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515話「動き出す悪意と刺客の末路」



 ~ Side ????? ~



「馬鹿な! こんなことがあり得るはずがない!!」



 そう言って、なにかの書類を床に叩きつける男がいた。そんな行動を取っても男を非難する者がいないところを鑑みるに、彼がそれなりの身分の人間であることがわかる。



 ローランドがかつてのミステット平原……現アドベルト領に中規模の都市を築いてから数日後、男のもとにある報告が入ってくる。それは、先刻準男爵の位を与えられた元冒険者の男を監視する配下からの情報であった。



 貴族界隈では新たに貴族に加わった人間を疎ましく思う傾向が強く、特に爵位と領地だけを受け継いだ所謂ボンボンによくあることだ。自身の無能さを棚に上げ、爵位を与えられるほどの優秀な人材を疎むというのは、貴族の世界だけでなくどの世界においても一定数存在している。



 報告書では、突如として石畳に包まれた巨大な都市が出現し、すでに人の入植が始まっているというとんでもない内容であり、一体なんの冗談だと言いたくなるようなものであった。



 そのため男が取った行動が必ずしも悪いとは言い切れないのだが、配下が調べた内容を無下にするという意味においては、あまり褒められたものではないのは確かである。



「はあ、はあ、はあ。おい、グリードを呼べ」


「か、かしこまりました」



 ひとしきり暴れた男は、ある人物を呼ぶよう使用人に命令する。それは、彼が雇う暗部の長であり、一流の暗殺者でもある人物だった。



「お呼びだとか」


「今すぐやつを殺せ!」


「……やつとは?」



 グリードと呼ばれた男は、雇い主の依頼に困惑した。いきなり“やつ”と言われても、標的が誰なのか聞かされていない以上、雇い主が言う“やつ”がわからなかったのである。



「ミステット平原一帯を開拓中のあの平民上がりの男だ!」


「よろしいので?」


「構わん。死んだところで、モンスターの餌食になったと思われるのがオチだ」


「……承知した」



 男の投げやりな言葉に、内心では納得のいかないグリードであったが、雇い主の言葉は絶対であり、逆らえば今度は自分が抹殺の対象になりかねないことを理解しているため、彼は不承不承な態度を隠しつつ男の命令を承諾する。



 すぐにその場をあとにした男は、すぐさま自分の部下を呼び寄せた。



「今回の任務はどのような?」


「ある人物を殺せという指示だ」


「どこのどいつで?」


「最近新たに貴族になった男だ。場所はここから東にあるミステット平原というところだ」


「辺境じゃないっすかー」


「とにかく、いつものように三人一組で任務を遂行しろ。行け」



 部下に今回の任務を説明すると、不満を口にする者もいたが、それも雇われの暗殺者という立場上雇用主には逆らえないことも理解しているため、グリードの言葉にすぐさま行動を開始した。



「ふん」



 そんな部下の姿を見届けたグリードは、今回の仕事もつまらないものだと一つ鼻を鳴らしたが、彼はまだこの任務の過酷さを理解していなかった。



 そして、そのことを理解し始めたのは、任務に向かったはずの部下たちの消息が絶たれて数日後のことであった。





 ――――――――――――――――――





「今回の任務ちょろいな」



 そう口にしたのは、グリードの説明に文句を言っていた男であった。そんな様子の彼を気にすることなく、同僚の暗殺者は淡々と返事をする。



「仕方ないだろ。これが俺たちの仕事だ」


「おい、無駄口を叩くな。そろそろ目的地に着くぞ」



 二人のやり取りを止めるように、もう一人の同僚が口を開く。だが、すでに彼らがアドベルト領に足を踏み入れた時点で、補足されていることなど知る由もなかった。



「ここが、辺境のミステット平原だと?」


「馬鹿な。なんだあの都市は? そして、なぜこんな辺境に城がある」


「すげぇ、王都やオラルガンドとまではいかないけど、それの次くらいの規模はありそうだ。娼館あっかな?」


「いや、そんなことよりも今は任務を遂行するのが先だ。あの城が領主のいる場所だろう。すぐに向かうぞ」


「ムー」



 十数日の旅程を経て、ミステット平原にやってきた三人組がまず驚いたことといえば、そこに中規模の都市が建設されていたことだ。聞かされていた話では、ミステット平原はシェルズ王国の東に位置する辺境の場所であり、そこには街どころか人工的な建物一つすらないということであったのだが、実際に目にしたものは、しっかりと整備が行き届いた都市であった。



 王都や大都市オラルガンドと比べれば規模自体はそこまで大きくはない。しかし、規則正しく並べられた石畳と整備された街並みは、彼らが見た中規模の都市の中では群を抜いていることは間違いなかった。



 そんな光景に呆気に取られていた三人だったが、本来の目的を思い出しさっそく任務を行おうとした。だが、同僚から返ってきた言葉は珍妙なものだった。



「なにをふざけている。城に潜入する――」


「ムー」


「な、なんだこいつは!? いったいいつの間――ふがっ」



 男が見たものは無機質な岩の肌を持った俗に言うゴーレムであった。暗殺者として鍛え上げられた彼らは、気配に関しては敏感であり、なにかが近づけばすぐにそれを察知できるほどの能力は持ち合わせている。だが、もともと気配のない存在に対しては、彼らの能力をもってしても、その存在を察知することはできなかったのである。



 同僚が口を塞がれた状態で拘束されている姿に目を見張って驚いたが、次の瞬間男の背後から手が伸びてきて、すぐに同僚たちと同じ状態になってしまう。



 振りほどこうにもその力は強く、人間の力では抗えないほどであった。そして、そのままどこかへと連行された三人組が最後に見た光景は、感情のこもっていないいくつもの瞳と“ムー”というなんとも珍妙な鳴き声であった。



 それ以降彼らの姿を見た者はおらず、アドベルト領の奥地にあるモンスターが生息する領域で成人した人間の骨三人分が発見されたが、以前ここにやってきた冒険者か難民だということで片づけられた。



 辺境の領主を暗殺する任務を帯びた三人は、その任務を果たすことなく、人知れず闇へと葬り去られてしまったのであった。

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