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527話「訓練、そして神威」



(くっ、まさかここまでの難物だとは)



 そう思いながら、ひたすらに神気の修行を俺は続けている。



 神気の修行を始めて数千年という時が経過しているというのはゴウニーヤコバーンの言だが、まさかそれほどまでの時がかかるとは思ってもみなかった。



 数千年という時が経過しても、不思議と精神が壊れない。それくらい俺の精神力は強靭ということなのだろうが、改めて俺という存在が人外であると思い知らされる。



 平凡で普通な生活を送っているときには気がつかなかったが、こうして非凡な環境に置かれて初めて俺が普通ではないということが理解できる。



 普段使うことを意識していない力を使うということがこれほどまでに難しいことだとは思わず、内心で焦りと驚きを隠せずにいる。



 それでも、この力を手に入れなければ、再びオファリと出くわしたときの対抗手段がなく、今度こそ殺されてしまうだろう。それだけはなんとしても避けねばならない。



 そんなことを思いつつ、ちらりと盗み見るようにゴウニーヤコバーンの顔を見る。すると、どことなく不満げな表情を浮かべている。



 推測だが、俺がここまで早く神気を扱えるようになったことがご不満なようで、腕組みしながら指をとんとんと鳴らしていた。



 こちらとしては命に関わる死活問題だ。真剣に取り組むべきものであり、手を抜くことはできない。



 そんな恨みがましい視線を受けつつも、少しずつ少しずつ神気をコントロールしていく。



 習うより慣れよとはよく言ったもので、数千年という長い年月同じことをやっていれば嫌でも体が覚えてくる。



(ふむ、こんな感じか)



 体内にある神気を動かす訓練と現在行っている神気の大きさを変化させる訓練は、感覚的に言えば同程度の難易度であり、二つとも神気を扱う上で必要不可欠な基礎であることが窺える。



 何事も基礎が大事という言葉もある通り、最低でもこれができなければ神気を使った神威を使いこなすことはできないのだろう。



 そのために何千年という長期間も修行しなければならないことを考慮すれば、神だけが扱えるというのも頷けることだった。



 ただひたむきに訓練を続けていると、牛歩の速さではあるものの、徐々に神気の扱い方がわかってきたような気がする。



 すでに時間の感覚がなく、一体どれくらいの年月が経過しているのかは定かではない。しかしながら、着実に目標に向かっていることは確かなので、このまま訓練を続行する。



「ふんっ、神気の大小変化も体得してしまったか」



 そう言われて目を開けると、そこには面白くないといった様子のゴウニーヤコバーンの姿がある。彼の態度からどうやら、今やっている訓練も形にはなったようだ。



「では次だ」



 それから、体の周囲に神気を纏う訓練や掌や脚に神気を溜め、それを攻撃として繰り出す訓練等々、訓練内容がより実戦的なものへと変わっていく。



 当然だが、より実戦的な訓練になったことで難易度も格段にアップしており、まともに動けるようになるまでさらに多くの時がかかった。



「はっ、ていっ」


「肉体と神気の移動が甘い。もっと流れをスムーズにするのだ」



 そして、いつからかゴウニーヤコバーンを相手に組手をするようになり、彼の直接の指導が入るようになった。



「まさか、僅か二万年程度でここまで神気を使いこなすようになるとはな。吾輩の見立てでは五千年で挫折すると思っていたんだがな」



 と言いながらゴウニーヤコバーンが“ガハハ”と笑う。かと思えば、急に真面目な表情へと変わり、シリアスな展開になる。



「それにしても、転生者というのは底知れぬ力を持っているようだ。二度の人生を歩んだことで、これほどまでの忍耐力と精神力を身に着けることができるとは思わなんだ」


「他の転生者がどうか知らんが、この訓練法は俺に向いていたらしいな」


「お主、本当に人間か? 神の生まれ変わりかなんかではないだろうな」



 などと訝しげに問うてくるゴウニーヤコバーンであったが、そんなこと俺が知るはずもない。



 結局のところ俺が何者なのかということについてはうやむやになり、さらに訓練を重ねていく。そして、まともに神気を扱えるようになったところで、いよいよ神気を用いた秘術である神威の習得に移る段階となった。



「これより神威の習得に入る。といっても、今までの訓練のようにあれをしろこれをしろという具体的な指示はない」


「どういうことだってばよ?」


「これはあくまで吾輩の経験論だが、神威は使い手が変われば、その内容も異なってくる。誰かと同じ神威を使う者に吾輩は出会ったことがない。故に、お主が使う神威は他でもないお主自身の手で生み出さなければならないのだ」



 つまりこの先の訓練とは、どういった神威を使うかということを考えていかなければならないということであり、それは他でもない俺自身で決めなければならないということらしい。



 まったくなにも手掛かりがない状態で無から有を生み出すということであり、ここにきて創作をすることになってしまった。



「まあ、時間は無限にある。精々、自分に見合った神威を見つけるがいい」



 そう言いつつ、俺に背を向けて座り込み、神界には不釣合いなノートパソコンをカタカタと音を立て始めた。



 最初見たときは何事かと思ったが、話を聞いてみると、どうやら地球にある【小説家をやろう】というWeb小説投稿サイトに俺をモデル……というか俺そのものを題材としたノンフィクションの異世界ファンタジー小説を投稿しており、なかなかの閲覧数を獲得しているようだ。



 もちろん、ノンフィクションというのは俺の視点から見たものであり、小説を閲覧している読者からすれば数多くある異世界ファンタジーもののWeb小説作品の一つで内容も創作……所謂フィクションに過ぎない。



 初めてその話を聞いたときは、神が一体なにをやっているんだと呆れたが、神威を教えてもらっている手前強くそれをやめろと言えず、そこそこに人気の作品のようで、最近ではランキング上位を獲得しているようだった。



 それもまたやめさせるには難しい状況となっていて、いくつかの出版社からも書籍化の話がいくつか来ていたりするのだとゴウニーヤコバーンは自慢げに語っていた。



 俺としては人が必死で生きてきた内容を勝手に作品にするなと言いたいところだが、きらきらとした顔の彼を見て、やめてくれとも言えず、事後報告的に追認するしかなかった。



 そんな一幕がありつつも、俺は自分が使う神威について真面目に考えることにした。

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