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67話「やっぱり宿もそうらしい」



「いらっしゃい、夏の木漏れ日へようこそ。坊や、食事かい? それとも泊まりかい?」


「うん、知ってた」



 冒険者ギルドから徒歩で十数分ほど歩いた先にあった【夏の木漏れ日】という宿にやってきた。

 宿に入ると、受付を担当していた女性が声を掛けてきたのだが、その姿を見た瞬間思わずといった具合にそのような言葉が漏れてしまった。



 女性の見た目は三十代中盤でふっくらとした体形をしている。しかし、歳を重ねた経験なのかそれとも彼女自身の持って生まれた気質なのかは定かではないが、女性としての色香は健在だった。



 艶のある長い髪に整った顔立ち、そして男好きする豊満な肢体と形のいい大きな胸は見る者を魅了してやまない。



「何がだい?」


「いや、こっちの話だ」



 俺の独り言に反応する女性だったが、なんとかそれをごまかすと、彼女も接客業務をこなす。



「うちは素泊りで小銀貨一枚、食事付きで小銀貨一枚と大銅貨五枚になるけどどうするんだい?」


「食事付きで五日分頼む」


「あいよ。これが坊やの部屋の鍵だ。二階部屋だよ」



 彼女が渡してきた鍵と交換する形で、宿代の小銀貨七枚と大銅貨五枚と支払う。日本円で七千五百円也。



「坊や、名前はなんて言うんだい?」


「ローランドだが」


「そうかい、あたしはここの女将のヌサーナって言うんだ。よろしくな」


「これから世話になる。ところで、ミサーナとネサーナという名前に何か心当たりはないか?」



 もうすでに名前と容姿の時点でほぼ確定していたが、もしかしたら他人の空似という可能性もなくはないため、今まで世話になった美人女将の名前を出してみた。そして、返ってきた答えは予想通りのものだった。



「それならラレスタの街とレンダークの街にある宿で働いてる、いとこで双子の姉妹さね。二人を知ってるのかい?」


「その街を拠点にしていたときに世話になってな。二人ともヌサーナさんに似て美人だった」


「おや、うれしいことを言ってくれるね。それにあの二人に世話になったなら、うちも頑張らないといけないね」



 そう言って、右腕に力こぶを作りそのこぶに左手を乗せる男らしい仕草をする。見た目の美人さからは想像もつかないほどに男勝りな性格をしているようで、悪く言えばがさつな行動ではあるが、彼女ほどの美人がそういう仕草をすると返って見栄えよく見えてしまうのだから不思議なものだ。



 服装自体も、平民女性がよく身につけるワンピースタイプの服を着崩したように着ており、他の女性がそれをすれば確実にだらしのない格好となってしまう。

 だというのに、ヌサーナのそれは本人の体形とも相まって、寧ろそれが本来の着方とでもいうように似合っているのである。そして、なによりも着崩れた胸元から今にもこぼれ落ちそうな二つの果実がゆさゆさと揺れているのが何とも素晴らしい。



「坊や、あんまり女をジロジロ見るもんじゃない。人によっては嫌な思いをするからね」


「俺がこういった視線を向けるのは美人だけだから何の問題もない。寧ろ、俺の視線をこれだけ奪ったことを誇りに思っていいくらいだ」


「あっはっはっはっは、坊やもなかなか言うじゃないか! 気に入った!!」


「じゃあ、これからよろしく頼む」


「あいよ」



 ヌサーナとひとしきり雑談した後、俺は自分の部屋へと向かった。



 基本的に宿という建物の構造はどこも同じのようで、一階部分に食事処と酒場を兼ねている食堂があり、二階部分に宿泊部屋があるというのが基本だ。

 ところが、オラルガンドはシェルズ王国の中でも一、二を争うほどの大都市だけあって、宿の規模もかなり大きく三階建ての造りとなっていた。



 その分、管理している部屋の数と複数人向けに対応した二人部屋や三人部屋などの部屋も一定数以上あるため、客の人数に合わせた対応がとても充実していると感じた。



 俺が渡された鍵には【205】という数字が彫られていたので、ヌサーナの言った通りおそらくは二階の部屋だということが窺える。

 二階の廊下を進み、ドアに設置されたプレートの中で【205】と書かれた部屋の前で止まった。たぶんここが俺の部屋だろう。



 鍵を鍵穴に通し右に捻ると、ガチャリという音と共に部屋の鍵が開いた。そのままドアを開け、後ろ手で鍵を掛けると、部屋の中を見渡した。

 部屋の内装は特に変わったものはなく、タンスにクローゼット、丸テーブルと二脚の椅子に一般的な成人男性が大の字で眠れるサイズのベッドが設置されていた。



 長年使い込まれているのか、多少なりとも年季が入っているが、手入れを怠っていないようで埃一つなく綺麗に整理整頓されている。

 シーツ自体も、染みや皺一つなく綺麗にベッドメイクされており、まさにプロの仕事と言ってもいい。



「ふむ、さすが冒険者ギルドの紹介だけあって、宿の質はかなりいいな。まあ、今まで泊ってきた宿の中でも最高金額だったし、これくらいはないとおかしいのか?」



 この世界の宿事情に明るいわけではないので、何の根拠もない適当な推測しかできないが、とりあえずこの街では快適に過ごすことができそうだ。

 ひとまず一旦ベッドに腰を下ろし、今後のことについて考えを巡らす。現在問題となっているのが、俺が敗北を喫したあの女魔族についてだ。



 現状あの女魔族の強さがわからない以上、俺との実力差がどの程度あるのかはわからないが、あの女のパラメータがすべてSSだと仮定した場合、まず行うべきは俺自身の強化だ。



 この世界では、身体的なパラメータはあまり重要視されておらず、どちらかといえば身体強化のスキルレベルに依存している傾向が強い。

 ギルムザックたちもそうだったが、最初に出会った彼らは基本的なパラメータは低かったにも関わらずAランクに所属できていた。その要因となっていたのが身体強化だ。



 彼らの身体強化のレベルは、4や5とかなり高い部類に入っていた。それによって自身の能力をブーストすることで、その力を発揮していたのだ。

 ところが、もともとの能力が低いが故にいくら高レベルの身体強化を使用したところで、上昇率はそれほど大したものではなかった。



 今回の俺もそれに当て嵌り、女魔族のパラメータが俺よりも高く身体強化のレベルが同等だった場合、素の能力が高い相手の方が勝つのは道理だ。

 そのためにも、今回の迷宮都市での目的は、俺自身のパラメータの上昇と力量差がある相手に対しての新しい対抗手段を見つける必要がある。



「まあ、まずは……飯にするか」



 そんなことを考えていると、気付けば昼飯時になっており、腹の虫が部屋に響き渡った。

 その音を聞いて苦笑いを浮かべながらも、俺は昼食を食べるべく一階の食堂へと向かったのであった。



 一階に向かい、適当なテーブル席に着席するとすぐに給仕の女の子がやってくる。なんとなくだが、どこかで見たような女の子だったので、いきなり質問してみた。



「ヌサーナさんの娘か?」


「え? あ、はい。ヌーサと言います」


「お前もなのか……」


「なにか?」


「いや、なんでもない。注文は腹が減っているから、ある程度腹持ちのいい料理をお任せで頼む」


「かしこまりましたー」



 俺の注文に元気よく返事をしたヌーサが、厨房に小走りで向かう後姿を見送りながら料理が運ばれてくるのを待つ。

 夏の木漏れ日の食堂は、大都市ということだけあってかなり広々としており、五十人ほどの客が来ても問題なく対応できるレベルの広さがあった。



 給仕をする店員もヌーサだけではなく、愛嬌のあるおかっぱ頭の少女にムリアンクラスの巨乳を持つセクシーな女性店員もいた。

 その他にも数人の女性が忙しく給仕の仕事をこなしており、かなりの賑わいを見せている。



「お待たせしました。どうぞごゆっくり」



 しばらくすると、出来上がった料理が運ばれてくる。料理は野菜たっぷりの具沢山のスープに、肉厚のステーキ、そしてどこにでもある黒パンだった。

 料理自体はよくある献立だが、さすがに食事に大銅貨五枚も掛かっているだけあって、今まで食べた料理の中ではかなりのものであった。



 調味料をよく効かせてあるのかしっかりとした味付けとなっていて、思わずおかわりをしてしまった。

 育ち盛りの体であるため、なんとか食べきることができたが、これ以上食べるとしばらく動けそうになるかもしれないと思い、腹八分目で済ませた。



「よし、食った食った」



 食事が終わると、少し休憩のため部屋に戻る。まだ時間があるため、三十分後ぐらいしてから街を散策する目的で、俺は宿の外へと出掛けることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様の手抜きではないんですよね?
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