「ナツナさんか。うん。わかった。」
牢屋の前にあった板にナツナと書いておく。
「クロウを連れてきました。」
そう言って部屋に入ってきたガルドの後ろにはカラス面を着けた人がいた。
「おぉー、闇姫も名前らしい格好になったな。」
籠った声で私のことをそういったクロウ。だが、すぐに私の目の前にいるノーラを見て笑いだした。
「ひっは、やっぱり捕まったか!しかも、その体!ついに成功したのか!よりにもよってお前で成功するとはな!」
「その声!お前!」
やはり知り合いなようでクロウがノーラを笑い、その声でノーラがクロウの正体を見破った。
「いやー、闇騎士が面白いもの見せてくれるって言ったから着いてきたが、予想以上におもしれぇもん見せてもらったぜ。ありがとな闇姫。」
「どういたしまして。」
ドスンッとクロウは置いてあった椅子に座りノーラの方を見た。
「だから言ったろ?やめとけって。」
壁にもたれ掛かりクロウとノーラの話を聞く。
「あんた、知ってたの?」
「こいつのことか?当たり前だろ。」
私の方を指しながらクロウがそう言う。
「どうして殺さなかった?」
「残念ながら、ここではお互いの身分を知っていても知らないフリをする。そして、出品者には絶対に危害を加えてはいけないってのがここのルールなんでな。まぁそのルールが無かったとしても闇姫に手を出そうとは思わんがな。」
ケタケタと笑いながらクロウが話す。
「というか、ここ何なのよ。」
「ここか?俺たちは『闇の集会』と呼んでるな。」
「闇の集会・・・」
「ああ、正式名はあるんだがな。みんなそう呼んでる。」
「あの正式名は口外禁止だろうしね。私たち人にとって。」
呆れた感じでクロウにそう話しかける。
「だろうな。」
「・・・それで、何やってるのよ。この集会は。」
「表では絶対にできない物の販売とか殺戮ショーとかだな。あとは闇姫みたいに絶対に隠しておきたい事実や物を保管してる奴もいる。俺は基本的に殺戮ショーの観戦が中心だな。」
クロウの話を聞いていると、部屋を出ていたガルドが戻ってきた。
「売れたよ。」
ガルドの手には黒光りする金属の板が三枚乗っていた。
「ふふ、壊れてても需要あるのね。」
「ここだと、壊れてる方が需要高いんじゃないですか?」
「そうね。」
ふと、クロウの方を見ると目が合った。正確には顔を覆うマスクをつけているので合った気がしたという感じだが。
「なぁ、ここならお互いの身分隠す必要ないよな?」
「・・・ええ、そうね。防音だし、盗聴もされないでしょう。何か話したいことでも?エデン連邦ヴァーナ衛星国第二騎士団長さん?」
そう言うと先程までクロウと話していたノーラが驚いたような顔をした。
「ああ、隠してると嘘だと思われないからな。皇国のお姫様。」
怯むことなく私にそう答えたクロウ。
「ヴァーナが二つの派で分断状態にあるのは知ってるよな?」
「ええ。それくらいなら情報が入ってきてますよ。」
「そうか。なら話が早い。俺たちとは別の派でどうも禁術に近い事をやったみたいでな。」
「禁術ね・・・。それで?何やったのよ。」
「召喚だ。異界からのな。」
「まさか、悪魔とか天使とか召喚したんじゃないでしょうね?」
「ならまだ良かっただろうな。」
クロウの発言に少し疑問を感じた。
「どういう意味よ。」
「あいつら、別の世界の人間を召喚しやがった。もし未知の力でも持ってたら俺たち全員絶滅だぞ。」
なるほど、確かにそれなら悪魔や天使を召喚した方がマシだっただろう。対処の仕方もわかっている。だが、別世界のしかも人間となると面倒臭い。
「消せないの?」
「それが出来たら苦労しないだろ。召喚された奴は城で軟禁状態。監視の目も大量だ。そんなところに派の違う俺が行ってみろ。一瞬で拘束されるだろ。」
「まぁ、確かにね。」
「そこでだ。」
「私が消せってこと?嫌よ。」
「消すまでは行かなくてもいい。見るだけでも情報は掴めるだろ?消す必要があるか無いかだけでも判断してくれ。」
声色から真剣に頼んでいるのがわかる。
「・・・分かったわよ。ただし、私が行けるかは分からない。それだけは言っておく。それと、国に入る時は手伝いなさいよ?」
「わかっている。では、頼んだ。」
クロウの雰囲気が変わったので必要な話はこれで終わりということだろう。
「それで?こいつどうするんだ?遊んでもいいのか?」
クロウがノーラを見て笑う。
「私のよ?遊びせるわけないじゃない。遊ぶならあっちのにしな。」
そう言って牢屋の中を指す。
「いやー、あれはやめとく。狂いすぎてて楽しめなかったからな。」
嫌そうに首を振るクロウ。
「闇姫、そろそろ帰りますか?」
「時間?」
「はい。」
「そう、分かったわ。じゃあクロウ。頼んだわよ?」
ノーラを空いていた牢屋に入れて鎖で繋げる。
「わかったよ。来る時は何か寄越してくれ。宛先は分かるだろ?」
「ええ、部屋でいいわね?」
「その方が助かるな。というか、部屋まで分かってるのか。」
クロウの声を聞きながら部屋を出た。
「行くんですか?」
歩きながら闇騎士姿のガルドがそう聞いてきた。
「この姿では行かないわよ。あの子に協力してもらうかな。」
出口に繋がる扉の前でガルドが入る時に使った便箋を取り出す。
「授業がまた止まりますね。」
ガルドが便箋を扉に当てた。一瞬のうちに周りの景色が変わり、出発した地下の部屋に戻っていた。
「誤魔化すの頼んでもいいわよね?」
真っ黒のドレスから着替えながら同じように鎧を脱いでいるガルドにそう聞いた。
「サリーが行くのか?」
「私じゃないよ。エスズに行かせる。」
そういうと少し驚いた顔をした。
「エスズ?どうして彼女を?」
「色々あるのよ。もちろんエスズだけじゃないわよ?うちの狼さんにもついて行ってもらうつもり。」
「なるほどな、それなら安心か。」
ドレスと鎧を箱にしまい、その箱を持って地下室を出る。
「いつ出ますか?」
「早い方がいいでしょうけど、今はまだね。適当に私も理由つけて学院離れないと何かあった時にサポートできないから。」
「わかりました。とりあえず決まったら連絡ください。エスズ一人なら確実に誤魔化せますから。」
ガルドと別れて私は学院に戻る。完全に日が落ちていて、人の気配がない学院にやってきた私はノーラに襲われた部屋に入った。
「とりあえず片付けないとな。本物の血じゃないとはいえ赤く染めてるからな。付くと面倒臭い。」
床や棚の上に散乱した大量の赤い氷の粒子を力で操って一纏めにしていく。
「またか?」
月明かりだけが入る部屋に私以外の声が響いた。
「いいの?こんなとこにいて。」
片付けを続けながら声の主にそう聞いた。
「これも仕事だ。婚約者か暗殺されかけたとあったら確認しに来るだろう。」
声の主の方を向くと、そこには公務時の服を着たラースナー様が立っていた。
「わざわざ来なくても良かったのに。無事なことくらい分かってるでしょ?」
「・・・あなた、また死ぬわよ?」
これまでのラースナー様の口調では無い。中身の口調でそういった。
「その時はその時ね。」
「その時って・・・。」
「いい機会だし、私の生き方教えてあげる。」
そう言って話始める。
「よく『明日のために今日全力で生きる』とか言うじゃない。正直私からしたら阿呆としか言えないわね。」
置いてある机に座り、ラースナー様と向き合う。
「私の生き方はね。『今日を全力で生きる』よ。明日なんて知らないわ。それこそ死んでてもね。」
ラースナー様は真剣な顔で私のことを見つめる。
「さらに言うと、いつ死んでもいいとも思ってるわよ?過去に後悔は無いから。自殺はしないからそこは安心してちょうだい。」
「わかった。だが、暗殺者で遊ぶのはやめてくれ。こっちも心配になるんだから。」
「それは約束できないかな?」
「おい。」
目線を逸らす私に呆れたような顔でラースナー様が笑った。




