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アルカディア29

雲の中を飛んでエスズたちのいる屋敷に向かう。

「それにしても、見事な無形力ですね。」

メールが私に抱えられた状態で隣を飛んでいるリャナにそう声をかけた。

「お嬢様と一緒に練習しましたからね。自分より強いひとと一緒に練習すると成長がすごいんですよ。」

リャナの力は無形力と呼ばれる形を持たない力だ。放出型の人の中で約4割の人はこの無形力になる。特徴として私のような色持ちの力を使う人に比べて力の強さが弱いところがある。だが、色持ちの力と違い力に形が無いためなんでも出来るしどこでも使えるという違いもある。私のような氷を使う力の場合取り込んだ力を氷の結晶として放出するが、あまりに高温の場所だと結晶を作るのに普通より時間がかかる。誤差のような差だが、同じ力量で相手が無形力だった場合命取りになる。

「リャナは防御と移動に特化した無形力だからね。」

「攻め手がないので勝負では不利ですがね。」

リャナは結界による防御とアンカーとリャナが呼んでいる力を残してある場所への瞬間的な移動のふたつに特化して伸ばしている。その延長としてリャナの力が付いていればどんなものでも自由にアンカーの場所に移動できる。

「基本リャナに何かあったら私が飛んでくし防御さえしていれば絶対大丈夫だよ。」

「わかっています。」

しばらく飛んでいると眼下にエスズの屋敷が見えてきた。

「正面から行こうか。」

屋敷の入口前に降り立つと扉を叩く。その音に気がついたメイドさんが扉を開けて顔をのぞかせた。

「あっ、少々お待ちください。」

屋敷の中に通されて玄関で待つよう言われた。メイドさんが小走りでどこかに言ったかと思うと、エスズが飛んでくるように現れた。

「無事でしたか。良かったです。」

「え?どういうこと?」

「いえ、なんにもないです。」

首を傾げていると、モミジさんが歩いて出てきた。

「こら、屋敷の中は走ったらダメですよ。」

エスズの頭に手を当てるモミジさん。

「私は気にする事はないと言ったんですけどね。みんなあなたの事を心配していたんですよ。目の前から人が消えるというのに慣れてないんですよ。」

モミジさんがあの後何があったか色々教えてくれた。

「つまり、私が何かに巻き込まれたかもしれないと思ったわけ?」

「ええ。私は国で見たことあったから特に気にしませんでしたがね。」

「それは、なんか悪いことしたわね。気を使ったつもりだったけど。」

「いいえ、おかげで昔みたいにバタバタした屋敷を感じることが出来ました。」

嬉しそうに笑うモミジさんに安堵した。

「そう、なら良かった。」

一度モミジさんの体調を見たいということで部屋に戻った。結果としては全く問題なかったため、この日の夜はとても盛大に屋敷の人と私たちでパーティが行われた。

翌日。少し早めに目が覚めた私は眠い目をこすりながら身支度をしていた。

「ようやくこの姿にも慣れ始めたな。」

髪の色とメガネをかける変装をした自分の姿を鏡で見ていた。

「ん?」

ふと、廊下を誰かが歩いている気配を感じて扉を開けてみた。

「もう起きてました?」

顔を出すと少し離れたところにモミジさんが立っていた。

「なんか目が覚めちゃって。」

「ふふ、よろしければ買い物に行くので一緒に行きますか?」

「朝の運動に良さそうだね。」

簡単な服に着替えるとモミジさんと一緒に屋敷を出た。私がモミジさんと買い物に行くことは手紙を置いておいたので大丈夫だろう。

「街までは歩いていきます。」

そう言って歩き始めたモミジさん。その横をフワリと浮いてついて行く。

「力使ってるんだ。」

「ええ、こういうとこなら使えると思いまして。」

足の動きをサポートするような感じで力を使うモミジさん。

「少し使うだけでも違うからね。」

私の周りをヒュンヒュン飛び回る結晶を操りながら遊んでいるとモミジさんが話しかけてきた。

「やはり貴族の家の方は力の使い方が綺麗ですね。」

「そう?綺麗って言うのは初めて言われたね。」

「ええ、昔の記憶しかないですが私の知る中ではいちばん綺麗ですよ。」

「嬉しいね。見る人が見ればどういう目的で力を使うか理解されるからそんなこと言われたことないのよ。」

結晶を手のひらの上に集める。

「この力はね、戦いに特化した力なの。」

「戦い、ですか?」

「聞いたことない?皇帝を倒すには皇帝の矛と盾を落とす必要があるって。」

「おとぎ話でなら聞いたことはありますね。」

「その話に出てくる矛と盾は武器じゃない。ある1人の人物を指してるの。」

ここまで話せばモミジさんも理解したようだ。

「まぁ、だから綺麗なもんじゃないのよ。この力は。」

街が見えてきたので結晶を砕いておき地面に降り立った。

「別に嫌なわけじゃないからね。」

雰囲気だけでモミジさんが私のことを心配しているのがわかったのでそう言っておく。

「・・・わかりました。こんなこと私が言うのは失礼かもしれませんが、何時でも相談してください。」

街に入ると通りの両側に屋台が沢山並んでいた。

「すっごい数の屋台。」

その光景に驚いているとモミジさんが町について教えてくれた。

「この辺りは昔から農作が盛んでして、近くを流れる大河のおかげで美味しい物が取れるんです。」

モミジさんはそんな屋台に並んだ野菜を見ながら説明してくれた。初めて見るような物もあり色々見ているとモミジさんがひとつの屋台の前で足を止めた。

「よかった、まだ無くなってない。」

並べられた野菜などを選び始めるモミジさん。私も初めて見る野菜に目を向けていた。

「いらっしゃい、何かお探しかい?」

屋台の裏から野菜が入った箱を持った男がそう言いながら入ってきた。

「お久しぶりですね。」

モミジさんは顔見知りなのかそういった。だが、男の方は気がついていないのか少しモミジさんの顔をじっと見つめた。

「・・・あんた、もしかしてモミジかい?」

「ええ、何時ぶりでしょうか。」

屋台の中から出てきた男はモミジさんのことをじっと見たあと嬉しそうに笑った。

「そうか、よかった。目が覚めたんだな。」

段々と涙声になっていく。邪魔すると悪いと思い私は少し離れたところで見守った。

「心配かけました。」

「いや、大丈夫だ。」

目に溜まった涙を拭うと男は屋台に並べられた野菜を数個袋に入れるとモミジさんに渡した。

「持っていってくれ。俺からの祝いだ。」

モミジさんは返そうとしていたが、押しに負けてしまい困った顔でこちらを見ていた。

「どうしましょうか。」

その後少し話をしてからモミジさんは私のいるとこまで歩いてきた。

「貰っておけば?また買いに行けばいいだろうし。」

大事そうに野菜を持ったモミジさん。その顔には嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。

「さてと、あとは何買うの?」

「私の服ですね。仕事の時に着る服も新しくして気合い入れないと。」

楽しそうにそう話すモミジさん。

「それじゃあ私からも何か送ろうかな?」

そういうと慌てたような反応をするモミジさん。

「そんなことされたら緊張しまくりですよ!」

「あはは、わかってるよ。」

モミジさんがほっとした様な感じで私を見た。

「元々はただの一般人ですからね?貴族様からそんな贈り物されたら逆に困りますよ。」

少し通りを歩き、白と黒のオシャレなお店に入った。

「いらっしゃいませー、あれ!?モミジさん!?」

お店の店員さんが驚いたような声を上げてモミジさんに駆け寄った。

「目が覚めたんですね!良かったです!」

「ええ、これまで色々な人に心配かけました。特に家の方にはね。だから、新しい仕事服で気合い入れて仕事しようと思って頼みに来たの。」

「お任せ下さい!じゃあ早速採寸しますねー。」

あっという間にお店の奥に連れていかれてしまったモミジさん。最初の店員さんの声で裏にいた人も出てきていた。

「すみません、ちょっといいですか?」

近くにいた女性店員に話しかけた。

「あ、すみません。モミジさんと一緒にいた方でしたね。何かお探しですか?」

「あ、いやそういう訳じゃなくて、少しお願いがありまして。」


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