エルドラド17 エスズ
船室の窓から差し込む太陽の光で目を覚ました。
「おはようございます。」
既に起きていたミューダがそう言って挨拶してきた。
「相変わらず早いわね。ゆっくりしていてもいいのに。」
ぐーっと体を伸ばして目を覚ます。
「ちょっと風に当たってくる。」
上着だけ着て部屋を出た私は甲板に出る階段をあがっていた。
「ん?」
ふと、上から声が聞こえることに気がついた。甲板への扉の前で少し聞き耳を立てているとどうやらサリスさんとエリィが話しているようだった。
「言いたいことわ分かるわよ?確かに治癒の力を付ければ多くの人は助けられるようになる。」
「はい。だからあなたに教えて欲しいんです。」
「そこよ。さっきから言っているけど、私は治癒の力が使えないのよ?学院で治癒の力が使える人を付けるって言ってるのに何が不満なのよ。」
どうやらエリィがサリスさんに教えを受けたいということで話をしている様子。
「もしかして、私が皇国で最強と思ってる?そんなわけないわよ。あくまで私はひとつの力に特化してるだけよ?どこまで行っても勝てない相手はいるわ。」
「そういう訳では無いです!」
話を聞いているとあまり進展がないように感じた。はぁ、と思いながら甲板に出た。
「しっかり言葉にしないと伝わりませんよ。」
甲板に出た私は2人に聞こえる声でそう言った。
「エスズさん・・・。」
階段を上り、サリスさんの横に立つ。
「いつ出てくるのかと思ったよ。」
「話に聞き入ってしまって。」
エリィは少し気まずそうに顔を逸らしている。
「エリィさんは見返してやりたいそうですよ?力をつけてこんなことも出来るだって。技術を盗めと言ったのはサリスだからと。」
「・・・なるほどね、確かに言ったわ。でも、それが目的ならまず無理ね。」
「ええ、私もできるとは思えません。」
悔しそうな顔をするエリィ。
「どうして相手の得意なもので戦おうとするのか分かりませんね。自分の得意なことを捨ててまで。」
サリスさんの言葉に顔を上げたエリィ。その顔には少し驚いたような顔をする。
「自分にできないことは誰か他のできる人に補ってもらう。そういう考えは無いのですか?」
「・・・多分エリィには無いのでしょうね。聖女だと持ち上げられて何でもかんでも助けてもらおうとする頭の悪い上層が居る教会で教わったのですから。」
そう言われて再び驚いた顔をするエリィ。王国の貴族である私がそんなことを言ったからだろう。
「正直教会に執着することはおすすめしませんよ。あそこの上層はクズですから。」
モミジさんに力を教わっていた時、教会からやってきた奴が上から目線で命令してきた時はその場にいたモミジさんも私もミューダもその態度に怒って家から追い出したことがあった。
「そうですね。あなただけに言っておきましょう。私はこの留学が終わった時国王に次の王になりたいと宣言するつもりです。」
「・・・王って、本当に?」
「ええ、冗談でも言いませんよ。私が王になったらある施設を作ろうと考えてます。それは怪我や病気をした人を専門に治療する場所です。聞いたところによるとエルドラド皇国には既にあるそうですし。」
サリスさんの方を見てみると頷いた。
「あるね。治癒の力だけじゃなくて薬草を使った治療もできるようになってるよ。」
「どうですか?エリィはそこで働いてみませんか?」
「・・・考えてみます。」
そう言うとエリィは船室に戻って行った。
「王になるの?」
「なってもいいかなと思いまして。」
先程は勢いで言ってしまったが、自分の中では既に決まっていたのだろう。言ってスッキリした自分もいる。
「・・・いつか紹介したい精霊がいるからさ。この留学中にタイミングみて会わせてあげる。」
ふふっと笑ったサリスさん。
すると、飛行船内に放送がかかった。
『船員、搭乗員に連絡。まもなく結界内部に入ります。急激な外力上昇に注意。』
その放送が終わるとサリスさんは私の手を取って船室に戻った。
「あの、結界って?」
「その名の通り結界。外部からの攻撃とか侵入者を防ぐっていう目的と、内部から力を外に漏らさないようにするためのもの。」
サリスさんに連れられて展望スペースに移動した。すると、そこにはイテツ先生とカナル先生、他の留学生全員が集まっていた。
「この結界なんだけど、慣れてない人だと体調が悪くなる場合があるから少しだけ集まってもらった。」
サリスさんと私が入ったことを確認したカナル先生がそう言って説明した。
「体調悪くなったらすぐに言って。対処するから。」
『結界内部に入ります。』
その放送と同時に体の外側から染み込むような感覚を感じた。
「大丈夫?」
少し心配そうな顔で私のことを見つめるサリスさん。
「大丈夫だと思います、変な感じではありますが。」
サリスさんが私の腕や頭を優しく触れて確認してくれた。
「うん。安定してる。大丈夫そうだね。」
「お嬢様?大丈夫ですか?」
ミューダも心配そうな顔でこちらを見ている。
「ええ、問題無いわ。ミューダも大丈夫そうね。」
私とミューダの体調に問題がないとわかったサリスさんは他の子の体調を確認しに離れていった。
見た限りだと少し体調が悪くなった程度で済んでいる様子。
「エスズ、私たちは体調悪くなった子を部屋に運ぶから先に伝えておくね。この後少し速度をあげるからいつでも降りられる準備だけしておいて。」
サリスさんはカナリアを支えるようにしてそういった。
「わかりました。ミューダ少し手伝ってあげなさい。」
「わかりました。」
ミューダがサリスさんの反対側からカナリアを支える。その後ろを着いていき、自分の荷物がある部屋に戻った。
『船内の全員に連絡します。結界内に入ったため、速度を上げての飛行に移ります。加速の際に揺れがあるかもしれないのでどこかに掴まってください。』
部屋にいるとそう放送があった。室内の固定されているベッドに腰をかけて加速に備えていると少しの揺れがあり加速していくのがわかった。
「お待たせしました。」
サリスさんの手伝いをしていたミューダが部屋に戻ってきた。
「おかえり。簡単に荷物はまとめてあるから忘れ物がないかだけ確認して。」
部屋の使った場所を確認しながら自分のものが入っていないかを見ていく。
「大丈夫みたいですね。」
「こっちもよ。」
確認を終えた私たちは展望スペースに戻った。
「ん?おかえりなさい。」
戻るとイテツ先生だけが展望スペースにいた。
「えっと、ほかの先生方は?」
「多分、カナル先生は体調が悪くなっちゃった子の手伝いで、サリス先生は甲板じゃないかな?」
「どうして甲板に?」
「結界内部の綺麗な力を取り込んでるんだと思うよ。」
んーっと伸びをするイテツ先生。
「そういえば、2人は結界内に入っても体調崩さなかったよね。」
「そう、ですね。」
「やっぱりサリス先生が本当に連れて来たかったのは君たちなんだろうね。」
少し前まで見せていたまだ子供っぽさが残った雰囲気ではなく、大人びた雰囲気でそう聞いてきた。
「あっ、別に不満があるわけじゃないよ?」
慌てたようにそう訂正するイテツ先生。
「色々な人を見てきたからわかるんだけど、エスズさんもミューダさんも力は強い。でも潜在的な力はエリィさんが1番多いと思うんだ。だけど、エスズさんもミューダさんも力の方向性がエリィさんと全く違う。」
真剣な目でそう言ったイテツ先生。
「エリィさんが使う治癒の力。極限まで極めた人が学院の先生としているんだけど、あの人と比べると正直力が弱すぎる。潜在的な力でもね。つまり、祭り上げられたって聞いてるけど珍しいからって言うだけに感じるんだよね。」
恐らくイテツ先生が感じたことから話していると思うが、大きくは間違っていないように感じた。
「レオさんもそう。方向性はミューダさんと一緒だし、僕と同じだと思う。カナリアさんは分からないけど同じ感じじゃないかな?」
イテツ先生がそこまで言うと真剣な顔で私たちを見た。
「君たち以外の3人は恐らく学院の授業に着いてこられないかもしれない。だから、短い期間かもだけど皇国で学べる事の全てを身につけて言って欲しいな。」
最後は笑顔でそういった。イテツ先生の心からの言葉に感じた。




