エルドラド14 エスズ
部屋に荷物を置いた私は再び甲板に出てきていた。高度が上がったこともあり気温も低くなり風も強くなってきた。
「最初に出てくるのはやっぱり貴方よね。」
甲板を見回していると後ろから声が掛けられた。振り返ると甲板より1階分高くなっている場所から私を見下ろしているサリスさんの姿があった。
「よっと。」
寄りかかっていた柵をピョンと飛び越えて私の前に降りてきたサリスさん。
「久しぶり。元気そうだね。」
「サリスさんこそ。」
船首部分にいたフウカも私に気がついて近寄ってきた。
「お久しぶりです。」
フウカもスっと姿勢を低くして挨拶をする。
「フウカさんも元気そうね。」
優しい微笑むサリスさん。
「珍しいな。サリス先生がその顔見せるなんて。」
そんな私たちの様子を見ていたカナル先生が驚いたように声を掛けてきた。
「失礼な。そんな変な顔してないわよ。」
そう言いながらムスッとした表情をするサリスさん。
「そうですよ。可愛い顔じゃないですかー。」
サリスさんの横でイテツ先生がそう言った。
「そうだそうだー。」
イテツ先生を抱き上げてカナル先生にブーブー言っているサリスさん。
「いや、変な顔とは言ってないだろ。」
少し慌てたように訂正をするカナル先生。
「・・・と言うか、サリス先生持ち上げるのやめてくださいよ。」
「あっ、ごめん。手の届くところにぬいぐるみがあったから。」
「誰がぬいぐるみですか!」
サリスさんに抱かれた状態でブンブン手を振って主張するイテツ先生。そんなやり取りに少し緊張していた私も気分が楽になった。
「学院もこんな感じの先生ばっかりだからさ。そんなに固くならなくていいよ。」
イテツ先生を離したサリスさんがそう言って笑う。
「そうだ、今って時間ある?」
思い出したようにそう言ったサリスさん。
「時間ですか?ありますが。」
「じゃあ部屋で待ってて。少しやって欲しいのがあるから。」
そう言うとサリスさんは船内に入っていった。言われた通り部屋で待っていると紙を2枚持ったサリスさんが入ってきた。
「やって欲しいのはこれ。テストなんだけど。」
手渡された紙にはいくつか問題が書かれているテストの解答用紙だった。
「向こうでの教育基準にするから点数とかは気にしないで。」
部屋にいたミューダにも用紙を渡すサリスさん。
「今やる?そんなに急ぎじゃないけど。」
「今やっちゃいます。その方がこちらも気が楽ですし。」
「分かった。とりあえず制限時間とかは無いからやってみて。」
部屋に備え付けの机を使って回答をしていく私たち。問題はいくつか難しいものはあったが何とか全部埋めることが出来た。
「終わりました。」
「はい、ありがとう。ミューダも終わった?」
「少し見直しをするのでお待ち下さい。」
「いいよ、ゆっくりで。」
ミューダの見直しが終わるまで少し話をすることになり、王国であったことを話した。
「大嵐ねー。そんなに被害でたんだ。」
「幸い死者は出てないですが、家屋とか被害がありまして。」
「なるほどね。それであいつの視線がなんか変だったのか。」
「自分の力不足を感じたようですね。」
「あいつの力なー。エルドラド皇国で担当してもらおうと思ってる先生はあいつと比べると差がありすぎるんだよなー。」
困ったような顔をしているサリスさん。
「そんなに力の差が?」
「うん。まず生きてる年数が違うからね。もう仙人の粋なんだよね。だから色々知ってるし、治癒外力の強いところも弱いところも。ちなみに、あいつの最大ってわかる?」
被害現場で活動するエリィの姿を思い出す。
「多分、軽傷者を数人治すぐらいかと。」
「まとめて?」
「いえ、1人づつです。」
「そっかー。弱いな。」
サリスさんからすると予想以上に弱かったようで天を仰いだ。
「そんなに弱いんですか?」
「弱いね。軽傷者なんて治癒外力使わなくても直せる人が大半だよ。例えば、」
そう言ってサリスさんは手を広げるとその真ん中に向けて鋭くとがった氷を突き刺した。貫通した氷が私の方からを見えている。
「これぐらいなら自分の力で直せる。」
刺さった氷を引き抜いたその瞬間からじわじわと穴がふさがっていく。骨ごと貫いたはずなのに無くなった骨まで元に戻っていく。
「ほらこの通り。」
数秒であれだけの怪我が治ってしまった。
「あの人は死んでなければ治せるとか言う段違いの強さだからね。」
サリスさんが段違いと表現する程の使い手とはと驚いた。
「すみません、お待たせしました。」
そうこう言っているとミューダがテストの見直しを終えたようで声をかけてきた。
「ありがとう。あと実技形のテストがあるからそれだけ覚えておいて。」
手早く回収したテストを確認するとサリスさんは部屋を出ていった。
「実技形のテストって何をやるんでしょうか?」
ミューダがそう聞いてきた。
「多分家でやっていたことに似てると思うけど。」
実家でモミジさんに叩き込まれた力の使い方。だが、モミジさんが言うには皇国で教わることはモミジさんが教えてくれたことよりも遥かに高度なレベルになるだろうとのことだ。
「最初からできないと思われてるしそこまで難しいことはされないと思う。」
ミューダと一緒に部屋を出て展望スペースに向かった。
「あ、エスズさん。」
展望スペースにはエリィさんともう1人レオ王子だった。
「何かあったのか?」
「あら、私がここに来るのは何かあったからなのですか?」
「いや、そういう訳では無いが。」
スっと令嬢モードに切り替えると置かれていた椅子に座る。
「あの、エスズさん。」
「彼女との間は取り持ちませんよ。ご自分で話に行きなさい。」
迷った末に声をかけてきたエリィの言葉を予想して先に答えておく。
「それに、彼女はそこまで貴方のこと気にしていない様子でしたよ?」
既にサリスさんと話をしたことをそれとなく主張する。
「そう、ですか。」
悲しそうな顔をするエリィにレオ王子が寄り添うような仕草を見せた。
「それにしても、素晴らしい景色ですね。」
上空から見下ろす景色は今まで見たことの無い景色でとても新鮮だった。
「おや?ここに集まっていたのか。」
展望スペースに入ってきたカナル先生が少し驚いたような顔をした。
「空から見下ろすなんて初めでですもの。」
「あはは、皇国以外だとそうなるだろうな。まぁ、ここまで高いと俺は少し怖いがな。」
少し苦笑い気味にそう言ったカナル先生。
「そうなんですか?」
「俺はサリス先生やイテツ先生と違って力が弱いからな。それこそみんなと同じくらいじゃないかな。」
そう言いながら私たちを見回す。
「あの二人は小さい頃からピョンピョン飛び回ってたからな。これぐらいの高さなら怖くないらしいが。」
少し下を除いたが、すぐに顔を引っ込めたカナル先生。
「あの、私達って何を学ぶんでしょうか?」
エリィさんがカナル先生にそう聞いた。
「何とも言えないかな。期間もあるし、それぞれが得意なことを学んでもらう方針にはなると思うけど。そういえばテストって受けた?」
「いえ、まだですが。」
「じゃあ持ってくるから少し待ってて。」
そう言って展望スペースを出ていったカナル先生。しばらくすると人数分テスト用紙を持って帰ってきた。私とミューダは先程受けたことを伝えておく。
「とりあえずやってみて。そのテストによって学院でどんなことをやるか決めるから。」
テストを受け始めた2人の邪魔をしないように少し離れる。
「カナル先生?今回の期間は2年程のはずですがそれでも短いんですの?」
「皇国の時間換算だとな。うちの国、平均寿命が余裕で200超えるから一学年が2年あるんだよ。」
「つまり、王国では2学年分ですが、皇国では1学年でしかないと。」
「そういうこと。」
「ん?ではイテツ先生やサリス先生は年齢的におかしいような。」
「皇国だと珍しくないからな。知識や能力、技術において皇国1番の人が集まって教師やってるのがシャルドン皇立学院なんだよね。サリス先生もイテツ先生も力の使い方では1番だから教師やってるんだ。基礎的な学問は教師やりながらも学べるし。」
「そういう事でしたか。」
カナル先生と話をしていると、甲板で日光浴をしていたフウカから非常事態を知らせる合図が届いた。




