アルカディア46 エスズ
ベッドに寝るラクスさん達の容体を見ながら学院の教科書を読んでいると、寝ていたラクスさんの体が少し動いたことに気がつく。
「意識戻りましたか?」
読んでいた教科書を近くの机に置いて様子を見る。モミジさん達にはベルを鳴らして知らせたのですぐに来るだろう。
「ここは?」
「私の家ですわ。」
学園ではスイッチを入れていたので念の為お嬢様モードで対応する。
「・・・エスズさん?エルドラド皇国に行っているはずじゃ。」
「一時帰国しているのです。領地に戻る途中で見つけたのでこちらまで運ばせていただきましたわ。」
まだしっかりと認識できていないのだろう、ふらふらしている。
「そうだったか。」
体を起こし、しばらくボーッとしていたが、突然ハッとしたように身体を震わせた。
「母様!」
バッと周りを見渡し、ラクスさんの隣のベッドで寝転ぶ女性を見つけて近寄った。しかし、動けるようになったとはいえ、まだ後遺症があるようで大きな音を立ててベッドから落ちてしまった。
「落ち着きなさいませ。解毒剤は飲ませましたわ。」
ラクスさんの体を支えて女性のベッドに座らせる。
「いったい、何がありましたの?」
女性の顔色を見て安心したのか大きく息を吐くラクスさんにそう聞く。
「・・・学園と同じなんだね。家ではその演技やめてるのかと思ったよ。」
ラクスさんがそう言って笑った。
「あら。バレてましたの?」
「これでも演劇部の部長だからね。その辺を見抜くのは自信あるよ。」
バレているならスイッチを入れておく必要も無い。というわけで雰囲気を崩す。
「それで?何があったの?大方予想はできるけど、こんな直接手を下すことはしなかったじゃない。」
「多分、ガーランド家当主は知らないんじゃないかな。」
座り直したラクスさんが話し始めた。
「知っての通り、僕は学園を四年で卒業したあと王立劇団に入団した。」
「そうらしいですね。ちょうど同じ頃留学に出発したので実際に見たことはありませんでしたが。」
ラクスさんは演劇祭に部として参加した時の部長だ。王立劇団に入団していたとしてもまったく不思議では無い。
「それが気に食わなかったんだろうね。僕が劇団の寮に行っている間に兄姉達が母様の食事に毒を入れ始めたんだ。邪魔したかったんだろうね。最初は少し体調を崩す程度だったんだけど、次第に量が増えていった。僕もその頃には寮から母様の住む離れに戻っていたんだ。そんなある日、母様が倒れて、目を覚まさなかった。」
「毒だというのはいつわかったのです?」
「母様の症状を見に来た人が王城に知らせてくれたみたいでね。そこで記録されている毒と一緒だったことがわかったんだ。」
記録されているということは解毒剤もすぐに準備できそうだと思ったが。
「話を聞く限り、わざわざモミジさんに連絡を取る必要はなかったのでは?」
「そうかもね。でも、犯人のいる場所に母様を置いておきたくなかったんだ。だけど、自分のやった事がバレるのを恐れた兄姉達が僕にも毒を盛った。その結果が今だよ。」
口調は柔らかいが、その演技力でも目に宿った怒りは隠せていなかった。
「わかりましたわ。しかし、私たちの家はガーランド家に対抗することはできません。それはお分かりですね?」
「ああ。わかってるよ。」
「なら良かったです。」
ちょうどその時、モミジさんとディーネさんが部屋に入ってきた。
「どんな感じ?」
モミジさんがラクスさんの体を触りながら私に状況を聞いてきた。
「ラクスさんは体にまだ力が入りずらいといった感じです。会話は問題ないかと。そちらの女性、ラクスさんのお母様だそうです。毒を飲まされていたようですが、王城に記録があるものだそうなので、ディーネさんの解毒剤で十分回復すると思います。」
ラクスさんのお母様を見ていたディーネさんが大丈夫といった感じです頷いている。
「なるほど、なら安心ですね。食欲はありますか?」
「無いならドリンクもあるわよ。」
モミジさんとディーネさんが手早く机の上に料理とドリンクを並べる。その時、ミューダが慌てたように入ってきた。
「お嬢様、ガーランド家の馬車が街に近づいてます。」
その知らせを聞き、すぐに私とモミジさんは動く。
「ディーネさん、ラクスさんがすぐに動けるようになるドリンク作ってください。ミューダ、中庭にテーブルセット準備して。」
手早くディーネさんとミューダに指示をする。その間にモミジさんは部屋を出ていった。恐らく何かを取りに行ったのだろう。
「ラクスさん、一芝居お願いします。」
「僕は良いけど、何するんだい?」
ディーネさんとミューダが出ていったので再び私とラクスさんの二人だけになった部屋で手短にこれからやることを説明する。
「簡単に言いますと、貴方の存在自体の重要度を上げます。」
「重要度を上げる?」
「はい。貴方に害をなせばより大きな不利益を受けると示すことが出来れば貴方に手を出すことはなくなると思うので。」
そのタイミングでディーネさんがドリンクを持って戻ってきた。
「これ、飲んでください。動けるようなると思います。」
ラクスさんは飲み物だとは思えない色に躊躇しつつも一気に飲み干した。
「ディーネさんも協力してください。」
「任せて。何やればいい?」
部屋にラクスさんとディーネさんを残して一度屋敷の自分の部屋に戻る。しばらく空けていた筈だが、ホコリひとつ無く、清掃されていた。そんな部屋の棚から1つボードゲームを取り出してラクスさん達が待つ部屋に戻る。
「ディーネさんはこれ分かります?」
「チェスよね?分かるわよ。」
ラクスさんは当たり前に出来ると思うので聞かなかった。二人を連れて中庭に行くと、既にミューダがテーブルセットを準備してくれていた。ラクスさんが座ったところでモミジさんが籠をひとつ持ってきた。
「しばらく食べていないでしょう。こちらをどうぞ。」
モミジさんが持ってきたのは所謂栄養バーのようなものだった。
「お母様の分も入っています。お目覚めになられたら食べさせてください。」
ラクスさんが受け取った栄養バーを食べている横で私とミューダがチェスを行うための準備を進める。
「ディーネさん、そちらでラクスさんとチェスやってもらっていいですか?」
「いいわよ。普通にやればいいのね?」
「はい。ディーネさんとラクスさんが親しい仲だと分かれば容易に手を出すことが出来なくなりますから。」
ディーネさんがラクスさんの向かいに座る。
「ずっと聞きたかったんですが、彼女はエスズさんとどういう関係なんですか?少なくとも人間では無いことはわかるんですが。」
「私?エスズと契約してる精霊よ。」
「精霊・・・」
いまいちピンと来ていなさそうなラクスさん。
「補足すると、水の精霊よ。ホークから聞いてない?レライアで信仰されてる精霊。それがディーネさんよ。」
「水の精霊・・・、以前ホークさんから劇の参考に聞いたことがあったよ。その精霊さんで間違いない?」
「ホークが話したなら間違いないわね。」
私の答えに納得した様子のラクスさん。
「なるほど。確かにレライアを統治するサーベルト家とその地に住む人達が信仰する精霊さん。そしてその精霊と契約しているエスズさんの両方とと仲が良いとなれば何かあった時大事になる可能性があると思わせると。」
「そういうことです。」
ホークの家はアルカディア王国の中で唯一家名が名前の後に着く。ホークの場合は『ホーク・サーベルト』となる。これはサーベルト家がアルカディア王国が出来た時から続く王家以外の唯一の家だからだ。そんなサーベルト家を敵にまわす可能性を持ちながらラクスさんを害するとは思えない。
「感謝するよ。」
「貸一つで助けてあげますわ。」
冗談っぽくお嬢様モードでそう言った。




