エルドラド16 エスズ
サリスさんと相対するように立ったエリィ。どこか不安げなエリィに対し、サリスさんはエリィのことを見通すようにじっと見ている。
「さてと、エリィさん?あなたの力は治癒でよかったよね?」
「・・・はい。あの」
「話は後で聞くよ。まずは、あなたの力がどれくらい見せてください。」
そういうとどこから取りだしたのかサリスさんの手には剣が握られていた。
半分ほど鞘から剣を引き抜くとそこに自分の腕を当てて引き切った。肘から手首までの肉がえぐり取られ、白い骨が見えている。
「どう?この傷直せる?」
剣を鞘にしまい、エリィに近づいていく。ボタボタと溢れるように血が出ており、手のひらも真っ赤に染まっている。そんな状態のサリスさんを見てエリィは吐き気を感じたのか口を覆った。
「・・・まずは血に慣れることからか。」
えぐれた自分の腕にフッと息を吹きかけたサリスさん。すると、傷を覆うようにどんどんと氷が出来ていき数秒で完全に覆い隠してしまった。
「よし、じゃあテストはこれで終わり。ご飯はこの後食堂で食べれるから自由に食べて。いつでも食べれるようにはなってるから。」
サリスさんはそういったが、エリィはあの状態だしカナリアさんもすぐには食べに行けなそうだ。
「大丈夫なんですか?それ。」
サリスさんに近づいた私はそう聞いてみた。
「これ?大丈夫よ。船室で見せた時もだけど痛覚遮断しちゃってるから痛みも感じないしね。まぁ、遮断切った時少しチクッとするけど。」
手を動かして問題無いことをアピールするサリスさん。
「覚えておいて損は無いよ。痛みで思考が遮断されることは無いし。」
スっとサリスさんが船の反対側を見た。つられらように私もそちらを見てみると、丁度ミューダとイテツ先生が剣を打ち合っていた。
「さすがだねミューダはエルドラドの血を引いてるだけある。」
モミジさんに私と同じく鍛えられたミューダはそれまでとは全く違う動きに変わっていた。
「イテツ先生には全く通用していないみたいですが。」
「イテツ先生と比べちゃダメよ。あの人に近づかれたら私も勝てないし。」
明らかに手を抜いているイテツ先生。素手に金属製の篭手を両手に装備しているイテツ先生に対してミューダは両手剣を装備している。モミジさんに身体強化のやり方を学んでいたおかげか両手剣を簡単に振り回している。
「イテツ先生も流石よね。普通はあんな大きい剣を上から振り下ろされたらいくら身体強化していても反動は凄いはずなのに。」
ミューダが降る両手剣を片手で受け止めたり篭手で逸らしたりと一つ一つの攻撃を確実に無効化していく。
「実を言うとな。」
イテツ先生とミューダの打ち合いを見ていると隣に来たカナル先生が話し始めた。
「イテツ先生とサリス先生ってお互いに弱点を付けるから勝敗付かないんだよな。」
「そうなんですか?」
「私は氷の力を主体に中距離から遠距離で戦うのが得意なの。近距離は槍で応戦するけど、距離を取らせるためだけ。基本は大量の氷と無尽蔵な力を使った攻撃で相手を制圧する持久戦のが得意だからね。」
「それに対してイテツ先生は身体強化で相手の攻撃を無効化しつつ相手の懐に潜り込んで強力な一撃を打ち込むのが戦略。だから近距離が苦手なサリス先生には嫌な相手だろうな。ただ、イテツ先生は攻撃を防ぐ術が篭手とか防具しかないから多角的な攻撃には対処が難しい。つまり、空中から降り注ぐように永遠と続く攻撃をするサリス先生は苦手な相手になるだろうな。」
話だけを聞いているとサリス先生のが有利なように聞こえる。そこを聞いてみると。
「私が攻撃を展開しきる前にイテツ先生が攻撃の届く間合いまで近づかれると、即時展開できる3つの氷じゃあ対処出来ないし槍も無効化される。詰みなのよ。」
そう話しているとミューダとイテツ先生の打ち合いも終わった。結果はミューダの体力切れによる敗北。イテツ先生はまだまだ余裕そうだ。
「あっ、そっちはもう終わってましたか?」
イテツ先生が付けていたはずの篭手がスっと消えた。
「え?イテツ先生、今篭手が・・・。」
私が驚いてそう呟いた。
「あっ、そっか。精霊武具って当たり前じゃないんだっけ。」
「精霊武具?」
少し悩ように腕を組んだ後、サリスさんが手を動かした。それに合わさるように空中から先程見た剣が現れた。
「精霊武具って言うのはその名の通り精霊から受け取った武器や防具になるの。この剣もそうで、セイから受け取ったものね。」
そういうとサリスさんが足をトントンと鳴らした。すると足元が光り始め、そこから1人の女性がでてきた。
「あら?お久しぶりですね。」
その女性は私に気がつくとそう言って笑った。
「えっと・・・?」
「セイよ。王国に居た時私が呼び出してた子。」
言われて思い出した。だが、あの時よりも随分成長している。
「僕も精霊さんから受け取った篭手なんです。」
イテツ先生が指を咥えてピィーと音を鳴らすと空中に穴が空いてそこから赤い髪の女性がでてきた。
「おっす、呼んだかい?」
軽くそう挨拶をしたその人。明らかに武闘家といった出で立ちで引き締まった体が服の隙間から見える。
「元気そうですねリート。」
「おっ?セイ嬢か?随分立派になったな〜。」
「ええ、お陰様で。」
セイさんはそう言って胸を支えるように腕を組んだ。
「おう・・・、抜かされたか。」
「ふふん。」
何故か勝ち誇ったような顔をするセイさん。それに対してショボンとしたリートさん。そのリートさんをイテツ先生が慰めている。
「こんなふうに私やイテツ先生みたいな力を高いレベルで使える人は基本的に精霊と契約してることが多いね。もちろんしてない人もいるけど。」
「多分、エスズさんの実力なら契約してくれる精霊さんいると思うよ。」
イテツ先生はそう言ってくれたが、私は既にフウカと契約している。そのことを聞いてみると
「精霊の契約は重複しないから出来るよ。私もしてるし。」
サリスさんが再び足を鳴らすと光る床から白い狼が顔を出した。
「顔を見たかっただけだから大丈夫。」
サリスさんの方を見上げる狼。その言葉を聞いて出てきた時と同じように光る床に消えていった。
「そうだ、精霊武具についてだったね。話がズレてた。」
イテツ先生がそう言って話を戻してくれた。
「精霊武具は人や亜人とは全く違う存在の精霊から受け取ったものだって言うのは話したよね。」
「はい。それは聞きました。」
「でね、精霊武具って精霊の力を契約者に合わせて具現化した武具なんです。つまり、契約時に流し込まれた精霊の力を自分の意思で武器として取り出すのが精霊武具のことなんです。」
「自分が意識すれば色々な形になるのも精霊武具の特徴ね。さっき私は剣を取り出したけど、いつもは槍として取り出してるからね。」
持っていた剣を手放すと煙のように剣が消えて、代わりにサリスさんの手には槍が握られていた。
「精霊武具があったら他国に侵入して暗殺っていうのも簡単そうですね。」
「そうかもね。でも、精霊と契約していると誰が精霊と契約しているか見えるようになるからね。そういう人がいると見破られるけど。」
「そうなんですか?」
精霊が契約者を守るためにそういうことができるらしい。
フウカも久しぶりに会ったセイさんと楽しそうに話しているので邪魔をしないようにサリスさん達に寄った。
「サリス先生、カナル先生ご飯食べいきましょうよ。少しお腹すいてきました。」
イテツ先生の言葉で私たちは話しながら食堂に行くために船室へと降りていった。




