エルドラド35
日が傾き、学院の中に残っている生徒も少なくなってきた。そんな学院の中を見回りで巡回していると
「サリス先生。少しよろしいですか?」
そう言って声をかけてきたのは学院の清掃員さんの制服を着た人だった。
「どうかしましたか?」
「清掃をしていたのですが、自分たち清掃員が片付けて良いものか判断がつかないものがありまして。見ていただけますか?」
「ふむ、いいですよ。どこの部屋ですか?」
「ご案内します。」
そう言って清掃員が歩き始めた。私もそれについて歩いていく。
「ある程度の物であれば清掃員さんの方で捨てるか移動か保管か判断していいことになってるけど、そんなにやばいものなの?」
「やばいと言うよりも、重要そうなものでして。かなり厳重に封がされていましたから。」
清掃員について行くと段々と学院の最高階に近づいてきた。
「あっ、ガルド。こんなとこで何してるのよ?」
清掃員が言う重要なものが置いてある部屋に向かう途中、廊下を歩くガルドを見つけた。
「上の階の花とか木に水あげてたんです。」
「あーっ、そっか。今日からナリアってパーティーの準備だっけ。」
「そういうことです。一ヶ月もあるのに大変ですよね。」
「まぁ、貴族の家にいる以上仕方ないんじゃない?それよりも、いつも通り頼むわよ。」
「はいはい。」
ガルドの肩をポンと叩いてから歩き始めた。
「ごめんなさいね。行きましょうか。」
清掃員について再び歩き始める。
「この部屋です。」
清掃員に連れられて到着したのは準備室だった。
「それで?どれがその重要そうなもの?」
部屋の中に入り、一通り探したが清掃員が言ったようなものは見当たらなかった。
「申し訳ありません。実は他の方に見られるとまずいかと思い隠していまして。」
そう言って清掃員が隅に置いてあった箱を開ける。
「それにしても、ここ掃除するってかなり大変よね。」
積まれた本や箱で壁は見えないし、窓も一部塞がっているので高い位置にあるのに日当たりも悪い。
「お待たせしました。」
「ん、ありがとう。」
受け取ろうと振り向いた途端、視界が赤く染まる。
「え?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。が、目の前にいる清掃員の手には何かが握られていた。咄嗟に清掃員に蹴りを入れて距離を取らせる。
「やはり油断してましたね。」
握られたものをよく観察すると、持ち手から刃の部分まで全て黒く塗られたナイフであることがわかった。
「は、これくらいの傷なら致命傷にもならないよ。」
冷静になればそいつが持っているのはただのナイフ。切られた範囲は広いがこれぐらいなら自然と治る。
「その対策をしなかったとでも?」
突然視界がボヤけた。
「効いてきましたね。」
思わず膝を着く私に口角を上げるそいつ。
「なに、したのよ!?」
「あなたが毒に強いことはこれまで調べてわかった。でも、強いのは一度飲んだことがある毒だけ。つまり、一度目であれば効くということ。」
近づいてくるそいつを睨みながらも私は自分の体を動かすことが出来ない。
「大分手こずらせてくれたわね。部下も多く失った。」
そいつが清掃員の帽子を取った。ボヤけた視界越しにそいつの顔が見えた。
「さようなら?皇国のお姫様?」
私の首に向けて横一線に振られたナイフを避けることが出来ず、首が飛ぶ。ゴトリと音がして重たい物体が床に落ちた。
「任務完了。・・・たった一人の女を殺すために一体何人死んだか。」
ナイフを拭きながら清掃員の服を脱いでいく。
「少し遅かったですか。」
どこからともなく聞こえてきた声と同時に床から勢いよく枝が伸び、清掃員の服から着替えた暗殺者の女を拘束する。
「残念だったね。もうそいつは死んだよ。」
空中で両手両足を引っ張られるようにして拘束されながらも余裕のある表情の女。
「時間をかけて潜入したかいがあったみたいだな。護衛にも気が付かれていなかったみたいね。」
床から生えてきた枝が人の上半身だけを形作る。
「・・・切られる軌道の場所だけを力で氷に変えて、血が吹き出したように見せるように極小の結晶を赤く染める。自分は相手に蹴りを入れた段階で分身と入れ替わり実体を無くす。こんな感じですかね。」
ガルドは捕まえている女から視線を外すことなくそういった。
「?何を言っている?」
困惑するような顔の女。
「んー、惜しいかな?90点。」
ゴロンと床に転がっている自分の首を転がして見上げるようにして女を見る。
「頭の方に少しだけ残してたから。」
「その演出やりたかっただけですよね?」
呆れたように見たガルドと床に転がる私の目が合う。
「面白くない?」
「面白くはないかと。」
「そう。」
一度未だに膝を着いた体勢で残っている私の体を氷に変えて首だけになった私とくっつけるように再形成していく。
「さてと、どう違和感ない?」
全身が作り終えたタイミングでガルドにそう聞く。
「無いですね。いつも通りです。」
「よし。じゃあこいつの尋問始めますか?」
「ここだとあれでしょう。いつも通りあそこの地下でやりますか。」
そう言うとガルドが女を覆うように枝を操り一瞬で木の箱が出来上がった。
「じゃあ頼みました。」
「了解。」
箱に触れて浮かべると窓から外に出た。ガルドはもう一度床と同化していく。
箱と一緒に飛んで向かったのは町外れにある小さな小屋。隠されるように密集して生える木の中にポツンとあるその小屋の扉を開けて中に入る。中は長く放置された小屋のようによく分からない物が乱雑に置かれている。その脇を通り、奥にあった半分扉の外れているタンスを開く。タンスの底を軽く叩く。すると、カコンと音がして底板スライドして地下に繋がるハシゴがでてきた。
「意外と大きいけど通るかな。」
ハシゴをおりながら箱を立ててゆっくりと下ろしていく。浮かんでいるので支える必要が無いので下ろすのは楽だがやはり面倒臭い。
「準備出来てますよ。」
地下に降りるとそこには黒い服を着たガルドが待っていた。
「ここでいい?」
箱を部屋の真ん中に置く。
「・・・随分雑に運んだんですね。」
「上下分かんないもの。」
ガルドが箱を覆う枝を解くと中からグッタリした様子の女がベチャッと出てきた。
「拘束するんで起こしてくれます?」
ガルドが床に転がる女を枝を操り部屋に置いてある椅子に拘束していく。近くに置いてある椅子に座り、拘束が終わるのを待つ。
「服どうします?」
「脱がせばいいでしょ。」
スっと腕を上げる。現れた氷の結晶を女に向けて放つ。一瞬にして女が着ていた服を全て切り裂き、裸にした。
「もう起こしていい?」
足を組んでガルドにそう聞くともう少し強く拘束するとのことだったので何時でも起こせるように冷水を入れた氷の器を女の頭の上に浮べる。
「いいよ。起こして。」
ガルドの言葉を聞いて器の底に穴を開けて溜まっていた冷水を女の頭からかける。
「ん、ここは・・・」
ゆっくりと目を覚ました女。気絶していたところから無理やり起こされたためしっかりと頭が回っていない様子。
「まだ起きてない様子だな。」
ガルドが指を鳴らすと地面から二本ツルが生えてきた。意志を持つように勢いよく振られたツルが女の体に打ち付けられる。
「んぎっ!」
突然の痛みに女は声を上げた。
「相変わらず盛大ね〜。」
女の両太ももに打ち付けられたツルの跡を見てそう呟いた。
「起きましたか?」
女の前に置かれた椅子にガルドが座る。
「・・・どうして生きてんのよ!」
少し離れたところに座る私のことを睨みながら女がそう言った。
「あれくらいで死ぬわけないでしょ。それに学院内に出入りする人なんてみんな名前と顔知ってるんだからあんたが潜り込んできた時点でわかってたわよ。」
軽く笑いながらそう言ってやる。
「まぁ、例え上手く変装したとしても学院に掛かってる力で炙り出されるけど。」
「じゃあ、あんたは私が学院に潜り込んでたこと知ってた訳!?」
「ええ。知ってた上であの茶番に付き合ってやったのよ。」
女は信じられないと言った顔で私の方を見たが、すぐ目の前いるガルドと脇に置いてある道具を見て絶望したような表情になった。




