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68話「そうだ、ダンジョンに行こう!」



「ここが、ダンジョンかー。人が凄く多いな」



 オラルガンドに到着した翌日、俺はダンジョンへとやってきた。前日の街の散策は特にこれといったものはなく、土地勘のない場所ということもあって宿の周辺に留めておいた。



 尤も、このオラルガンドという都市の規模が相当なものであるため、すべてを見るのに少なくとも十日ほどの日数が掛かるくらいにはこの都市はとてつもなく広い。



 とりあえず、散策を切り上げ夕食と日々の日課を終わらせた後床に就き、翌日起床後朝食を食べたのちにこの街のダンジョンの様子見をしようと足を運んだのである。



 ダンジョンに向かう人の往来は相当なもので、まだ朝の早い時間帯だというのに百や二百で収まらないほどの人数がいた。……千人はいるのか?



 そんなこんなで、ダンジョンに入るための手続きができる受付にやってきたのだが、さっきも言った通りダンジョンに入る人がかなりの人数なため、受付してもらえるまで三十分も待たされることになってしまった。



 受付カウンター自体は複数存在していたが、それでも受付をしようとする冒険者たちの数が数だけになかなか列がなくならなかった。ようやく自分の番になり、受付の女性が声を掛けてくる。



「いらしゃいませませー。こちらではダンジョンの入場受付を行っております。ギルドカードの提示をお願いしますっ」


「これでいいか」



 快活な少女が元気な声で受付業務をてきぱきと行う姿にほっこりしながら、ギルドカードの提示を求められたのでそれに応じる。

 受付の少女は、俺のギルドカードに書かれたランクを見て一瞬目を見開き驚いたが、すぐに平静を取り戻して作業を再開する。



「Cランクの冒険者だったのですねー。てっきり新人の子かと思いましたよー」


「まあ、普通はそう思うか」


「はい、これで手続きは完了です。一応言っておきますが、Cランク冒険者は二十階層までの入場が許可されております。お気をつけていってらっしゃいませませー」


「ありがとう」



 受付手続きが終了したので、少女にお礼を言ってすぐにその場から離れた。ダンジョンの入り口はとても大きく、下手をすると巨人族でも入れるのではないかと思うほどである。



 入口の傍にも冒険者たちの列ができていたので、一体なんなのか見てみたところ、どうやら転移ポータルを利用するために並んでいる列だったようだ。

 この転移ポータルを使えば、一度触れたことがあるポータルに一瞬で跳ぶことができるという便利なもので、冒険者たちの間でとても重宝されている。



「ま、今の俺は一階層にも入ってないから、使っても意味ないけどな」



 今後利用することになるであろう転移ポータルを一瞥したのち、俺はダンジョンの入り口から一階層へと歩を進めた。



 ダンジョンはオーソドックスな洞窟タイプのダンジョンで、岩をくり抜いたように四方を岩壁が覆っている。通路の幅は、六メートルから七メートルとそれなりに広さがあるので手狭に感じることはなかったが、それでも多少なりとも精神的な閉塞感があり、少し嫌な雰囲気が漂っていた。



 視線の先には、岩に覆われた通路がひたすらに続いており、突き当りに差し掛かると左右に分岐路があるT字路となっている。

 どちらに行けばいいのかわからないので、適当に左の通路を選択して突き進んでいくと、ある程度広い空間にたどり着いた。



「モンスターもいるけど、それ以上に冒険者の数が多すぎるな。配信開始直後のMMORPGみたいな状況になってるなこりゃ」



 その空間には、スライムやゴブリンといった低級のモンスターが徘徊しているが、それ以上に冒険者もいるため、発見し次第殲滅されていく光景が幾度も見受けられた。



 前世の記憶にあった、MMORPGというオンラインゲームによくある現象の一つとして、狩り場が混雑するということがあった。特に新しく配信されたMMORPGでは、新規プレイヤーの数が多すぎたために初期の狩り場に出現するモンスターの数が足りず、プレイヤー一人一人にモンスターが行き渡らないという現象がよく発生していた。



 今目の前に起きている光景はまさにそれとよく似ており、少ないモンスターを巡って冒険者たちが小競り合いをしていた。

 ここでは狩り効率も悪いし、経験値的にも大したモンスターではないので、そそくさとその場を後にし、次のフロアへと移動を開始する。



 さらに奥へと進んでいくが、一階層ということもあって冒険者の滞在率が高く、また俺の今の強さに見合うモンスターがいないため、一階層程度では経験値もお金稼ぎ的な意味でも割に合わない状況が続いていた。



 仕方ないので、そのまま冒険者の数が減るまでひたすら奥へ奥へと進んでくと、巨大な扉が見えてくる。

 その手前に冒険者たちが列を成しており、何かの順番待ちをしているようだ。



「なんだ坊主、一人で来たのか?」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


「ここから先は二階層に行くためのボスと戦う部屋だ。お前のような坊主一人で敵う相手じゃない。悪いことは言わないから引き返すことだな」



 俺に声を掛けてきた冒険者に対し、同意するかのように他の冒険者たちも頷いて同意の意志を見せている。

 まだ子供の俺を心配しての言葉だろうが、俺としてはありがた迷惑というやつ以外の何物でもない。



 確かにボスという存在は油断できない相手ではある。だが、この程度の低い階層のボスに苦戦しているようではこの先あの女魔族と再び戦うことになった場合、今度こそ確実に殺されてしまうだろう。



 それにこの街にやってきたのは強くなるためであって、決して遊びに来たわけではないのだ。多少強い相手だろうと戦いの経験を積むために来ている以上、このまま引き返すなどあり得ないのである。



「忠告は受け取っておこう。だが、自分の実力はある程度理解しているつもりだから心配無用だ」


「ちょっと! フォスターがこうまで言ってくれてるんだから、そこは大人しく引き返すのが当たり前でしょ!」



 俺の言葉が癪に障ったのか、忠告してくれた冒険者の仲間の女冒険者が俺に食って掛かってきた。

 見た目通りの強気な釣り目の美人さんで、そんな装備で大丈夫なのかと問い掛けたくなるようなビキニアーマーとレイピアを装備している。もちろんこの大丈夫かというのは性能的な意味ではなく、コンプライアンス的な意味が多分に含まれていることを付け加えておく。



「ん」


「な、なによ」


「俺のギルドカードだ。これを見れば、俺の言っていることが正しいと理解できるはずだ」



 こちらの情報を他人に教えるのは抵抗があったが、それにも増して彼女の囀りがうるさかったので、黙らせる意味も込めて俺のギルドカードを見せてやった。

 俺からギルドカードを受け取った彼女が、ギルドカードを見た途端目を見開き信じられないといった顔を浮かべている。



「Cランク冒険者って。う、うそ。こんな子供がCランクだっていうの!?」


「これでわかっただろ? わかったら少し静かにしておいてくれ」


「こ、このギルドカードは偽物よっ! どうやって偽造したのか知らないけど、冒険者として恥ずかしくないのっ!?」


「そう来たか。おい、フォスターとか言ったか? あんたはどうなんだ? そのギルドカードが偽物なのかどうか、どっちだと思う?」



 若干ヒステリックになりかけてきた彼女を止めてほしいという意味を込めた視線を向けながら、最初に声を掛けてきた冒険者に投げ掛ける。

 相手もその視線に気づいたようで、申し訳なさそうな顔をしながら仲間の女冒険者を宥める。



「それぐらいにしておけマルチナ。ギルドカードは絶対偽造不可能な冒険者の身分を証明する唯一のものだ。坊主の持ってるギルドカードを偽造だと言うのなら、俺たちの持ってるギルドカードも偽造されたものだと言ってることになるんだぞ?」


「そ、それは……」


「すまなかった坊主。てっきり新人かと思っていらぬお節介を焼いちまったようだ」


「問題ない。誰にだって間違いはある。大事なのは、自分が間違いを犯したことを素直に認めて、それに対して謝罪できるかどうかだ。そう思わないか? マルチナとやら」


「うっ。わ、わかったわよ! あたしが悪かったわよ!!」



 俺のジト目に耐えられなくなったのか、とうとう音を上げて手に持つ俺のギルドカードを返しながら謝罪の言葉を口にする。どちらに非があるのかは彼女自身も理解していたようで、パートナーのフォスターが頭を下げたことで余計にこちら側が悪いということを感じたらしい。



「おっ、俺らの番だな。じゃあな坊主。Cランクなら問題ないと思うが、油断はするんじゃないぞ」


「ああ、そっちもな」



 そうこうしているうちに、いつの間にか彼らの番がやってきていたようで、俺に軽く忠告すると二人とも扉へと入って行った。

 それから次に扉が開いたのは二十分後のことで、ようやく俺の番がやってきたみたいだ。



「さて、最初のボスは一体どんなモンスターだろうな」



 ダンジョン初のボスがどんな相手か期待を膨らませながら、俺は大きな扉の中へと入って行った。

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