アルカディア17
図書館の奥。私は古文書研究部の部室でエスズを待っていた。ラースナー様には先に伝えておいたが、どうするかは私に任せるとの事だった。
「失礼します。」
しばらくして部屋の扉を開けてエスズが入ってきた。
「こんな部屋あったんですね。」
「部室だよ。古文書研究部のね。」
エスズの前に紅茶を置く。
「さて、どこから話そうかね。」
「まず、私からお話しましょう。その方が信頼して貰えると思います。」
そういうと1冊の手帳を取りだした。
「これは私が前世の記憶を思い出してからすぐに書き起こした物です。」
渡された手帳を見ると、そこには自分が前世で何者だったのかが細かく記されていた。
「なるほどね。病気だったんだ。」
「はい。30代で死にましたが、後悔はありません。」
「うん、いい事だと思うよ。と言っても私たち二人は大学生で死んだけどね。」
冗談を言うようにそう言った。
「大学生って私より全然若いじゃないですか。」
呆然としたような顔で私を見つめるエスズ。
「事故だよ。マンション火災で2人とも逃げ場がなくてそのまま。」
自分より年下の子が自分より悲惨な死を経験していると思ってかなりショックを受けていそうな雰囲気だった。
「まぁ、こうして新しく生を受けたんだし気にしてないけどね。」
「そう、ですか。」
少し私のことを思うような顔で見つめてくるエスズ。
「話戻すけど、今言った通り前世の記憶はある。それで、ゲームの世界なんだっけ?ラースナー様から聞いたよ。」
「知ってたんですね。それじゃあ私がそのゲームの登場人物だということも?」
「知ってる。けど、どういう感じで出てくるのかは知らない。興味もないしね。」
そこで話を切って紅茶を口に運ぶ。
「私は、所謂ゲームの引き立て役。主人公を最後に目立たせるためだけのね。」
ギュッと手を握るエスズ。恐らく自分の未来を知っているからだろう。
「それで?私に何を求めに来たわけ?どうせ、なんか考えてるんでしょ。」
「はい。恐らく私はいつか追放されます。それを阻止して欲しいとは言いません。せめて和らげることはできないでしょうか。」
そう言って頭を下げるエスズ。
「いいでしょう。私の名前を使いなさい。全て私がお願いしたことだとね。ただし、そのことは最後の時までばらさないことを約束しなさい。」
「わかりました。約束致します。」
そう言ったエスズに私は手を差し出した、少し不思議そうな顔をするエスズだが私の手を握るように自分の手を出した。
「必要ないと思うけどね。」
そういうとエスズの手を離さないようにギュッと掴むと、余っている手の爪をエスズ掴む自分の手に突き刺す。
「血の契約。破れない誓いだと思って。」
滲み出た血がエスズの手の甲に飛んでいき紋を描いていく。紋が完成すると溶け込むように消えた。
「さて、私とラースナー様は傍観者に徹するよ。しっかり楽しませてよ。」
エスズの肩をポンと叩いて私は部屋を出た。
「さて、ラースナー様にここからのストーリー聞きに行こっと。」
足取り軽く私は図書館を出ていった。寮に戻れば直ぐに楽な格好に着替えてラースナー様からの通信を待つ。
『お疲れ様、どうだった?』
「大丈夫だと思うよ。私が頼んだことにするように言ったから、最後には全部流れるでしょ。その後は国に連れてけばおしまい。」
『あと何人引き抜くつもり?もう二人目でしょ?』
「これだけ引き抜けば私たちが落としてく技術とか知識の分考えれば丁度じゃない?」
『そういう事にしとくよ。』
諦めたような顔をするラースナー様が容易に想像できた。
『これからは傍観者だっけ?』
「そのつもり。それでさ、ストーリー聞いていい?関わらないようにするには知ってないとダメだし。」
『エスズが助けを求めたってことはこれからシナリオ通りに進むと思っていいだろうね。そう考えると、基本私と一緒にいれば問題は無いと思う。放課後は図書館奥の部屋にいれば会わないだろうし。』
恐らくだが、エスズが何かし始めるのだろう。小説にも乙女ゲームを題材にしたものはあったのでそういうことかなと思いなが聞いていた。
「一人の時はどうするのよ。」
『私と居ない時、だいたいひとりじゃん。』
「・・・言い返せない。」
『まぁ、登場キャラからは離れた方がいいよ。それは覚えてる?』
「大丈夫だと思う。メインのキャラは覚えてる。」
『それでいいよ。』
いい時間になったため今日はここで通信を切った。その後メールから相談したいことがあると言ってきた。
「それで、何かあったの?」
「以前、剣の指導をしたのですが。」
「私と一緒に行った時のこと?」
「はい。その時の指導者の方からもう一度頼まれてしまいまして。1回限りだと約束したのでお断りしているのですが、何度も頼まれてしまって。」
「それで困っていると。」
頷くメール。本来は護衛なのであまり私から離れたくないということだろう。
「本当に手に負えなくなったらまた相談して。私の方からもそれとなく学園長のほうに言っておくから。」
「ありがとうございます。」
学園長宛に簡単だが手紙を書いて学園に持っていくカバンに入れておく。
「さて、明日からは少し注意して行かないと巻き込まれそうだな。」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
翌日、学園長に手紙を渡してから教室に向かったので既にほとんどの子が教室に集まっていた。
「おはよう。さっそく始まったよ。」
席に着くとラースナー様がそう教えてくれた。ラースナー様が視線をチラチラ送る方を見てみるとエリィが俯いた様子で座っていた。
「何があったの?」
「庶民出のお前が聖女だとは認めないって貴族の子達から言われてた。」
「階級主義の国らしいね。」
頬杖をつきながら話を聞いていると、視線を感じたのかエリィが私の方を振り向いた。
「はーい、じゃあみんな揃ったね。」
丁度先生が入ってきた。私はそちらに顔を向けたので、エリィとは目が合わなかった。
「今日の2個目の授業だけど先生の体調が悪いらしくてね。急遽1つ目の授業を2回やることになったからそのつもりで。」
ラースナー様に今日の1つ目の授業が何か聞いてみたところどうやら古語らしい。
「私たちには問題なしかな?」
「めんどくさい事には変わりないがな。」
同じ教室の子達も同じような気持ちみたいだ。
「ほんとだね。」
「受ける意味があるのかとは思うが、他国に残る古語の記録を知るにはいい機会だしな。」
「それ、私がより詳しく調べられそう。」
「・・・そういえばそうだな。本格的に受ける意味が無いぞ?」
正直いうとここで学んだことは歴史や地理以外全て国で学んできている。そこら辺が考慮できないか交渉しても良さそうだ。
「まぁ、後々考えよう。」
先生が出ていったことで活気の戻る教室。次が古語と言うことで数人の女子生徒が私のところにやってきた。
「少しいい?前出された課題の確認して欲しいんだけど。」
「いいよ。見せて。」
それぞれノートを受け取って課題の文をみる。慣れな文字という事で固い字になっているが、特に問題なく文章ができている。
「うん。大丈夫だと思うよ。意味も通じるし、特に読めない字もない。よくできてると思うね。」
「ほんとに?よかったー。辞書とにらめっこして頑張ったんだー。」
「私も。難くて時間掛かっちゃった。」
楽しそうにそう話す姿を見て微笑んでいると、そのうちの一人が「そういえば・・・」と話し始めた。
「私貴族の家じゃないからよく分からないんだけど、エリィが聖女ってどういうことなの?」
「あっそれ私も気になってた。」
色々知ってはいるが、ここで話すのはまずいと思い集まっている子の中で唯一の貴族家の子に話を振った。
「私その聖女っていうのがそもそもどういうものなのか知らないんだけど。」
「えっと、エリィが聖女かどうかはまだはっきりしてないみたいなの。」
そう言って話し始めた貴族家の子に注目が集まる。




