アルカディア33 エスズ
少しだけ雲が浮かんでいるが、青空が広がっているアルカディア王国の空。王城の隣にある飛行船の離着陸場からその空を見上げていた。
「エスズさん。」
そんな私の隣で同じように空を見上げているのは契約したハーピーのフウカ。
「フウカ?何かあったの?」
「少し。」
そう言うとフウカが空を見上げた。
「エスズさん、手を。」
フウカがそう言ってハーピー特有の腕の代わりに生える大きな羽を差し出してきた。その羽に自分の手を当てると目を閉じる。
「いきます。」
フウカの声を合図に閉じているはずの目に景色が映り始めた。
「見つけました。」
まるで空を飛んでいる映像を見ているような景色が続いていたが、次第に速度が落ちてきた。それと同時に遠くに浮かぶものが見えてきた。
「まだ少しあるかな?」
「速度が早いので到着はすぐだと思いますよ。」
フウカの言う通り遠くにあった浮遊体はみるみる近くなってきて、その姿がはっきりと見えてきた。
「飛行船ですね。」
前世で言う飛行船とは少し形が違い、海で使う船を前世の飛行船から吊り下げるように合体させた形をしている。飛んでくる飛行船を見ていると船首部分の甲板に3人ほど人が立っていた。
「・・・エスズさん。」
「?何かあった?」
「多分気づかれました。甲板の人がこっちみてます。」
フウカの言葉にもう一度見てみると確かに3人のうち2人がこちらを見ている。
「多分サリスさんだよ。気にしなくてもいいかな。」
そう言うと私はフウカの羽から手を離した。
「そろそろ行こう。もうすぐ来るよって知らせないとだし。」
フウカと一緒に王城の中に戻る。今回エルドラド皇国に向かう人が待機している部屋に入るとエリィさんが近寄ってきた。
「あの・・・、もう来ますか?」
「ええ。こちらに向かう飛行船が見えたので間もなくかと。」
「そう、ですか。」
サリスさんがアルカディア王国にいた頃はエリィはサリスさんのことをあまりよく思っていなかった。帰ってからもずっと同じかと思っていたが、数ヶ月前に沿岸のアスルが大嵐による被害を受けた。エリィは直後から救援として現地に行っていたらしい。当時私はモミジさんの指導を受けていたためこの国で力の使い方が1番上手くなっていた。なので私の方にも救援要請が届いていた。
「それにしても、まさか貴方がサリスに対する認識を変えるとは。」
「あの時実感しましたから。力がなければ助けることも出来ないと。」
アスルの大嵐の時、エリィは怪我をした人の治療をしていたが、力が弱く大きな怪我は治すことが出来なかったし、小さい怪我の人も数人治療して気絶してしまった。そのことも報告があったのでモミジさんの持っているエルドラド皇国の医療と私の持つ前世の知識を使って何とか凌いだ。
「それにエスズさんに言われて気が付きましたから。自分で全てやらなくてもいい。出来ないことはできる人に任せてもいいということに。」
あははと笑うエリィ。私がエリィに言った言葉はまだサリスさんがアルカディア王国にいた時エリィに言った言葉と同じだ。ただ、しっかりと意味も含めて伝えてある。
「あの時も空からの捜索をフウカがやり、その情報をミューダに共有。救助に向かってもらって、その助けた人を私とモミジさんが対応っていう協力体制だったものね。一人一人の力は小さいけど補え合えばあれだけのことが出来るのですもの。」
「今考えるとサリスさんがエルドラド皇国の方と同じことをしたらもっとすごいことできるんでしょうね。」
「嵐で被害が出ないでしょう。あの国は。」
そんな話をしていると飛行船の離着陸場が見える窓から1隻の飛行船が見えた。
「皆、準備は出来ているな。」
国王が部屋に入ってきてそう言った。全員が緊張しているのがわかる。国王と騎士について行くように部屋を出た私達は離着陸場までの道を歩いた。
「意外と小型なんですね。」
離着陸場に降り立った飛行船は前に1度だけ見た飛行船よりも小型のものだった。
「エリィさん。思っても口に出してはいけません。」
ポツリと呟いたエリィさんを咎めつつ飛行船を見ていると、ガコンという音がして船首の下部が左右に開いていく。完全に開き切ると今度は飛行船内部から板がせり出してきて地面に着いた。
「全員お揃いのようですね。」
飛行船の内部から板を歩いておりてきた3人。
「おおー、ここがエルドラド皇国以外の国ですかー。」
ほか2人に比べて背の低い男がそう言って辺りを見回している。
「でも直ぐに出発するぞ?」
見回している男性を落ち着かせるように苦笑い気味でそう言ったもう1人の男。
「また時間ある時に来なよ。今は重要任務中だし。」
最後の一人は髪の色が変わっていたり来ている服がシンプルだが明らかに高級な物と分かる服だったりと印象が変わっているがサリスさんだった。
「さて、もう準備はいいの?」
サリスさんが私たちの後ろにいる国王を見ながらそう聞いた。
「式典などは既に終わらせてある。そちらの時間をとる訳にはいかんからな。」
「そうなのね。じゃあ全員着いて来なさい。」
サリスさんの言葉ですぐに動く人はいなかった。残された男二人もやれやれといった感じで苦笑いしていた。
「サリス先生ー、説明不足だよー。」
飛行船内部に続く板を歩いていたサリスさんに男のひとりがそう声をかけた。
「・・・荷物もって飛行船に乗って。部屋とかは乗ってから説明するから。」
それだけ言うと飛行船の中に消えていった。私はミューダの方を見たあと飛行船内部に続く板を進んだ。そのままサリスさんの後ろを着いていき先程空から見た甲板の上に出た。全員が飛行船内に乗り込んだのを確認すると男の人が手を挙げた。すると小さく振動があり何かが動く音がした。
「そういえば、自己紹介してなかったね。」
思い出したようにそう言った。
「改めて、エルドラド皇国シャルドン皇立学院教師のサリスだよ。知ってると思うけどよろしくね。」
いつの間にかサリスさんの横に移動していた男二人も私たちの方を見て話し始めた。
「同じくシャルドン皇立学院で教師をしているカナルだ。他二人と違って学問の方を教えてる。多分、何処かの授業で会うと思うからよろしくな。」
言い終わるとサリス先生と同じ位置まで後ろに下がった。
「あとは自分ですね。サリス先生、カナル先生と同じく学院で教師をしてますイテツです。皆よりも年齢は下だと思うけど、よろしく!」
1人だけ雰囲気が違うなと思っていたら私たちより年齢の下の子だった。そのことに他の人も驚いたように見ている。
「出航出来ます!」
私たちの後ろの方からそんな声が叫ばれた。そちらを見てみると飛行船の端に立っている人がいた。
「みんな少し揺れるからね。」
カナル先生が手を挙げながらそう言うと下から持ち上げられるように揺れた。
「速度は抑えめでいきます。」
荷物を置いて端の方から外を見てみると既に浮かび上がって移動を始めていた。
「到着までは飛行船内で自由にしてていいからね。荷物はそれぞれ船室に案内するから。」
どこからともなくメイドさんや執事さんが出てきてみんなを案内してくれた。私もミューダと一緒に案内された船室に入った。
「すごいですね。」
部屋に荷物を置いていると部屋にある窓の外を見ていたミューダがそう呟いた。
「見てくださいこれ。」
窓の外にはどんどんと小さくなってい街の景色があった。
「こんなに簡単に空を飛べるんですね。」
「向こうでは初めて見るような光景が広がっていそうね。」
そう言いながら窓の景色をのんびりと眺め続けた。




