エルドラド31
学院での先生業務が休みで、ほかのやるべきことも一先ず終わっているというある日。私は皇城にある下層皇座間である人を待っていた。
「それにしても、よく見つけたね。」
椅子に座り足を組む私の横にいるリャナにそう話しかけた。
「情報は多くありましたから。」
今日は私がアルカディアに留学する前にエルドラド皇国で買ったチョーカー。その時もう1つ色違いのものをプレゼントしてくれた人に直接お礼を言うため皇城に招いていた。
「それにしても、よろしかったんですか?許可は出ていたのですよね?」
「まぁ、ね。でもあそこって慣れていないと圧が強すぎるんだよ。」
今私がいるのは皇城にあるふたつの皇座間、その一つである下層皇座間と呼ばれる比較的シンプルな皇座間の方だった。皇妃から下層ではなく普通の皇座間を使っていいと言われていたが、今日招いた人は貴族ではない。そのためこちらの方を選んだ。
「お嬢様?もうそろそろではないですか?」
リャナがそう言って扉の方を見る。
「そうだね。」
片目を閉じて扉の外に浮かべておいた氷の結晶に視界を移す。すると廊下の向こうの方からこちらに向かって歩いてくる2つの人影が見えた。
「さてと、久しぶりに次期皇妃の仕事だ。」
1度大きく息を吐く。
「入ります!」
扉の外からメールの声が聞こえた。それと同時に扉がゆっくり開いていく。
「ああ、よく来てくれたね。歓迎するよ。」
メールに連れられて部屋に入ってきたのは1人の女性。明らかに緊張しているのがわかる。
「そこまで緊張しなくても良いわよ。」
そうは言ってみるものの、私が反対の立場なら絶対無理だろう。
「こ、この度は、お招き頂き、あ、ありがとうございます、」
そう言って片膝を着いて、最敬礼の姿勢をとる。
「来てくれてありがとう。顔を上げて頂いて大丈夫よ。急に呼び出したりして悪かったわね。驚かしてしまったかしら?」
彼女の様子を伺いながら優しく話しかける。
「い、いえ。私なんかがこんな所までお呼び頂けるなんてこうえいでご、ございます。」
顔を上げていいよと言ったのだが、私の方を一切見ることなく続ける。
「はぁ。」
私の首につけたチョーカーを見れば分かりそうなものだが。仕方ないと思い、誰にも聞こえないぐらい小さくため息を吐くと最敬礼の状態で動かないリタさんに向かって歩いていく。
「顔を上げなさい?」
ビクッとしてゆっくりと顔を上げるリタさん。
「リタさん。こちらのチョーカーについて見覚えはありませんか。」
リタさんが見やすいように膝を着く。本来ならば絶対に許されないし、やっては行けない行動だろう。たが、この場にはリャナとメールしか居ない。ならばやっても問題無いだろう。
「・・・それは」
「お気づきになりましたかね?これは私がまだ10位のときですね。貴方から買ったものなんですよ。」
そう言うとリャナに用意してもらっていた変装セットを持ってきてもらう。
「あの時と比べると大分成長しましたからね。分からないかもですが。」
リタさんとあったあの時に付けていた変装セットを全てつける。
「どうでしょう。思い出せましたか?」
「はい。あの時姉妹だと思ってましたが、メイドさんだったのですね。」
「気が付かれていなかったなら変装は大成功だったみたいね。」
「これでも皇国の貴族様とは何度もお会いする機会があったはずなのですがね。思い出してみると特徴も一致します。」
そう言ったリタさんに緊張の色は見えていなかった。
「さてと、ようやく本題に入れそうですね。」
変装を解いて椅子に座りリタさんの方に向き直る。
「そういえばリタさんって今何してるんです?」
「今は実家のお店でチョーカーの販売を続けてますよ。私が売っていたのは全て私の姉と母が作ったものでしたから。」
「じゃあこれもそうなんだ。」
そう言いながら自らの首に手をやる。
「ええ。ただ、貴族様向けなの素材は高級なもので揃えてます。今私が売っているのは一般の人向けなのでそこは違いますが。」
「そう。私たち貴族向けにはもう販売しないの?」
「販売は続けたいけど、母が病で動けなくなってしまって。姉だけでは間に合わなくなってしまいまして。なので街での販売をやめたんです。」
「・・・これは貴方へのお礼として用意しておいたのだけど、変えた方が良さそうね。」
先程からリャナが持っていた封筒をリタさんに向かって軽く投げる。ゆっくりと空中を漂いリタさんの目の前で封筒は止まった。
「店舗の出店権利書と初期費用分のお金よ。私の家で余ってた土地とこの前入った臨時収入から取ったものだから貴方に渡しておくわ。」
封筒の中に入った書類2枚を見て唖然としたような表情をしているリタさん。
「店舗の場所に関しては管理してる建物にたまたま空きができたからそこ抑えただけよ。お金は聞かないで。」
「抑えただけって、皇国でも最高級店が集まってる建物じゃないですか。」
「だから?」
「だからって・・・。」
今回リタさんのために抑えた建物は私が試験的に前世のモールを再現しようとして作った建物だった。六角形の2階建てで、合計10店舗のお店が入る建物だ。2つの通りに挟まれ、通り抜けもできるように中央を広場にしてある。結果的には成功だったが、これ以上大きい建物を作ろうとすると土地がないということで私のモール計画は終わっている。
「別に怖がる必要ないわよ。だって私という皇国最強の宣伝塔がいるんだもの。」
首のチョーカーを触ってやればリタさんは再び唖然とした顔をする。
「でも、今欲しいのはそれじゃなさそうね。」
リャナに目線を送るとすぐさま紙とペンを用意してくれた。
「とりあえず私の知りうる中で皇国一番の治癒使いを派遣するから。」
「え?」
「お母様。治ったら店舗出店を前向きに考えて欲しいかな。」
書いた手紙と氷の結晶をメールに手渡す。宛先を確認したメールが一礼をして部屋を出ていく。
「後日また手紙を出すわ。それまで待っていてちょうだい。」
リタさんにそれだけ言うと椅子から立ち上がり出口に向かう。
「あぁ、一番伝えないといけないこと伝えてなかったわね。」
リタさんの前で再び膝を着く。
「チョーカー、ありがとう。大切にするわね。」
そう言って笑いかけ、私は部屋を後にした。
「お嬢様、本当に良かったのですか?あそこに出店したいというお店は沢山ありますし、今も申し込みの連絡が絶えてません。」
廊下を歩いているとリャナがそう聞いてきた。
「いいのよ。あそこに出てるお店は全部貴族の息がかかってない、自由なお店なんだから。あそこに出店するだけの価値はある。まぁ、チョーカーだけだと物足りないかもだけどね。」
そんな話をしているとメールに持たせた結晶に反応があった。
「聞こえる?」
『ほいほい。婆やに用事かのぅ。』
「治癒に行ってもらいたい人がいるんだけど。」
『おや、まぁ珍しい。して、その方とは?』
「一緒に渡した手紙に詳細は書いてあるわ。」
『ふむ、なるほど。あい、分かった。可愛い姫の頼みじゃ。婆やも頑張ろうかの。』
「助かるよ。」
結晶越しに見えるガーネット先生と会話をしていると、すぐ横にエリィが何かしているのが見えた。
「彼女、どんな感じ?」
『どんなって、あんた』
「婆や」
『頑張っとるよ。まだ血に慣れてないのがね。』
「・・・そう。引き続きよろしく頼むわね。」
それだけ言うと私の方から切った。
「そろそろ差が開いてくる頃だろうな。」
ポツリと漏れ出た独り言は広い廊下に響いた。




