エルドラド29
セイが消えてしばらくしたあと。私たちはやることもないのでそれぞれ自由に過ごしていた。
「サリスさん、今いいですか?」
浮かべた氷の上でボーッとしていた私にエスズがそう声をかけてきた。
「いいよ。何かあった?」
「いえ、セイさんを見て思い出したんですが、会わせたい精霊ってどんな方なんですか?」
そういえばそんなこと言ったなという感じだった。
「あー、うん。会ってみる?多分呼べばすぐ来るけど。」
「えっと、じゃあお願いします。」
エスズがそう言った瞬間、少し離れた場所からザバッという水音がした。
「呼ばれた気がしたわ!」
「まだ呼んでない。」
かなりフライング気味のディーネがドヤ顔で現れた。
「つまり、呼ぶつもりだったんでしょ?なら呼ぶ手間省けたわね!」
フワフワと空中を泳ぎながら近寄ってきた。いきなり現れたディーネにそこにいた半分程が驚いた。が、残り半分は「またか。」という呆れ気味の顔をしていた。
「初めてよね!ディーネよ!よろしく!」
困惑するエスズにそう言って挨拶するディーネ。
「えっと・・・」
「彼女が会わせたかった精霊よ。」
精霊を紹介するとはとても思えない適当な感じでそう言った。
「それで?どうして呼んだのよ。」
「呼んでない、呼ぶつもりではあったけど。まぁいいや。諸々省くけどあなたならこの言葉だけで伝わるでしょ。」
エスズを少しだけ引き寄せる。
「彼女は私と同じよ。」
そう言った瞬間ディーネの目がキランと光った気がした。いや、ほんとに光ったのだろう。
「あなた、精霊と契約は?」
「えっと、ハーピーのフウカとだけ契約しています。精霊とはまだ・・・。」
エスズがそう言い終わらないうちにディーネがエスズの腕を掴んだ。
「契約よ!」
そう言うとディーネはエスズの腕に噛み付いた。
「痛っ!」
エスズが腕をひこうとしたが、ディーネにしっかりと掴まれていたため動かせなかった様子。
「安心しなよ。すぐに痛みは無くなるから。」
ディーネがエスズの腕から離れると、しっかりと噛み跡がついていた。
「さてと、これで契約は完了ね!なにか変わったとこあるかしら?」
何処からか水を生み出し口元を洗いながらエスズにそう聞いた。
「えっと、今のところは何も無いですね。」
「なら問題無いわね。それで?これから何するのよ。」
「ん」
私は後ろを指さした。
「なるほど。気付かなかった。」
相変わらずというか、なんというか。良くここまで抜けていて捕まらなかったなと思ってしまう。
「うーん・・・、よし決めた!私も行く。」
まぁ、予想通りだ。
「手伝い無しよ?」
「わかってるわよ。」
ディーネにそれだけ確認をしてからジリアスの方を向いて手を挙げた。
「はいはい。」
呆れ気味にそう言ったジリアス。そんなやり取りをしていると、空間に穴が空いてベシャっと人が落ちてきた。
「あら?意外と早かったわね。」
いまいち状況が理解出来ていないエリィをちらっと見ながらそう言うと、ジリアスが隣にやってきた。
「これで揃ったな。じゃあ中に行くぞ。」
エリィを引っ張って立たせるとそう言って神殿の中に向かって行った。
「じゃあナリア、近くにはいるから。」
それだけ言うと私は全身を氷の結晶に変えて姿を消した。
「は〜い。」
「ふむ、確かに私たちがいると邪魔そうね!エスズ!困ったら呼びなさい!」
ディーネも足元を水に変えて潜り姿を消す。これで私もディーネも見ることが出来ない状態になった。
「ねぇ、そろそろ教えなさいよ。」
神殿の中に入ったジリアスたち。その姿を見下ろすような位置で浮かんでいた私に空間に穴を開けて顔だけ出した状態のディーネがそう言って話しかけてきた。
「教えるも何も無いわよ。話したこと以外には何も無いわ。」
ディーネには私に前世の記憶があることは話してある。
「ええ、そうね。普通の人ならそれでいいのかもだけど、これでも精霊よ。生まれてからこれまで知らないことはほとんど無かったのに、貴方から聞いたことは知らないことばかり。精霊として我慢できないのよ。」
そう言ったディーネの顔はこれまで見てきたどんな顔よりも真剣だった。
「そうね。いいわ。話してあげる。ラースナー様にも話してない特別なこと。」
誰かに聞かれてしまっては困る話な為私たちは大樹の島に移動した。
「どこまで話したっけ?」
「技術とか料理とかね。あとは誤魔化されてるわ。」
「わかった、じゃあその部分ね。」
私は前世を思い出しながら話し始めた。
「私ね。前世で生まれて直ぐに親友ができたの。」
昨日の事のように思い出せるあの時のこと。
「親友ね。」
「そう。でもね、その親友は誰にも見えなかったの。」
「見えなかった?どういうこと?」
「言葉の通りよ。私には認識できるし、声も聞こえる。姿も見える。でも、私以外には見ることも声を聞くことも出来なかった。」
ディーネは困惑したような表情をしている。
「まぁ、私は気にしてなかったけどね。でも、成長するにつれて対応は変えていったけど。」
「それで、その話とどう繋がるのよ。」
「そうね、その親友は私たちが生まれた世界とは別の世界で生まれたって言ったら理解できるんじゃない?」
そう言うとディーネは驚いたような顔をした。
「最初は信じてなかったのよ?そんな話。だから、別の世界を舞台にした物語に憧れもした。この世界に来た時も大興奮で親友の話も忘れてたしね。でもね〜、実際に別の世界に来てしまったのだから信じるしかないわよ。しばらくこの世界で暮らして前世の記憶も鮮明になった頃にその親友の話思い出したしね。ただ、親友は私たちの生まれた世界と似て非なる世界で生まれたって言ってたからこの世界ではないわね。」
親友は向こうの世界で私が死に、こちらの世界で私と認識する時には既にいなくなっていた。
「その親友の話になるんだけどね。世界は常に作られ続けているんだって。」
「作られ続けてる?」
そう言うと私はディーネに向けて氷の結晶を投げつけた。
「危ないわよ!」
氷の結晶を避けたディーネがそう言って文句を言う。
「ディーネ、今避けたよね?」
「そりゃ避けるわよ。当たったら怪我するもの。」
「そうね。じゃあ怪我していたらどうなってたと思う?」
「どうって・・・まさか!?」
「そう。少なくとも今この瞬間新しい世界がひとつ作られたと言えるのよ。」
「・・・そんな簡単に出来るわけないじゃない。」
「ええ、そうね。」
そんな話をしていると、セイが私たちのところに戻ってきた。
「ん?お疲れ様。大丈夫だった?」
「はい。少し寄り道してきまして。」
そう言ったセイの手には何やらはこのようなものを持っていた。
「それは?」
「ちょっと!それどこで見つけたのよ!」
珍しくディーネが驚いたようにそう聞いた。
「これですよね。今から話すので少し待ってください。」
セイは箱を持ったまま話し始めた。
「実は神殿内で彼女が見事な街を再現していまして。少し気になったのでその街に寄り道してきたのです。そこで彼女の親の姉だという方に会いまして、その方の屋敷で見つけました。」
「ふーん。で、これなんなの?」
「セイの持ち物ね。今はもうなんの力もないただの箱みたいだけど。」
「はい。この箱は彼女の父親によって持ち込まれたそうです。そして持ち込まれたすぐ後に死亡したと話していましたね。」
つまり、何処かでこの箱を手に入れ、姉の家に持ち込み、その後死亡したということか。
「調べがいがありそうだね。」
「そうですね。一先ずこの箱を渡した人魚達に聞いてきます。」
「うん。お願い。」
セイが消えたのを確認してディーネが話し始めた。
「じゃあ私はこの箱調べるわね。何かしら手掛かり残ってるかもだし。」
セイが置いていった箱を持って消えていったディーネ。残された私はこのままここにいる意味もないので星洞神殿に戻った。




