アルカディア4
学園内をブラブラ歩きながら部活動の勧誘を適度に躱していると図書館の前にたどり着いた。
「せっかくだし見ていきますか?」
「そうするか。」
図書館は建物1つを占領するほどの大きさで、天井付近までびっしりと本棚に本が詰まっている。天井付近の本をどうやってとるのだろうかと考えていると、本棚に付いたハシゴを登っている人が目に入った。
「飛んだ方が早そうだな。」
「ラースナー様は『飛ぶ』では無く、『跳ぶ』では?」
「そこまで変わらんだろう。」
図書館の中を練り歩いていると、机に向かう1人の女性の姿があった。その脇には高く積まれた本と紙が置いてあった。
「うー、部員を集めないと行けないのにー。」
唸るような声を上げながら紙に文字を書いていくその人へ慎重に近づいて何を書いているのか見てみるとそこにはびっしりと古語が書かれていた。
「うわっ。」
古語を見た途端反射的に反応してしまった。その声に気がついたその人は私たちの方を振り向いた。
「あっ、えっとこれは。」
何故か慌てたように書いていたものを隠す。
「よく古語を書こうと思いますね。私なんて読むだけで頭痛くなるのに。」
あはは、と笑っていると何故か真面目そうな顔で私のことを見てきた。
「ここの言葉、なんて書かれてるか読めますか?」
真面目な顔で差し出された紙には一言だけ古語が書かれていた。
「えっと、『月が沈みし夜』ですかね?あっでも、この『沈み』には『隠れる』っていう読みも今だとあるので、時代によっては異なりますね。」
冷静にそう伝えると、涙目になりながら小さく震えていた。
「ど、どうかしましたか?」
「救世主だ・・・。」
「はい?」
「手伝ってください!」
そんな流れで私とラースナー様は巻き込まれるような形でその女性を手伝うことになった。
「本当にありがとうございます!」
その手伝いが終わったのはそれから数十分後だった。
「いえいえ、今の時代の古語なら普通に読めますから。これくらいなら全然ですよ。」
「まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったがな。」
その女性は完成したものを持って図書館を急いで出ていった。結局なんであんなことをしていたのか聞くことは出来なかったが、翌日驚きの形で再会することになった。
入学式の次の日。この日からは普通の授業ということで、事前に配られていた教材を持ち込んでいた。
「初日1回目の授業が古語とはついてないですね。」
なんやかんやで仲良くなったエリィが私の席の近くでそう言っていた。
「そういえば、古語はもう使わなくなっているんでしたね。」
「随分と昔にね。完全に途切れちゃったらしいの。」
そんな話をしていると、教室の扉を開けて先生が入ってきた。
「授業始めるわよ。席に着いてー。」
全員が席に着いたのを確認してから、黒板に1枚の紙を張り出した。
「これはある有名な話を古語にしたものです。読める子はいるかな?」
先生はそう言って教室を見回した。私たちは読めるが、答えるのは違うだろうと思い答えずにいた。
「まぁ、そうだよね。実はこの古語だけどエルドラド皇国では未だ使われているらしいの。まぁ、噂程度で実際はどうか分からないけどね。」
「へぇ。そうなの?サリス!」
話を聞いていたエリィが不意に私に話を振ってきた。
「ええ、使っているかと言えば使っているよ。ただ、昔とは違う読み方をする古語もあるから完全な状態ではないけど。」
振られた以上答えない訳には行かないので答えたが、そんな私を先生は驚いた顔で見ていた。
「あなた、昨日の。」
「昨日はお互い自分の名前すら言ってなかったですからね。改めまして、エルドラド皇国からの留学生です。名前はさっき出ましたね。サリスです。こっちはラースナー様。」
ついでにラースナー様を紹介しておくと少しムスッとした。
「まさか、エルドラド皇国の方だったとは。驚きです。」
「それはこちらもですよ。まさかこちらに来て古語と出会うとは思ってませんでしたから。」
「それはそうかもですね。さて、授業に戻りましょうか。」
先生はそういうともう1枚紙を張り出した。
「実は古語には今日やる魔力を強化する力があるのではという研究があるんです。」
先生の話にでてきた魔力って何とラースナー様に聞くといわゆる外力の事らしい。よく分からない力だから魔力となっているそう。
「ただ、古語を理解できる人はほとんどいないし、成果が出ないらしいしね。」
そのせいか古語は嫌われているらしい。まぁ、多少理解している私たちですら難しいと感じるのだ。それがゼロからだと余計だろう。
「この学年で教えるのは基礎だからそこまで難しく考えなくても大丈夫。もし学びたいって子がいたら来年も取ってくれればいいからね。」
先生はそういうと黒板に張り出した文字について説明をし始めた。私たちにとっては今更なことだが、勉強で来ているのだからしっかりと写していく。驚いたことに古語の研究は以外に進んでおり、よくここまでと勝手ながら思っていた。
古語の授業が終わると次は魔力の授業ということで私たちは校庭に出てきていた。
「さて、時間になったしはじめるよ。まずはレベル別に分けたいから今から俺がやったことを真似して欲しい。」
先生はそういうと少し離れたところに置いてある人型の人形に向かいあった。何をするのか見ていると小さな声で何かを呟いた。すると、手の平から炎が生まれて人形に向かって飛んで行った。その光景に周りの人が驚きの声を上げている。
「まぁこんな感じかな?出来る子は頑張って欲しい。ここで出来なくてもしっかりと学べばできるようになるからな。」
先生の話が終わると3つある人形に列を作ってみんなが並んだ。次々と挑戦していくが先程のように人形に当てることが出来た人はほんの数人で大体は届かずに消えるかそもそも出ないかだった。そんな中でもエリィを含む特待生は別格のようで先生より強いのではと思ったほどだ。とそんなふうに見ていると先生に後は私だけと言われた。意外と早くみんな終わっていたようだ。ラースナー様と人形の前に立つ。
「なぁ、サリス。人形まで飛ばすとか出来ないんだけど。」
「あー、そういえばそうでしたね。どうしましょうか。」
「先生、直接攻撃してもありですか?」
「ん?人形にか?別にいいぞ。ただ、武器を使った方がいいかもな少し待ってろ、取ってくるから。」
先生はそういうと倉庫に向かおうとしたが私がそれを止めた。
「いえ、大丈夫ですよ。こちらで用意します。ラースナー様どれがいいですか?剣か短剣かそれとも槍ですか?」
「無難に剣でいいよ。」
「了解。」
胸の中心に手を当てると少しずつ体から離していく。手の平と胸を繋ぐように氷の剣を作り出していけば他の人から見れば私が体内から取り出しているように見えるだろう。引き抜くようにして最後まで作りだした剣をラースナー様に渡す。
「後で色々聞かれそうだな。」
「ここで力を見せておけば後々面倒はないでしょう。」
「ま、それもそうだな。」
ラースナー様はそういうと地面を蹴って人形に突っ込んで行った。私も人形に向かって腕を振って三つの結晶を作り出して放つ。ほぼ同時にそれぞれの狙う人形に攻撃が当たった瞬間、爆発音に近い音がなり人形が根元だけを残して消し飛んだ。




