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522話「最後の貴族」



 ~ Side クローマク公爵 ~


「一体どうなっているのだ!! 何故、他の連中と連絡が取れなくなっている!?」


「わ、わかりません」



 申し訳なさそうに眉を寄せる使用人に、ただただ私は奥歯を噛みしめる。



 一体何が起こっているのか、その全容が判明しないまま、他の貴族たちとの連絡が途絶えた。



 私はクローマク公爵。このシェルズ王国で有数の貴族の一人である。その権力は他に追随を許さず、例え国王や宰相であろうとも私を無碍にすることはできない。



 そんな力を持つ私だが、最近私を苛立たせる出来事が起きた。なにかといえば、英雄の出現である。



 魔族を撃退し、さらにはスタンピードまでおさめたという無類の強さを誇った存在。名はローランドといい、聞けばまだ成人すらしていない少年だという。



 そんなぽっと出の小僧に、デカい顔されるなどあってはならない。そう思い、いろいろと手を回そうとしたが、国王の手によって早々に釘を刺されてしまう。



 いくら私が力のある貴族であっても、国を治める王家に逆らうことなどできず、手をこまねいてみているしかなかったのだ。



 しかし、そんな悶々とする日々を送っていたその最中、千載一遇の好機が訪れた。小僧の口利きで一人の冒険者が貴族になるという話だ。



 ならず者の冒険者風情如きが我らと対等になろうなどおこがましいにも程があるが、かの者が積み上げてきた功績を考えれば、反対することは難しく、甘んじて受け入れるほかなかった。



 だが、これは逆を言えば小僧の顔を潰すまたとない機会だ。小僧の口利きで貴族となった冒険者を亡き者にすれば、当然その責任の一端は小僧にもある。実力のない者を貴族として取り立てた末路として国王にすら大きく出ることができる。そう考えた私は、さっそく派閥の人間に指示を出し、冒険者上がりの貴族の抹殺を指示した。



 しかし、いつまで経っても抹殺成功の報告が上がってくることはなかったのだ。それどころか、抹殺に加担した貴族たちの連絡が途絶え、とうとう残ったのは私とヴァストール伯爵家とベラモス侯爵家の三家となった。



 そして、つい先刻その二家との連絡も途絶えており、これでクローマク公爵家は孤立したということになる。



 なぜだ? 一体どこでなにを間違った。最初からあの少年と関わらなければよかったとでもいうのか?



「も、申し上げます!」


「なんだ騒々しい」


「賊が侵入しました」


「なに?」



 そんなことを考えていたそのとき、狙ったかのように賊が侵入してきたという報告が入る。詳しい話を聞けば、相手は一人でまだ成人していない少年らしい。



「まさかとは思うが……」


「い、いかがいたしましょう?」


「おまえたちは別室にて待機しろ。なにかあれば、私の合図とともにやつを殺せ」


「わかりました」



 さて、あの小僧が一体なんの目的でこちらに来たのか見極めなければなるまい。暗殺者を送り込んだことに対する報復措置でも企んでいるのか、それとも私が知らないそれ以外なにかがあるのか。どちらにせよ、鬼が出るか蛇が出るか、この目で確かめさせてもらおうではないか。









「よく参られたなローランド殿。と言いたいところだが、私とて暇な存在ではない。用向きを聞こうか」



 私の目の前にいるのは、どうみてもただの少年だ。多少不遜な態度で癪に障るが、これでも国王や宰相と浅からぬ縁を持っており、高圧的に出るのは得策ではない。そして、なによりも魔族を退けるだけの実力があり、こちらの全戦力を投入したところでどうにかできる可能性は低いだろう。



 であるならば、その用件を聞き出し、できるだけ早急に帰ってもらう方が事を荒立てなくて済む。そう思い単刀直入に問うてみた。しかし、返ってきた答えは、衝撃的なものであった。



「なに、大したことはない。公爵には眠ってもらいたい」


「眠るだと? それはどういうことだ?」



 眠るとは一体どういうことだと訝しむ私に、かの少年はさらに言葉を続ける。



「眠れば夢を見るだろう。夢から覚める頃にはまともな人間になっているはずだ」


「まるだ今の私がまともでないというような物言いだな」


「実際そうだろう?」



 なるほど、今の言葉で得心がいったわ。他の貴族との連絡が途絶えたのは、十中八九この小僧が関係している。そして、最後の仕上げとして私のもとへやってきたということか。



 国王の差し金か、それともこの小僧の独断なのかはわからないが、私の味方を排除し孤立させられた上での行動なのはなんとなく理解できた。



「であるならば、ささやかな抵抗をさせてもらおう。仕事だ!」



 もはやこれまでとばかりに、控えていた護衛に指示を飛ばす。しかし、その程度のことなどなんでもないとばかりに襲い掛かる護衛を無力化していく。



 やはり魔族を退けたというのは本当らしく、瞬く間に護衛たちが大人しくなっていく。



「もういい加減諦めろ」


「そうはいかない。長き年月をかけ、ようやくここまで辿り着いたのだ。貴様のようなぽっと出の小僧に、私の野望を打ち砕かれる謂れなどない!」


「……」



 私の勢いに押されたのか、それ以上小僧が口を挟むことはなかった。それを好機と見た私は、小僧にある仕掛けを施す。それは、我がクローマク公爵家に代々伝えられている秘術であり、このことは歴代のシェルズ王家すら知らない我が家の秘中の秘であった。



「今こそ我がクローマク公爵家の秘術を使うとき。この私に逆らったことを後悔して死ぬがいい!」



 そう高らかに宣言した私は、あるものに魔力を込める。それに反応するように小僧の足元に魔法陣が出現し、次の瞬間には小僧の姿はどこにもいなくなっていた。

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