アルカディア44 エスズ
だいぶ順番がズレてしまったが、王城での用事を終えた私とミューダは国王が用意してくれた馬車に乗り込んで領地に向かっていた。
「ようやく一息つけるわね。」
馬車の中で靴を脱ぎ、素足の状態で座席に両足をのせる。他の人がいたら行儀が悪いと叱られるだろう。
「必要なことでしたが、大変でしたね。」
ミューダも同じ気持ちなのか、着ていたジャケットを脱いで自分の座る座席の横に綺麗に畳んで置いてある。
「お母様とお父様も色々聞いて来ると思うけど、モミジさんが止めてくれるだろうからそこまで心配しなくても大丈夫だよね。」
「そうですね。ただ、母が止める側になってくれればですが。」
少しばかり怖いことを言うミューダ。
「ん」
ミューダと話していると、私でもミューダでもない声が馬車の中に響いた。
「あっ、起こしちゃいました?」
私は自らの膝の上で眠そうに目を開けたディーネさんに話しかける。
「んん、大丈夫」
重たそうに体を起こし、下半身を上手に折って椅子に座った。
「どうでしたか?」
「なんか安心して眠れた。セイの言ってたことも理解できるわね。」
「なんですかそれ。」
ディーネさんが王城で起こした騒ぎの後、今後起こさないようにするためにと検証に付き合って欲しいとお願いされていたのだ。最初はホークに反対されていたのだが、ディーネさん検証に付き合うことが出来るのは私しかいないと説得して何とか納得してもらった。その一環として、私の膝を枕にしてディーネさんが寝ていたのだ。
「それにしても、時間かかるわね。すぐ着くと思ったのに。」
グッと体を伸ばしながら外を見てディーネさんがそういった。
「この辺りはまだ整備されてませんからね。領地内は整備したのでもう少し、早いと思いますよ。」
「それでもよ。飛ばないの?」
「驚かせるからやめて欲しいって言われてしまいましたから。」
最初は領地まで空を使って移動しようとしたのだが、知らない人が見たら驚く可能性が高いからやめてくれと国王に言われてしまった。なので時間はかかるが馬車を使っている。
「そういうものなのね。」
外の景色を見始めたディーネさん。先程まではディーネさんが膝に居た影響で寝ることが出来なかったので私は目を瞑り休むことにした。
「エスズ寝るの?」
「少しだけ。」
「そう。」
するとディーネさんが先程私がディーネさんにやっていたようにディーネさんの下半身部分を枕にさせてくれた。
「ちょっと冷たいかもだけど。」
「いえ、ちょうどいいです。」
ディーネさんの下半身部分は鱗に覆われているので固いかと思ったが、そんなことはなく低反発な枕といった感じだ。
「着いたら起こしますので、ゆっくりお休み下さい。」
ミューダの言葉に小さく頷いて夢の世界に落ちていく。
ガタンッと急に止まるような音と衝撃で目が覚めた。
「何か、ありました?」
同じ窓の外を見つめるミューダとディーネさん。
「馬車が止まっているんです。」
ミューダの言葉に私も窓の外を見る。するとそこには1台の馬車が不自然に通りの真ん中に止まっている。
「先程すれ違った商人の方から聞いてはいたのですが、お嬢様。あちらの馬車にある貴族章、ご存知ですか?」
ミューダにそう言われ、もう一度馬車を見る。
「あれは・・・確かラクスさんの家の貴族章だったはず。」
しっかりと見たことは無かったが、特徴的な花の貴族章から学園で演劇部の部長をやっているラクスさんの家だとわかった。
「ラクス様でしたか。確か、サリス様とも交流があったはずですね。」
正体がわかったミューダが警戒を解いた。ディーネさんも警戒を解けるようにわざとサリスさんと交流があったと言ったのだろう。
「それにしても、何かあったのでしょうか。」
今進んでいる道をしばらく進めば私の家の領地に到着する。しかし、ラクスさんの家の領地はこちらではなかったはずだ。私の家の領地を通り抜けてその先に行くつもりだったとしても、この場所で止まっている理由が分からない。
「様子を見てきます。」
「ミューダ、これ持ってきな。」
馬車を降りるミューダにディーネさんが即席で作り出した大剣を渡した。
「エスズにも渡しておくわね。」
ディーネさんからいつも使う両手斧を受け取る。
「何も無いといいんですが。」
何時でも大剣を振れるように背負った大剣を掴みながらミューダが馬車に近寄るのを見守る。ミューダが馬車のドアを叩き直ぐに離れる。しばらく待ったが馬車のドアが開く様子は無い。ミューダがこちらの方を見たので私は馬車の外に出て、屋根に登る。何時でも斧を投げられるように構え、ミューダに合図する。その合図を確認したミューダが馬車のドアに手をかけて一気に開く。それと同時に後ろに飛んで大剣を抜く。しかし、馬車からは人が出てくる様子もない。警戒しながらミューダが馬車の中を覗くと慌てたように私の方を見た。直ぐに私もミューダの元に移動する。
「何かあった。」
「中見てください。」
言われるがまま馬車の中を見るとそこには意識なく馬車の中で倒れる人が2人。女性と男性で、そのうちの一人はラクスさんだ
「これは・・・」
一先ず倒れている2人を馬車から運び出し、街道脇に寝かせる。その後馬車を通行の邪魔にならない場所に移動させる。その間にディーネさんが状態を確認してくれている。
「どうですか?」
「んー。とりあえずエスズとミューダ、これ飲んで。」
渡されたドリンクをミューダと一緒に飲み干す。
「なんですか?これ。」
「解毒剤。」
「解毒剤?毒だったんですか?」
驚きながらそう聞き返す。
「多分ね。種類は分からなかったから全ての毒に効く解毒剤を飲んでもらったけど。」
意識のない2人の体を調べながらディーネさんが教えてくれた。
「体調はどう?」
「今のところ不調は無いです。」
体を動かしても特に気になる所は無い。
「そう。なら良かった。」
ディーネさんが先程私たちが飲んだものと同じドリンクを意識の無いラクスさん達に飲ませる。
「後は様子見ましょう。」
そう言ったものの、周辺に家の無い街道脇に寝かせたまま様子を見るのも問題がありそうだったが動かすのも難しく悩んでいると、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「エスズお嬢様?」
振り返ると、そこには見慣れた服を着た女性が。しかし、その顔は私の記憶にある女性の雰囲気をずっと若くしたような感じだった。
「えっと・・・モミジさん?ですか?」
「はい。ミューダの母、モミジでございます。良かったです。分からないかと思いましたので。」
モミジさんの変化にミューダも驚いている。
「お嬢様もエルドラドでお聞きになっていると思うのですが、私たちは寿命が長いので若い姿が長いんです。これまで私はあまり力を使ってこなかった影響かアルカディアに住む人と同じ老い方をしていたんですが、力を使うようになってからは日を追う事に若返ってしまって。」
エルドラドで学んだから分かる。モミジさんの力の制御はかなり上手だ。力を全身に均一に巡らせることが出来ている。
「モミジさん、力の制御上手だったんですね。」
「やはり分かります?さすがはお嬢様。」
モミジさんがスっとディーネさんの方を見た。そして、何故かビクッと身体を震わせるディーネさん。
「な、なによ?」
「いえ、面白いこともあるんだなと思っただけです。まさか、貴方がお嬢様と契約することになるとは思っていませんでしたよ。」
「何もしてないわよ!?」
「何も聞いていませんよ?」
ディーネさんが「あっ」という顔をした。
「えっと、ディーネさんのこと知っているんですか?」
勝ち誇っと様な顔をするモミジさん。
「えっと、知ってたんですか?ディーネさんのこと。」
「ええ。私かエルドラドに住んでいた時、私の家は大規模な薬草畑を運営してたんです。お嬢様は知っていますか?彼女がエルドラドでなんて呼ばれていたか。」
以前ディーネさん自身が水の精霊と言っていたはず。
「水の精霊ですか?」
「そう。それも正解。でも、私たちエルドラド皇国に住んでいた人から言うと、馴染みがあるのは『薬師精霊』の呼び方。」
「薬師精霊?」
「薬の師匠と書いて薬師。文字通り、薬に関してはあらゆる知識を持っていたことからそう呼ばれているの。エルドラド皇国の近くに住んでいることも関係してるでしょうね。」
色々と驚くことを聞くことが出来た。そう思い、ディーネさんの方を見ると何故か真っ赤になって顔を覆っていた。




