エルドラド32 エスズ
星洞神殿への旅から帰ってきてしばらく。
「おはよう。」
訓練場で準備を進めているとタリスさんがそう言って眠そうな目を擦りながら現れた。
「おはようございます。朝から1杯どうですか?」
そう言って並べられたドリンクを1本差し出す。
「ご遠慮しておくよ。」
「そうでしたか。」
最近ディーネさんが作った新作ドリンクの効能試験を頼まれるようなり、朝早くに訓練場を使って試すようになった。色々種類はあるが、全て能力を高めるドリンクになっている。まぁ、飲まないとどんな効果か分からないのが難点だが。
「今日は新作か?」
「新作1本と、継続的に飲むのが三本です。」
新作のドリンクを手に取ると中身を全て飲み干す。
「ん?今日のはわかりやすいですね。」
飲み干した瞬間、足に熱が入ったのを感じた。
「足技かな?」
訓練場の人形に向かって軽く蹴りを入れる。予想通りものすごい音がして人形に凹みを作った。
「うわぁ」
「女性に対してそれは酷くないですか?」
「それ以外言えないだろ、これは。」
足に感じていた熱は無くなったということは1回だけの効果なのだろう。
「あとは飲むだけですから今日は終わりですね。」
残りの三本を立て続けに飲み干すと、先程蹴りを入れて凹ませた人形を片付ける。
「その三本はどういう効果なんだ?」
「一本は力の出し入れをより効率化させるものだそうです。残りの二本は不明ですね。ただ、絶対飲めって釘刺されてます。」
「分かんないのが二本もあるって怖くね?」
「飲まないとディーネさんが怒って拉致られますから。拉致されたらそこで飲まされますし。」
最近は朝早いこともあり、朝食を食べる食堂もほとんど人がいない。
「あら?珍しいですね。」
そんな食堂に今日は珍しくエリィがいた。
「お、おはようございます。」
まさか私と会うとは思っていなかったようで驚いた顔をしている。
「お隣失礼しますね。」
エリィの隣に座り、飲み物を机の上に置く。
「それもか?」
「ええ。でも効果は無いただの美味しいフルーツドリンクです。」
メニュー板からいつも通りの食事を頼みタリスさんに渡す。
「何かありましたか?」
「え?」
エリィの方を見ることなく今日のドリンクを飲んだ結果のまとめを書きながらそう聞いた。
「普段なら絶対にいない場所にいる。これで何も無かったと思える方が不思議です。」
「まぁ、そうだな。俺やこいつは星洞神殿に行ってからこうして会うこと増えたが、君は今日初めてだ。」
「こいつって。」
「まぁ、気にすんな。」
「ディーネさーん、この人ドリンク飲みたいってー」
「やめろ、謝るから。」
そんなやり取りをボーッとした顔で眺めるエリィ。
「それで?何があったの?」
運ばれてきた料理を食べながらそう聞く。
「・・・私たちってこの国のお姫様にも知られてるんだなって。」
「?当たり前じゃない。」
なんでもないようにそう言うとエリィがジッと私の方を見つめてきた。
「というか、知らなかったの?今回の留学はお互いの国王と皇帝が合意したからできているのよ?その留学に選ばれた時点でこの国の重役全員に知られてるわよ。」
「うん。まぁ、そうだな。」
タリスさんが何か言いたそうだったが、私がパッと笑いかけると話すのを止めた。
「その話し方だとこの国の姫と会ったみたいね。」
「会ったというより、声を聞いただけです。ガーネット先生に用事があったみたいで。」
「そういう事でしたか。」
ちょうどそのタイミングで頼んでいた朝食が届いた。
「そうだ。ジリアス、案の定サリス先生に怒られたってさ。」
「まぁ、そうなる流れではありましたね。」
「変に曲がりくねった許可を取らなくてもサリス先生に言えば許可出したのにだってさ。」
「サリス先生に反論できる人少なそうですもんね。」
「お前もできるだろ?」
「時と場合によります。というか、この国では無理でしょう。」
朝はあまり多く食べない主義なのでタリスさんと話しながらだと直ぐに食べ終わってしまった。
「では、私たちはこれで。」
タリスさんが食べ終わったところで私たちは食堂を後にした。
「エスズは知ってるんだろ?サリス先生がこの国の姫だって。」
「ええ。私とミューダは知ってます。ラースナーさんが王子だということも。」
「なるほどな。サリス先生が言ってないから隠してるのかと思ったが、そういうことでは無いんだな。」
廊下を歩きながらタリスさんとそんな話をする。
「言うつもりがない感じですね。私は色々あってサリスさんのことをこの国の姫だと見破ってしまったので。ミューダはたまたまその場にいて知ったという感じです。」
そう言うとタリスさんが驚いたような顔をした。
「サリス先生の正体見破ったって、本当か?」
「結果的にね?」
「いや、それでも驚きだな。」
ふとタリスさんがなぜそこまで驚いているのか気になった。
「サリスさんって正体隠すのが上手なんですか?」
「サリス先生がって言うよりも、サリス先生の家がだな。サリス先生ってリヨン家の長女なんだよ。お兄さんがいるから次期当主じゃないんだけどね。」
次の皇妃として選ばれるくらいだから上位の家になるのだろう。
「そのリヨン家なんだけど、皇国の商業界では絶対に逆らえないくらい権威のある家なんだ。まぁ、当のリヨン家の人達はそれで困ってるみたいでね。」
「困ってる?」
「ああ。普通に買い物ができないってね。変装しないでいくとお店の人がやってる事全部止めてまで対応してくるんだって。」
「なるほど。」
「買ってお店売上に貢献したいっていう思いがあるのに自分達が買いに行くと店の業務が止まって売上が伸びないって言う困ったことがずっとあるみたい。」
「それで変装したり正体を隠すのが上手くなったと。」
「そういうこと。」
何となくだが、私もわかる気がした。
「その感じだと、エスズも理解してそうだな。サリス先生の大変さ。」
「ええ。これでもアルカディアでは名の通った貴族家ですし。」
少し思い出すように顔を上げた。
「更に言うと、私はレオの婚約者になる可能性もありました。」
そう言うとタリスさんが立ち止まった。
「今はそんな話も何処かにきえてしまいましたが。」
立ち止まったタリスさんに振り返りながらそう笑いかける。
「もし、まだ消えていなかったら受けたのか?」
「んー、多分受けることは避けられなかったでしょうね。レオの力が私よりも弱かったとしても、相手は王族で私は貴族。その差は埋められませんから。」
そこで区切ってから真剣な顔でタリスさんを見つめる。
「私個人としては絶対に嫌です。」
そう言いきってやればタリスさんはフッと笑った。
「本当にお前らしいな。」
「ありがとうございます。」
「エスズ、1つ俺の頼み聞いてくれないか?」
タリスさんが私に近づくとそういった。
「ええ。いいですよ。私に叶えられるものでしたら。」
タリスさんについて行くと、ひとつの部屋に入った。
「実はな?今度パーティーがあるんだ。俺やマーク、ナリアみたいな学院の次期先生候補の生徒全員と学院の先生達、更に各貴族家の頭首達が集まる豪華なパーティーなんだ。」
タリスさんが封筒を出しながらそういった。
「聞いているだけで豪華なのが伝わってきますね。」
「だろ?それでパーティーなんだが、基本的にペアで行くんだが、俺はマークやナリア達と違って婚約者もいないし、連れていくような仲の女性もいない。」
「話の流れから頼みたいことは予想できましたが、学院の先生も行くならサリスさんに頼んでみては?」
「サリス先生は婚約者いるぞ?」
「・・・そういえばそうでしたね。しかもとんでもない人が。」
「そういうことだ。そこでエスズにお願いしたいんだが。」
「いいですよ。それくらいなら。」
王国なら婚約者のいないもの同士が一緒にパーティーに行くのは色々疑われそうだが、別の国のパーティーなら問題ないだろう。
「タリスさん?ダンスの経験は?」
「何回か。」
「ふむ、では練習しましょう。パーティーはいつですか?」
「一ヶ月後だが。」
「それだけあれば十分ですね。」
タリスさんの手を掴むと私はある部屋へと向かって歩いていった。




