エルドラド 11
アルカディア王国での留学を終え、エルドラド皇国に帰ってきていたある日、私は皇城の私室でのんびりと過ごしていた。
「はー、そろそろ仕事に戻らないとなー。」
皇帝にも交換留学を行いたいとラースナー様と一緒にお願いしに行ったのが昨日のこと。多少反対の意見も出たが、他国がエルドラド皇国に持っている印象を話したところ納得してくれた。すぐに国民にも発表され、国外から国の代表以外が来るということで大いに盛り上がった。留学が終わり、休養時期もあと少しということで本来の仕事に戻る準備も始めていたが、これが中々進んでいなかった。
「ん?なんか騒がしい。」
ボーッと積み上げられた資料や本を見ていると廊下の方が騒がしく感じた。
「早く!サリス様を避難させて!」
その叫び声と共に扉が勢いよく開かれて切羽詰まった様子のリャナが飛び込んできた。
「サリス様!逃げますよ!」
そう言われて返す言葉を発するまもなく抱えられてしまった。
「サ〜リ〜ス〜!待ちなさ〜い!」
皇城の中が騒がしい理由がわかった。廊下の先からこちらを最高の笑顔で追いかけてくる皇妃の姿が見えた。
「なるほど。1年の留学で会えなかったから禁断症状が出てると。」
「冷静に分析してる場合ですか!」
リャナにそう突っ込まれた。
「でも逃げきれないでしょ。なら突き出した方が安全じゃない?」
「あんな獣に渡したら大変なことになります!」
おいこいつ皇妃のこと獣って言ったぞ。
「一先ず、皇城から出ないと!」
すると、廊下の先で手を振っているメイドさんが見えた。
「あれ何やってるの?」
抱えられた状態でそう聞いてみる。
「逃げ道の確保です!」
どうやら窓を開けて待機してくれていた様子だった。
「あー、やめといた方がいいよ。その逃げ道。」
「これしか方法はありません!」
「いや、だってあの人の力は・・・」
言い終わる前にリャナは窓枠に足をかけて外に飛び出した。が、窓の先にあったのは街の景色ではなく皇城の廊下だった。
「反転だから。」
ムギュッと柔らかい感触に包まれた私。
「ようやく捕まえた〜!」
私を抱えるリャナごと抱きしめる皇妃。
「お義母さまリャナが苦しんでる。離してあげて。」
「あらほんと。ごめんなさいね。」
器用にリャナだけを解放した皇妃。
「あ〜ん、ようやく抱きしめられた〜。」
子供がぬいぐるみを貰って喜ぶように私を抱きしめながらそういった。
「リャナ、この人の視界内にいる限り逃走は不可能。」
リャナに向かってこういった私だが、抱き上げられて足も浮いてるので全く締まらない。
「まぁ、話もしたかったし。」
そのまま皇妃の私室に回収されてしまった。
「それで、どうだった〜。アルカディア王国は。」
皇妃の膝に乗せられギュッと抱きしめられている私。背中には皇妃の顔が押し付けられている。
「楽しかったですよ。古語について研究している人がいたのは驚きでしたが。」
「あら、そうなの?ぜひ皇国で研究してもらいたいわね。そうすればより詳しく理解できそうなのに。でも、難しいわよね。」
「今度の交換留学が終われば変わると思いますが。」
「聞いたわよ、そのこと。面白いこと考えたわね。長い間どうやって自然に皇国のことを周辺国に知ってもらうか考えていたのに、こんなにあっさりと解決しちゃうなんて。」
「お義母さま達の頑張りがあったからこそ通ったんですよ。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。」
無抵抗にムギュムギュされていると、部屋の扉が開いた。
「サリス様。交換留学についてそうだんしたいこたがあると大臣が。」
「ん。今行く。」
大臣に呼ばれた私は応接用の部屋に通される。
「いきなりすみませんね。大丈夫でしたか?」
「お義母さまといただけだから。大丈夫だよ。」
「私としては大丈夫では無いのですが。」
苦笑いして私を見つめる大臣。
「えっと、交換留学についてですが向こうの国王からも
も正式に申し出が来ました。そこで、何人受け入れるかという話をしたいのですが、考えはありますか?」
「交換留学だから同じ身分の人を1人は連れてきた方が対等だと示せるよね。そう考えると向こうの王子は確定として、あと何人かだよね。婚約者として正式に発表されてる人がいないからそれも考えないといけないし。」
「今の所3、4人がいいのではというのが大臣達の意見ですが、学院の生徒をそれぞれに1人つけるとなると判断が難しくて。」
より効果的にするにはという意味で提案したが、どのレベルの子をつけるかで変わる。その判断が難しいから私に聞きに来たということか。
「私だけだと決定できないから少し待ってもらっていい?」
「ええ、まだ時間はたっぷりありますので問題ありませんよ。」
現状の方針をまとめてある資料を受け取り私室に戻る。積み上げられた資料の山を整理し必要なものだけを鞄に詰めていく。
「よし、あとはこれを・・・。」
机の上に置かれた手紙を開き、連絡事項を書き記す。
「頼んだよ。」
窓を開けて手紙を放り投げると手紙は紙でできた鳥に形を変えて飛んで行った。
「よし、これで向こうにも伝わると思うし考えてくれるでしょ。」
一先ずやるべきことは終わったのでこちらでできる範囲のことをやっておく。
「とりあえず呼んだ方がいいなと思う人を挙げておくか。」
メモ用に置いてある紙を取り出す。
「まずはエスズだよね〜。」
公平な評価に見えるように言葉を選びつつエスズのことを書いていく。次に書いたのは王子のこと。と言ってもエスズと違い人柄や人物像を中心に書いていく。その後数人を挙げていき、最後に名前を書いたのはエリィについて。
「ある意味興味を持つだろうな。」
自らが書いたエリィのことを読み返していると学院の教師が目を輝かせそうな内容だなと思った。エルドラド皇国では治癒の力を持つものは過去に少なかった影響かあまり解明されていないことが多い。学院の先生にも使える人はいるが、それでも分からない事のが多い。
「さてさてどうなる事やら。」
これからのことを思って自然と笑顔になるのがわかった。
「そうだ、迎えに行くのに飛行船使うからその申請しないと。」
ふと思い出して部屋を出る。飛行船の係留施設に向かうと中型飛行船の迎賓仕様を指示があったらすぐに動かせるようにして欲しいと施設長に頼んだ。留学の件は既に広まっていて、その関係だということもすぐに理解してくれたので話はすぐに通った。
「サリス嬢ちゃん今暇かい?少し手伝って欲しいんだがよ。」
施設長が飛行船の状態見に行ったと思ったら直ぐに戻ってきた。
「長いこと動かしてなかったもんでな。汚れやらが酷くて。サリス嬢ちゃんの力なら水で浮かした汚れごっそり綺麗にできるんじゃねぇか?」
「いいけど、大丈夫なの?そんな凍らせちゃって。」
「安心しろ。極寒の山上を飛ぶことも想定されてるんだ。氷漬けになっても溶かせば問題なく動かせるさ。」
豪快に笑う施設長の頭に飛んできた土片が当たった。
「動かす前に分解整備するんだからその労力も考えな。」
「あはは、相変わらずですね。」
呆れたような顔で施設長を見る1人の女性。確か施設長の娘さんだったはずだ。
「まったく。サリス様もこんな親父の頼み聞かなくてもいいですよ。」
「大丈夫だよ。どうせ仕事も明日からだし、今日は暇だったから。」
そんな話をしているうちに整備の人達が飛行船の汚れを浮かしてくれたので水分ごと汚れを凍らせて飛行船から剥がす。
「凍らせたやつはどうすればいい?」
「ああ、こちらで回収するんでそこ置いて大丈夫ですよ。」
用意してくれた桶にまとめて入れる。
「じゃあ、後はいいかな?」
「ああ、助かったよ。いでっ!」
「サリス様、このクソ親父は後で締めておきます。」
「動ける範囲でお願いね。それでもここの施設長だからさ。」
仲がいいのか悪いのか分からないがそんな親子を置いて係留施設を出た。




