アルカディア28
窓から入ってきた陽の光で私はいつの間にか眠っていたことに気がついた。
「あ〜、よし。」
体を動かして疲労が残っていないことを確認していると、背後から視線を感じた。
「おはようございます。」
振り返るとモミジさんがそう言って頭を下げた。
「体はどう?」
「力は入りませんが、不調では無いですね。」
「それは良かった。」
おそらく無意識だろうが全身に力を流して身体強化を使うモミジさん。
「長いこと眠っていたみたいだけど力の使い方は衰えてないみたいね。」
「えっ?」
首を傾げるモミジさん。
「それ、無意識でしょ?身体強化。」
「・・・分かるんですか?」
とても驚いたような顔をしたモミジさん。
「当たり前でしょ。」
そう言いながら片手をモミジさんに向ける。指先に力を集めれば真球の氷が5つ指先に生まれた。
「どう?」
「ところで貴方は?」
氷の球を体に添わせながら転がしているとそう聞いてきた。
「あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。」
氷の球をポンッと打ち上げると片手で全て掴み取る。
「初めまして、エルドラド皇国出身のリヨン・サリスです。以後お見知り置きを。」
そう言って笑いかける。
「リヨンってまさか・・・。」
「こちらでは家名は隠してますのでサリスとお呼びください?」
「・・・サリスさんはどうしてこちらに?」
「エスズからあなたのことについて聞いた。原因に心当たりがあった。だから来た。まとめるとこんな感じですかね。」
簡潔にまとめただけだが理解はしているだろう。
「私がこうなった原因はなんだったのです?」
「皇国じゃあまずありえない原因だね。力の溜めすぎ。しばらく使ってなかったんじゃない?」
そう指摘すると、使う必要がなかったからと答えた。
「放出型だと自然に漏れてくから問題ないんだけどね。内蔵型特有の症状かな?」
「そんなことがあるんですか?」
「なかった訳じゃないね。内蔵型の小さい子に似たような症状はあったし。話だけは聞いたことあったし。」
国にいれば嫌でも力を使う場面がある。それに周りを覆う力の量が遥かに多いためそれに対抗するために力が使われる。
「話聞いてると昔はエスズたちのやんちゃ止めるために力使ってたみたいだし。使わなくなったから出てきた症状だと思うよ。」
「ならこれからは少し使う方がいいですね。」
「ええ、そうしなさい。それから、この家の人心配してましたよ。早く安心させてあげなさい。」
モミジさんは部屋を出ていった。
「いいよ、もう起きて。」
扉を見ながらそう言うと、リャナとメールが目を開けた。
「どう見た?」
「特に犯罪者というわけでもなさそうですね。力に関しても一般層と同じくらいかと。」
「何処かの貴族というわけでもなさそうですね。」
リャナもメールもモミジさん二後ろめたい過去が無いと見ている。ならば私がやることはもう無いだろう。
「リャナ伝言いい?」
「どうぞ。」
伝えて欲しい伝言をリャナに伝えると結晶を3つ展開しメールを抱えて窓から飛び立つ。
「これからどこに?」
高度を上げながら飛んでいるとメールがそう聞いてきた。
「少し面白いところ。」
速度を上げて雲の中に入る。展開してい結晶を渦を作るように前に飛ばしその中心を更に速度を上げて進む。すると目の前に分厚い雲が現れその中に突っ込んだ。
「メールは初めてだっけ。ようこそ大樹の島へ。」
雲を抜けると目の前には白い雲と青い空だけの世界に浮かぶ巨大な木が生えた島だった。
「ここは・・・。」
「古代エルドラド皇国の人が地表からの避難先として作りだした巨大浮遊島。ここに来れるのは膨大な力を持つ人だけ。その中でも存在を知っているのは私含めて小数だけどね。」
島の端に降り立つと地面からむき出しなっている根っこに座った。
「リャナさんは来れるんですか?」
「来れるよ。私と同じくらいの時にその存在知ったから。」
腕を降って氷の1枚板を出す。そこには先程出てきた部屋とその部屋にいるリャナの姿が映し出されていた。
「そういえば、古代エルドラド皇国と言いましたがその古代って何代前なんでしょうか?」
「約1000代前。」
「1000!?」
メールが驚いてい固まっていると映し出されていた部屋にエスズ達が入ってきた。
『あれ?サリスさんは?』
『お嬢様は出掛けております。今日一日は戻ってこられないそうです。』
『そうなんだ・・・。』
少し残念そうなエスズ。お礼でもしようとしたのかエスズの父の手には箱があった。
『お嬢様からの伝言がございます。』
『伝言?』
『久しぶりの家族の時間に私は邪魔でしょ?ゆっくり楽しんでよ。との事です。』
そこにいた全員が少し恥ずかしそうに静かになった。私がいるということで抑えているのを見抜かれたからだろう。
『では、私はこの辺りで。』
リャナはそう言うと跡形もなく消えた。
「見ていらしたのですか。」
真後ろからそう声が掛けられた。メールは驚いたように振り返ったがどう現れるか予想していたので私はそのまま答えた。
「必要ないと思ったけどね。何かあるかもと思ったし。」
1枚板を消して立ち上がる。
「案内するよ。この場所がどういう場所か。」
メールの手を引いて向かったのは私たちが降り立った場所と真反対の場所。
「こんな大きな池があるんですね。」
陽の光でキラキラ輝く水面を見ながらメールがそう呟いた。
「まだ驚くのは早いよ。」
水面が波打つとそこから勢いよく何かが飛び出した。
「会いたかったよ〜!」
空中から急角度で私に突っ込む人影。落ち着いて横に2歩ほど移動すれば勢いの付きすぎたその人は地面に突き刺さる。
「あ〜ん、惜しい。」
ビチビチと尾ビレを叩くその人。
「毎回同じじゃん。」
「裏を読んだのよ!」
「読めてないじゃん・・・。」
ふんすっ!と胸を張る姿にため息をついた。
「えっと、彼女は?」
「この島を管理してるひと。名前はディーネ。」
「はーい、ディーネよ。はじめましてね。」
半人半魚のディーネ。上半身は人間の女性だが、下半身は鱗におおわれていてヒレになっている。
「それより!何時こっちに根を張るのよ!みんな待ってるわよ?」
「せめて70くらいまでは人間でいさせてよ。」
こちらに来ると毎回聞いてくるので適当に流しておく。
「すぐに帰るし、一時的に避難してきただけだから。」
「あら、それは残念。いつでも歓迎するわよ?」
パッと切り替えたディーネは両手をパンと合わせる。すると私たちの前に綺麗な色をした飲み物が入ったグラスが現れた。
「帰る前に、私の新作よ。味の感想聞かせてちょうだい。」
前からよく飲まされていた新作ドリンクだ。
「また作ったの?」
「やる事ないのよ。他の子からは好評よ?」
一口飲んで見ると今回のは少し酸味のあるドリンクだった。
「新しい路線ね。」
「新作の果物を作ってもらったからね。味も変わったのよ。」
甘いだけだとたくさん飲めないが、これなら程よい味なので2、3杯は飲めそうだ。
「うん。美味しいじゃん。」
リャナもメールも同じように美味しいと言っていた。
「今回は成功ね。」
特にどこかで販売などはしていないので完全に自己満足だが美味しいものを飲みたいということだろう。
「またいつでもおいで。歓迎するわよ。」
私たちの帰り支度を見ながらディーネはそういった。
「何かあったらね。」
メールを抱えて浮かび上がりこちらに手を振るディーネに手を振り返して島から飛び立つ。




