アルカディア10
剣術練習場の隅っこに休憩用のベンチが置いてあったため、そこに腰かけてメールの様子を観察する。
「今日は先日言った通り特別講師として彼女を呼んだ。今日はよろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
先生の声に合わせて集まっていた生徒全員が合わせて頭を下げた。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。あくまで独自で磨いたものなのでしっかりと教わった剣を見るのは勉強になりますから。」
「それじゃあ、いつも通り運動をしたあと軽く打ち合いを見てもらおうか。」
先生達は等間隔に広がると準備運動を始めた。その間にメールが私の方に近づいてくる。
「サリス様。」
「ん?どうかした?」
「少し体を温めるのに付き合っていただけないかと思い。」
「いつも通りでいいの?」
ベンチから立ち上がるとそう言いながらメールを見た。
「はい。それでお願いします。」
メールがバックステップで私から距離を取り剣を抜く。それに対抗するように空中に手を伸ばして掴み取るように手を握る。
「最近やってないからそこまで期待しないでよ。」
空を掴んだ手を振り払うと私の身長と同じくらいの長さのある槍が現れた。
「そう言いながら、1度も届いていないんです。」
飛び込むようにしてきたメールの剣を槍を使って軌道をそらす。軌道をそらされた剣を上手く次の攻撃に繋げてくる。今度は槍の柄で受け止める。バックステップで距離をとるメール。
「なんで見えてない背後の攻撃を防げるのか気になりますね。」
「さてなんででしょうね。」
お互いしばらく見合った後にメールは諦めたように剣を下げた。
「無理ですね。サリス様の防御を突破できるとは思えません。」
「長期戦に持ち込めば問題ないでしょう?」
「サリス様相手にそれは悪手でしょう。」
バツが悪そうにそういうメール。手に持っていた槍を手放すと再びベンチに座った。
「体は温まったでしょう?」
「お陰様で。というかたった2撃でここまで温まるのも異常ですが。」
「それを私に言われても。」
体を回しながら私と話すメールだったが、他の子の準備体操が終わったようなのでそちらに向かっていった。
「2人1組になって。」
先生の言葉で集まっていた生徒はサッと動きグループを作った。
「それじゃあ練習始め!」
一斉に打ち合いを始める生徒たち。木刀同士がぶつかるかわいた音が剣術練習場に響く。
「腰を入れろ!一つ一つの動きを確実に!」
一つ一つが何度も繰り返された積み重ねのようにしっかりとした形を持っている。その中でも個人の癖を伸ばすようにしていて、先生の優秀さが見ているだけで伝わってくる。
「型は染み込んでるかな?」
メールも同じ感想のようで先生とそんな話をしているのが聞こえた。その後打ち合いを終えた生徒達がメールの前に集まる。
「型は素晴らしいと思うよ。意識しなくても体が動いているのは感じる。」
メールの言葉に少し嬉しそうな顔をした先生や生徒達。
「次だが・・・。」
少し迷うような様子を見せるメール。その様子に少し首を傾げると、私の方に振り向いた。
「あの、サリス様。少しお手伝いお願いしてもよろしいですか?」
「いいけど・・・、何するの?」
メールに呼ばれたため近づいていく。
「先生。この部活でいちばん強い子とサリス様を戦わせたいのだが。」
「えっと・・・うちでいちばん強いのは彼です。」
そう言って先生が呼んだのは眼鏡をかけた私より少し背が高い男子生徒。
「お願いします。これから教えることの基準になりますので。」
よく分からないが、戦うということなので挨拶だけしておく。向こうも理解出来ていないようだが返してくれた。距離を取ろうと歩き始めるとメールに呼び止められた。
「サリス様、この剣を使ってください。」
「えっ、ちょっと待って?私に剣を使えって?知ってるでしょ、私の無茶苦茶な剣使いを。こんなとこでやったらみんなに睨まれるよ。」
「ご安心を、サリス様に迷惑は掛けません。」
メールの言葉は真剣だ。少し嫌だが1度了承した以上やりきるしかない。諦めてメールの剣を受け取ると位置に着いた。
「文句言わないでよ!」
右手で剣を抜き左手に持った鞘を持ち直す。擬似的な二刀流で構える私に生徒達がザワついた。
「サリス様、いつも通りでお願いします。」
「どうなっても知らないからね!」
相手の生徒に飛びかかると左手に持った鞘を上から振り下ろした。剣を横向きにして防がれたが、そのお腹に1発蹴りを入れておく。その反動で少し距離を取ると今度は切り上げるようにして右手の剣を振り上げる。僅かに体勢を崩しながらも何とか避けた相手に体を横に回すようにして左手の鞘を振り上げてぶつけに行く。流石は先生がいちばん強いと評しただけはあり、剣で軌道をずらされた。
「サリス様。もう大丈夫です。」
「そう?もうわかったの?」
メールの言葉に出していた剣をしまう。
「今日はこれから型に拘らない剣を使う相手との戦い方を教えましょう。」
メールはそう言って生徒たちを見回した。
「型に拘らない?」
「はい。サリス様は完全に我流の剣です。1度教えてもらいましたが、全く出来ませんでした。」
メールは私の剣の使い方について話し始めた。言いたいことはわかるがその例に私をあげられるのは少し違和感。
「サリス様は片手に剣を空いた方に鞘を持つ戦いをします。剣中心の動きにはなりますが、視界外から鞘の打撃が飛んでくるのでその攻撃でできた隙を付く戦いになるでしょう。」
とりあえずベンチに戻る訳にも行かないので、剣を杖代わりにして待っておく。
「先程を見ていると変則的な攻撃に対応しきれていないというのが現状です。なので、その対処法を教えましょう。サリス様1戦お願いします。」
そういうとメールは私の了承を聞かずに飛び込んできた。
「いきなり攻撃しないでよ!」
とっさの攻撃に何とか反応し、腕に氷を纏わせて剣を受け止める。
「対応できると思ってました。」
腕を振り払いメールと距離をとって剣を抜く。
「まず、知らない相手とは距離を取りましょう。剣を使ってる場合は有効です。」
「へぇ。じゃあ、剣使わない場合は?」
私はそう言うと不自然にならないように詠唱を挟んでメールに攻撃する。
「その場合も一緒でしょう。ある程度距離があれば見切れます。」
飛んできた結晶を避けてから私に近づき剣を振り下ろす。左手の鞘でメールの剣を受けたあと右手の剣を振り上げるが、既に距離を取っており空を切る。
「現状この戦い方をすれば時間は稼げるので、護衛騎士になる方が多いそうなのでおすすめの戦い方です。ただ、範囲攻撃持ちだと厄介ですが。」
「おっりゃー!」
足元の地面を思いっきり踏み抜くと、そこからメールに向かって氷の槍が地面から突き出していく。
「ちょ!?サリス様やってとは言ってません!」
「あれ?」
完全に無意識で使っていた。が、出てしまったものを止めるすべは無いのでメールが剣で受け止めるも力負けして空中に打ち上げられる様子を見ているだけだった。




