エルドラド33 エスズ
「それで私のところに来たわけ?」
ダンスの経験が少ないというタリスさんを連れてやってきたのはサリスさんの教員部屋。
「パッと思いついたのがここだったので。」
「いや、いいけどさ。上の階使えば問題ないし。」
サリスさんの言う通り教員部屋は上の階があり、そこは普段サリスさんが力の研究で使っているということで家具のない広い空間となっていた。
「それで、そこで隠れている方は?」
「シーファよ。エスズたちが留学してきてすぐの時にグラウンドで爆発事件あったでしょ。その犯人よ。」
サリスさんが座る椅子の後ろからチラチラと顔を覗かせ、その黒髪を揺らす。
「彼女はどうしてここに?」
「シーファが研究していることの報告よ。」
そう言ってサリスさんが机の上にあった紙を私たちに差し出した。
「・・・全部は理解できませんが、要するにブーストみたいなものですか。」
「そういうこと。シーファの持つ闇の力は私たちの力と違って他人の力を吸い取ることが出来る。その吸い取るっていう部分に着目して取り出して貯めておくっていうのが今のシーファの研究課題。」
サリスさんに自分の研究を勝手に公開されているシーファさんがサリスさんの話を止めようとしていたが、関係なしとサリスさんは話し続けた。
「これを私にみせたということは何か意図があっての事ですよね?」
束になった紙の一番最後。そこには小さく日本語で知恵を貸してとあった。
「正解。多分私よりも詳しいんじゃないかと思って。」
そう言うと私の隣に座って小さい声で話し始めた。
『覚えてる?私たちがまだこの言葉で話してた頃のこと。』
耳元で囁くようにして日本語で話し始めたサリスさん。
『鮮明に覚えてます。』
私もサリスさんの耳元で同じように日本語で話す。
『いつだったか忘れたんだけど、"ヒト"に動物の能力を付与する実験あったの覚えてる?』
サリスさんの言う"ヒト"は私たちの事では無い。私やサリスさんが生きていた世界では一般的になっていた人造人間の呼び方だ。
『ありましたね。というか、私あの研究所にはよく出入りしてましたよ?』
『まじ?じゃあエスズって庄内精製社の人だったの?』
珍しくサリスさんが驚いたような顔をした。
『グループ会社です。実験に必要な物資の手配とか搬入やっている会社にいたので。』
『なるほど。じゃあ話が早いかも。あの実験で付与する能力は取り出した遺伝子を元にしてたよね。』
『そのはずですね。』
『その遺伝子取り出す方法がシーファの研究にも応用できないかと思って。』
サリスさんの言葉に納得した。
『つまり、力を取り出すのが今の研究の課題ということですか。』
『そういうこと。私とかはシーファの力には慣れてるけど、初めての人には恐怖しかないからね。他の方法が模索できるならと思って。』
『・・・正直難しいかと。そもそも、遺伝子を取り出すのは存在しているものなので出来たのですが、力となるとそれも怪しいですし。』
「だよねー。」
サリスさんが急に日本語で話すのをやめた。秘密の話はここまでということだろう。
「わかった、ありがとう。」
「ちなみに、力ってどうやって取り出すんです?」
「やってみる?」
「今、少しだけ思いついたことがあったので。」
サリスさんが後ろで隠れているシーファを引きずり出して私の前に座らせた。
「シーファの手掴んで。」
言われた通りシーファさんの手を掴む。
「え?」
掴んだ瞬間、視界が暗転した。いや、目は開いているのに真っ暗で何も見えなくなってしまった。
「はい、終わり。」
サリスさんの声と同時に先程までの暗闇は嘘のように消え去った。
「はい、これがエスズの力。」
シーファさんの手には水色の煙が満タンに入った容器がのっていた。
「吸い取った力を自身に取り込むことで強くなるのが闇の力。でも、取り込む前に別のところに移してしまえばこんな風に力を取り出せるみたい。」
シーファさんから受け取った容器をじっと見ていると、タリスさんが覗き込んできた。
「サリス先生、この力って誰でも取り出せるのか?」
「まだ実験中よ。少なくとも、私とナリアは行けたわ。あとこれでエスズもね。」
容器をしまいながら先程思いついたことを聞いてみる。
「サリスさん、どんな力でも取り出せるんですか?」
「さぁ?何か取り出そうとしてる力あるって事?」
「ええ。一つだけ。」
「この国にいる人なんでしょうね。」
笑うようにサリスさんがそういった。
「エリィです。」
私がそう言うと、サリスさんが固まった。
「もしエリィの力が取り出せるのなら、場合によっては病院もいらなくなるのではと思って。」
サリスさんは顔を伏せた状態で固まっている。
「・・・やっぱり見せてよかった。」
しばらくしてからサリスさんがパッと私の方を見た。
「エスズ、私の部屋自由に使っていいわ。その代わり、尖塔でやってる研究に協力して。ガーネット先生が元気なうちに仕上げるよ。」
「アルカディアにも分けてくれます?」
サリスさんに近づいてそう聞く。
「いいわよ。ただ、取り出す方法はどうするのよ。」
「ディーネさんに頼めば何とかなりません?」
「・・・できそうだね。」
「なら決まりです。」
見ていた資料をサリスさんに返す。
「そうだ、サリスさん時間あります?」
「今から?」
「いえ、授業後です。」
「あるわよ?今は忙しくない時期だし。」
「ダンス、教えて頂けますか?タリスさんのために。」
「そういう事ね。いいわ、引き受けてあげる。」
サリスさんの返事を聞いてから私とタリスさんと部屋を出た。
「かなり親しい仲なんだな?」
「サリスさんとですか?まぁ、そうかもしれないですね。」
「あれだけ気軽にサリス先生の部屋に行ける子は居ないだろうな。ナリアは遊びに行っているらしいが。」
ナリアさんの性格から考えても不思議では無いと納得してしまった。
「それよりも。ダンスについてです。しっかり練習してくださいね?恐らく、私もサリスさんもダンスの技術はかなり高いですから。」
「お手柔らかに頼むよ。」
少々引き気味にそう言った。
「では、今日の授業後にサリスさんの部屋で。」
「わかったよ。」
タリスさんとはそこで別れ、それぞれの教室に向かった。
「おはようございますぅ〜。」
教室に入ると直ぐに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おはようございます。」
ナリアさんが近づいてきた、と思ったらスンスンと私の匂いを嗅ぎ始めた。
「な、なんですか?」
「い〜え〜?なんでもありませんわぁ。」
そう言うとフラッと自分の席に戻っていく。
「ほんとに何だったの?」
ナリアさんの行動に疑問を持ちつつも自分の席に座る。
「おはよう、みんな。全員・・・揃ってるね。」
しばらくするとサリスさんが教室に入ってきた。
「特に覚えておいて欲しいお知らせもないし、パッと見全員元気そうだね。これから移動だったよね。じゃあこれで終わるから遅刻しないように行きなさい?」
パンとサリスさんが手を叩くとガヤガヤした教室に戻り、早々と移動し始める人と話しながら準備している人に別れた。
「スズも行こ!」
最近よく一緒にいるグループの子たちに誘われて私も準備して教室を出た。
「今日から練度で別れるってことだから楽しみだね。」
「そういえば、そんな事言ってましたね。」
「一緒になれればいいけど、難しいよね。スズは私たちより実践慣れしてそうだし。」
「そんなに慣れてませんよ。この前行った星洞神殿を含めても数回です。」
「いやー、その星洞神殿も最奥の試練超えてるんでしょ?」
「私だけでは無いですがね。」
そんな話をしているといつの間にか目的地に着いていた。
「スズ、あれってあなたと同じ留学生だよね?」
魔力、この国では外力と呼ばれているレオのクラスと合同の授業。少し遠くにレオのクラスの子たちがいたのだが、レオだけはその集団には居なかった。
「なにやってんのよあいつ。」




