エルドラド15 エスズ
私が突然動き始めたことにカナル先生も何かあったと察したらしく私に続いて甲板に出た。
「フウカ!」
甲板の端から空を見ていたフウカに声をかけた。
「エスズさん!」
私に気がついたフウカが羽を差し出してきたのでその羽に触れる。
「この景色は。」
フウカが見ていた、視界を共有し見えてきたのは空色の鱗に覆われた1匹の竜だった。
「はぐれの竜だよね。こんなところを1匹で飛んでるなんて。」
いつの間にか私の隣に来ていたサリスさんがそう呟いた。
「はぐれの場合、過去の契約が聞いてない可能性もありますね。」
サリスさんと同じように空を見つめるイテツ先生。
「どうする?何となくこっち向かってる気がするけど。」
「迎撃するしかないでしょう。」
体を動かし始めるイテツ先生。
「貴方が行くなら私も行くことになるじゃない。」
溜息をつきながらも同じように準備し始めるサリスさん。
「船長、少し速度上げて。はぐれが1匹とは限らないから。」
「分かった。」
サリスさんが船長さんにそう声をかけると飛行船の速度が上がった。
「イテツ先生、行ける?」
「いつでも。」
サリスさんが腕を振るとイテツ先生の近くに分厚い氷の板が現れた。
「ありがとうございます。」
イテツ先生がその氷の上で軽くしゃがんだと思ったらドンッという音と共にイテツ先生が消えた。
「相変わらず早いねー。」
呑気にそんなことを言っていたサリスさんだが、フワッと浮かび上がり飛行船を飛び出して行った。
「フウカ、追える?」
「既に追っています。」
もう一度フウカの羽に触れて視界を共有する。視界には空を飛ぶサリスさんと、その横をサリスさんが時々腕を振って作り出した氷を踏み台に跳ぶイテツ先生が見えた。
フウカが視線を前に向けると竜の姿がはっきりと見えた。サリスさんたちも見えたようで空中で止まった。
「声は聞こえませんが、何か言っているようですね。」
少し離れたところで翼を動かして滞空する竜と相対しているサリスさん達。すると、竜が突然突っ込んできた。サリスさんは突っ込んできた竜の軌道から抜けるように飛び上がり、イテツ先生は受け流すように竜の背中を踏み台にして避けた。
「あの竜、戦いに慣れてませんね。」
サリスさんが作った足場に着地したイテツ先生がスっと消えた。と思ったら竜の背中に飛び蹴りを入れていた。サリスさんはイテツ先生のサポートをしているのか少し離れたところで浮かんでいる。
サリスさんの横に飛んできたイテツ先生。またサリスさんの作った足場に乗るのかと思ったが、空気を蹴っているのか足を動かして滞空している。
「これで決まりますね。」
フウカがつぶやくと同時にサリスさんが腕を動かした。軽く振り払うように動かしただけだが、サリスさんの周りに太陽の光を反射する物体が無数に現れた。キラッと光りながら次々と竜に向けて放たれるその物体。竜は耐えきれなくなったのかサリスさんたちに背を向けて逃げていった。
「終わりましたね。」
フウカが遠視を辞めたようで視界が飛行船から見える景色に戻った。
「強さで言えばあの竜は下の方でしょう。それでも、私よりも強いです。」
フウカが空を見ながらそう言った。
「やはり、異次元の強さですね。エルドラド皇国の人は。」
同じように空を見ていると遠くの方からこちらに向かって飛んでくる人が見えた。
「心配はしてなかったが、あそこまで圧倒的だとはな。」
カナル先生が苦笑い気味にそう言った。
「学院の中だと負ける姿を何度も見てたから認識がズレてるんだろうな。」
やれやれと言った感じでカナル先生が離れていった。おそらく自然と出た独り言だったのだろう。
「学院ってどういう先生や生徒さんがいるんでしょうか。」
自然と心の中の思いが漏れ出てしまった。それぐらい衝撃だったのだろう。
「何かあったのか?」
しばらくして船室からレオ王子とエリィが出てきた。
「あれ?気づいてなかった?」
「だから何かあったのかと聞いているんだが、その様子だとあったようだな。」
「もう解決したけどね。」
丁度サリスさん達が甲板に降りたタイミングだった。
「見てたよね。どうだった?」
サリスさんがそう聞いてきた。
「圧倒的でしたね。」
「あはは、そう見えてた?実はそうでも無いんだよね。」
そう言うとサリスさんが脇腹を見せてくれた。
「あいつ、風纏ってたみたいで避けた時に切られたみたい。」
そこには真横に二本切られたような傷があり、血が出ていた。
「厄介なことに風の使い方が上手でね。相性が悪かったよ。」
「サリス先生は点での攻撃に弱いですからね。傷跡を見るとかなり範囲を迫った風での攻撃みたいですし。」
サリスさんの傷を見ながらそう分析するイテツ先生。ちなみにイテツ先生は身体強化で風の攻撃を全て防いだそう。
「さすがに戦い用の服じゃないからそこら辺の防御も緩いしね。」
サリスさんは着替えてくると言って船室に入っていった。レオ王子たちが受けていたテストは既にカナル先生が回収していた。
「サリスさんの傷治しに行きます。」
エリィが声を震わせながらそう言った。
「ん?いらないと思うよ。」
しかし、それを遮ったのはイテツ先生。
「確か、治癒外力の使い手だったよね。あれぐらいなら力使わなくても個人の自然治癒ですぐ治るから。」
何にでもないようにそう言ったイテツ先生。エリィは自分が勇気をだして言ったことがいらないと言われて少し呆然としている。
「そうだ、せっかく全員集まってる事だし力のテストもしちゃおうか。」
今のゴタゴタで船室にいた私やエリィ、レオ王子以外の留学生も甲板に出てきていた。
「カナル先生、筆記テストって全員受けましたか?」
「5人分の解答用紙あるし受けたぞ。」
「わかりました、じゃあ準備するので少し待っていてください。」
イテツ先生はそういうと船室の方に入っていった。イテツ先生と入れ替わるように出てきたサリスさん。
「何かやるの?」
「丁度全員集まってるから実技のテストやるんだって。」
「あ、そうなの?じゃあまた着替えてこないといけないじゃん。」
うわぁ、というような顔をしてもう一度船室に入っていったサリスさん。それからしばらくしてイテツ先生とサリスさんが出てきた。
「よし、じゃあ今から言う子は私の方に来て。えっと、エスズとカナリアだね。」
サリスさんに呼ばれた私とカナリア。確かカナリアもゲームの登場キャラだったはず。
「僕の方にはミューダさんとレオさんですね。こっちでテストするので集まってください。」
ミューダはイテツ先生の方に呼ばれた。
「あ、あの。私はどうすれば・・・?」
唯一呼ばれなかったエリィがそう聞いた。
「えーっと、どうします?サリス先生。僕じゃ見れないですし、イテツ先生も計りようがないですよね?」
カナル先生が困ったようにそう聞いた。
「どうしましょうか。でも、自然治癒力を制限できるのは放出型の私になるよね。」
「そうですね。僕だと怪我した瞬間から無意識に力をその部位に集めて治しちゃうので。」
「じゃあ、サリス先生が適任だな。」
カナル先生がサリスさんのところに集まった私たちのところにエリィを連れてきた。
「エリィは最後にみるね。まずはリアさんから。」
サリスさんにリアと呼ばれたカナリアは少し驚いた様子。
「覚えてたんだ。」
「挨拶された人は覚えてないと失礼でしょ?」
ふふっ、と笑うサリスさん。
「じゃあ、私に向かって攻撃してみて。今出せる最大限で。」
言われた通りカナリアはサリスさんに向かって詠唱を挟んだ攻撃を放った。カナリアが放った炎の攻撃はサリスさんに届く前にシュンッと消えた。
「よし、いいよ。じゃあ次エスズ。」
カナリアと交代した私はスっとサリスさんを見据えた。
「いきます。」
サリスさんに向かって弓を構えるように腕を引く。しっかりと狙いをつけて矢を放つように手を離す。
「なるほどね。不可視の矢か。」
音もなく飛んでいったはずの攻撃だったが、サリスさんは氷の結晶1つで完璧に防いだ。空中でパァン!という音がして辺りに勢いよく水が飛び散った。
「ここまで大変だったんじゃない?」
「ええ、モミジさんに死ぬほど鍛えられました。」
サリスさんが帰ってから時間を見つけてはモミジさんに力の使い方を教わっていた。最初は全くできなかったが、自分の使いやすい力の使い方を見つけてからは早かった。
「水か。なら、私のとこにいる生徒が丁度よさそうだね。」
残るはエリィだけとなり、私は邪魔にならないように先にテストを終えていたカナリアの横に移動した。




