アルカディア7
不意にかけられた声に反応すると、そこにはエスズとハーピーがじっと私たちの方を見ていた。
「えっと、羽ぐらいなら触ってもいいですよ?」
「ほんとに!?やったー!」
ハーピーの申し出に喜んでいるセイ。しかし、本当に大丈夫なのかと心配になり聞いてみたが、それくらいなら断る理由もないと言われてしまった。
「それじゃあお願いしようかな?セイも優しく触りなね。」
「はーい。」
楽しそうな声をしているが、ゆっくり慎重にハーピーの羽に触れる。
「はわぁ、フワフワだー。」
少しホワホワしたような表情をしているセイ。
「ほんとにありがとうね。こんなわがまま叶えてもらって。」
「感謝ならあの子に言ってくださいませ。」
セイに羽を触らせているハーピー。だが、その表情は緊張しているような感じで、全身にも力が入っているように感じる。
「なんか、緊張してる?」
私がそう声をかけると、体をビクッとさせたハーピー。
「あ、当たり前です!だって・・・。」
先程まで落ち着いた印象を受けたハーピーだったが、急に慌て始める。
「ポセイドン様が、私の体を触っているんですから。」
その瞬間私は全身が石のように固くなった。
「わぁー!私の事知ってるんだー!でも、今はお母さんからセイって呼ばれてるからそっちで呼んでね!」
「分かりました。セイ様。」
とりあえず、固くなった体をほぐして一旦落ち着く。
「ねぇ?どうしてその子がポセイドンだって思ったの?場合によっては・・・。」
エスズに伝わらないように、エルドラドで使われる古語から発展した言葉で話しかける。寿命の長いハーピーだ少し違ったとしても古語が分かれば伝わるだろう。
「いや、それは族長から聞いたことがあって!」
「族長から?どう聞いたの?」
「わ、私たちが力を貰っている風の精霊を育てた存在とだけ。その時力の一端を感じさせていただいて、その時感じた力と共通だったのですぐにわかりました!」
「なるほどね。はぁ、それなら良かったよ。」
ひとまずこの子がセイを追っていた者たちとは無関係だということが理解できた。
「言わなくてもわかると思うけど、セイのことは秘密でお願いね。」
「分かりました。」
エスズを置いて古語での会話をしていた影響で少し不思議そうに私たちのことを見ていた。
「何かありましたか?」
「いや、何も無いよ。少し話してただけ。セイそろそろ戻るよ。」
いつの間にか授業も終わりの時間に近づいていたのでセイを連れて先生のいる場所に戻った。その後はそれぞれ契約した子を帰して授業は終わった。教室に戻るとみんな帰りの支度をしていたり、部活動の見学に行く準備をしている子がいたりでわいわいしていた。
「ラースナー様は話した通り別れる感じででいいんですよね?」
「そうだね。場所は確か紹介冊子に乗ってたと思うから。」
「はい、りょーかい。じゃあ行ってきます。」
手早く荷物をまとめたあと冊子片手に校舎の中を歩いた。冊子に書いてある説明によると、ホールで演劇を披露するということだったので校内案内図を思い出しながら目的地に向かった。
「っと、ここかな?」
ふと廊下の方に目を向けると何やら人が集まっていることに気がついた。確かこの辺りだと思ったので近づいてみると演劇部と旗がたっているのが見えた。
「席はまだまだ空いてるから興味があったら見ていってよ!」
旗の下で受付をしている生徒がそうやって人を呼び込んでいる。受付に置いてある紙に名前を書いてホールの中に入った。ホールは階段上に椅子が並べられ、舞台が一番下に配置されている。
「まぁ見るだけだし立ってるかな。」
本来の目的が見学では無いことと、そこまで期待もしていないため椅子には座らず、入口近くの壁に背中を預けて時間を待った。やがて、席も満員になり私と同じようにたっている人が数人出始めた段階で入口の扉が閉められ明かりが落とされた。
「さて、どんな演劇なのか。」
腕を組んで、舞台を見下ろす。始まったのは所謂恋愛もの。恋を巡って起こる出来事を描いた演劇らしい演劇だった。だが、演じる役者も全員かなりのレベルがあるのは見ていてもわかる。だからこそこれだけの人が入るのかと勝手に納得していると、隣から声をかけられた。
「どうだったかな?僕たちの演劇は。」
顔を向けるとそこには少し自慢げな顔をした男がたっていた。
「前情報がなかったので、驚きましたわ。まさか、ここまでのレベルだとは。」
「そりゃ良かった。どうかな?君なら演劇部で活躍できると思うんだが。」
「ふふ、ご冗談を。」
「いや、冗談じゃないんだけどな。」
急に真剣な顔をしたその人。
「まじで君ならいい演劇が出来ると思うんだ。演劇部に入って欲しい。」
真面目に勧誘をしていると言うのが伝わってくるが、今のところ全く興味が無い。
「お誘い嬉しいです。が、すみません。お断り致します。」
「そうか。それなら仕方ないな。また気が変わったら部室に来なよ。いつでも歓迎するからさ。」
男はそう言って私から離れる。そんな男にため息を吐いたあと一言伝えるために呼び止めた。
「一つだけ。演劇の改善点です。」
「改善点?」
「ええ。『何処から見ても変わらない演劇』を意識するといいですよ。」
古語で伝えたその言葉を私は男に紙に書いて渡しておいた。それをどうするかの判断は任せる。それだけ伝えると私は荷物を持ってホールを出た。
ラースナー様とは夜話せばいいので、どうしようかとブラブラ歩いていると遠くの方で私のことを呼ぶ声が聞こえた。
「サリスさーん!どこにいますかー!」
明らかに面倒くさくなると判断して目の前に出てきた廊下を曲がってその声から離れた。だが、何故か逃げても逃げても声の距離が離れずそろそろイラつき始めたので柱の影に隠れた。段々と近づいてくる声の主が私の前を通った瞬間後ろから首を掴んで持たあげた。
「何でしょうか?私ならここにいますが。」
「うげっ!」
身長の影響で空中に浮かんでいるその人。
「あっ!サリスさん!ようやく見つけました!実はうちの部活の顧問が探してまして。うげっ!」
この人は自分の状況が理解できていないのか?と思ってしまったが、それよりも先生が探しているとの事だ。なにかあったのかもしれないと思い掴んでいた手を離して案内してもらった歩いていった先にあったのは昨日も来た図書館だった。その奥の方までどんどんと進んでいきやがてたどり着いた扉の奥に通された。
「先生!言われた通り連れてきました!」
「はーい。じゃあ戻っていいよー。」
部屋の中はたくさんの本が積まれ、ほとんど足の踏み場もない。そんな本の向こうから先生と呼ばれた人の声が聞こえる。
「いや、ごめんね?急に呼び出したりして。」
「大丈夫です。それで、何かありましたか?」
「ん?何かって?」
「えっと・・・何かあったから呼んだのでは?」
どうにも先生と話が噛み合わない。
「もしかして、要件何も聞いてない感じ?」
「ええ、先生が呼んでいるとしか。」
私がそう言うと、積まれた本の向こうから深い溜息だけが聞こえてきた。
「何で肝心な要件伝え忘れてるのよ。」
本の隙間から先生が立ち上がるのが見え、姿を見せた。
「昨日ぶりかな?」
本の影から出てきたのは昨日古語を教えてくれていた女性の先生だった。




