516話「プロトの報告とグリードの潜入」
「侵入者?」
「そうですムー」
領地改革を行っている最中、プロトから侵入者がいたという報告を受けた。
実際に対処したのは、プロトの管理下にあるゴーレムで、あっという間に捕縛してしまったらしい。
そのあと拷問……もとい、詳しいOHANASHIを聞いたところ。ある方からの命令でギルムザックを暗殺しようとした刺客だということがわかったため、そのまま処分したという話だ。
「……なにをしたんだ?」
「ムー? 頭と胴体と下半身の三つに分けて、そのまま森の中に捨てて――」
「オッケー、わかった。もう言わなくていい。それから、そういったことをする前に俺に報告してくれ」
「わかりましたムー。これからはそうしますムー」
どうやら、うちのマスコットは過激なことを躊躇いなくやるらしい。誰に似たのやら。……言っておくが、俺じゃないぞ?
とにかく、プロトの過激な行為はこの際どうでもいいとしてだ。問題はギルムザックに対して刺客を差し向けてきたことである。
どの分野においてもそうだが、優秀な新参者というのは今まで活躍していた人間からのやっかみを受ける立場にある。どれだけ功績を上げようとも、どれだけ組織に貢献しようとも、それを自分以外の他の人間にやられるのは面白くないのだ。
ましてや、貴族の社会ともなれば、面子や矜持のためだけに人を殺すことも珍しくなく、そのためになんの罪もない人間が犠牲になってきた歴史も存在する。
だからといって、それを黙って見過ごすなどできるはずもなく、念のためギルムザックの身辺を警戒していたが、まさかこれほど早く暗殺者を送り込んでくるとは思っていなかった。
「で、OHANASHIをしたということは、誰の差し金か聞いたんだよな?」
「もちろんですムー。黒幕は、この国の男爵家の当主らしいですムー。確か、カマセイ・ヌー男爵と言っていましたムー」
「カマセイ・ヌー……かませ犬かよ。なるほどな」
黒幕の名前を聞いて納得したようなしてないような複雑な心境だが、ともかく先に手を出してきた以上、こちらとしても相応の対応をしなければなるまい。
「プロト。今度やつらがやってきたら、一人を残して全員捕縛してくれ」
「八つ裂きにしなくていいのですかムー?」
「過激だな! いいから、一人を残すんだ。それから、侵入者が来たらすぐに知らせるように」
「……ご主人様がそう言うのなら、わかりましたムー」
なんでちょっと不服な感じなんだ? もし、アドベルト領の噂を聞いてやってきた流民だったらどうすんだ? 妙な噂が立ったらまずいだろうが!
そんなこんなで、プロトに指示を出してから数日後、再び侵入者が現れたという知らせを受け、俺は現場へと向かった。
――――――――――――
~ Side グリード ~
「ここが、ミステット平原だと? 馬鹿な、なにかの間違いだ」
ミステット平原に差し向けた部下が戻らないことを不審に思ったグリードは、自ら直接ミステット平原へとやってきた。もっとも、自分の意思ではあるものの、雇い主にせっつかれて仕方なくといったところではある。
そんな彼がミステット平原の現状を目の当たりにして、小声とはいえ声を出して悪態を吐いた。
彼を知る者ならば、珍しい光景だと評したであろうその姿は、幸いなことに誰にも見られてはいない。そして、すぐさまここが気を抜いていい場所ではないことを理解したグリードは、完全仕事モードへと移行した。
「すべての魔力を感知せよ【マジックセンサー】。……なるほど、部下が戻って来ないわけだ」
魔力を感知する魔法を使い周囲一帯を調べてみると、闇包まれた夜だというのに、あちらこちらに魔力の塊が蠢いている。それをグリードは鋭敏に感じ取った。
(生き物ではないな。人型の大きさだが、魔力に癖がない。おそらくは、ゴーレムかそれに準ずる魔法生物だろう)
感じ取った魔力からグリードは魔力の塊の正体を看破する。だが、いくら正体を見破ったところで、それを打開する手は決して多くはない。
そもそも、ゴーレムというものはその分野に精通している専門家や研究者ですら一体生成するのにも苦労する代物であり、ましてやそれを身辺警護に使うなどあり得ないことである。
ただ純粋に歩かせたり、単純な命令を与えて動かしたりすることは不可能ではないだろう。しかし、ここにいるゴーレムたちは明らかに異質な存在であった。
まず、その異質さが垣間見れるのはその知性だ。というのも、グリードがゴーレムを観察している過程でモンスターが街へと近づいていたことに気づいた。しかし、それは瞬く間にゴーレムたちによって瞬殺され、何事もなかったかのように警護に戻るという光景を目の当たりにしたのだ。
かと思えば、酔っぱらった街の住人を保護し、住居まで送り届ける姿も目撃しており、それだけで敵と味方の認識ができているという証拠になる。
(これほどまでに高度な命令を遂行するゴーレムは見たことがない。一体ここでなにが起きているのだ……)
そんな異常な光景を目の当たりにしたグリードは、今回の任務がとてつもなく困難なものであることを自覚する。だが、だからといって彼もプロの暗殺者である。標的の警護が厳重だからといって諦めて帰ってきましたなどと雇い主に報告すれば、それこそ雇い主の手によって自分が抹殺されてしまわれかねない。
グリードが生きて帰るためには、与えられた任務を遂行するという選択肢以外ないのである。
「影よ、我が身を包め。【シャドウカーテン】」
魔法を使って、自身の姿を影に変貌させたグリード。これならば、姿を視認されることはない。しかし、警護しているのは魔法生物であるゴーレムであり、魔力感知という点においては人間よりも優れた存在である。
「魔力隠蔽。すべてを覆い隠せ。【ハイディング】」
それを理解している彼は、すぐさま魔力隠蔽を行うための魔法を使い、自分の魔力を悟られないよう覆い隠した。これで姿も見えなければ魔力を感知することもできない状態となった。
(これで問題ないはずだ。さて、行くか)
暗殺者としての能力を駆使し、ゴーレムの警戒網を掻い潜ったグリードは、目的の人物がいるであろう城へと潜入することに成功した。だが、彼にとってそれが地獄への片道切符だったことを他でもない彼自身が知ることになる。
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