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514話「家名の決定とライフライン整備」



「というわけで、もっと人を寄こしてくれ」


「それは構わないが、あの者の家名を決めておらぬ」


「ああ、そういえばそうだったな。じゃあ、決めてくるから少し待っててくれ」



 あれから、領地開拓に勤しんだ俺は、国王に報告をする。まだそれほど時間が経過していないにもかかわらず街ができているという事実に訝しい態度を示す国王であったが、俺の言っていることが嘘でないと理解した途端呆れた顔を浮かべた。



 新たに街ができたのであれば、その土地の調査員を派遣する決まりがあるらしく、近日中にミステット平原に人を寄こすそうだ。



 それはそれとして、ここで肝心なことを決めていなかったことに気づいた。なにかといえば、ギルムザックの家名である。



 爵位と領地は与えてはいたが、具体的な家名を決める話が出ていなかったのだ。周囲の貴族たちは、平民の成り上がり者であるギルムザックを疎ましく思っており、そんな細かいことを指摘する人間はおらず、俺や国王はまったく思い至らなかった。



 執務を取り仕切る宰相のバラセトに言われて、初めてギルムザックの家名を決めていなかったことに気づいたのである。



 そんなわけですぐさまギルムザックにお伺いを立てるべく、彼に聞いてみたのだが……。



「なんでもいいです。師匠が決めてください」



 という特になんとも思っていない答えが返ってきた。



「じゃあ、冒険者という意味からとってアドベルトで。今日からおまえは、アドベルト準男爵家の当主だ」


「アドベルト……いいですね」



 といった具合に、ぱっと思いついた名前を口にすると、意外にも気に入ってくれたようで、しきりに頷いていた。ギルムザックの了承も得たことで、返す刀で国王のもとへ戻り名前を告げた。



「わかった。アドベルトだな。俺も気にかけておこう」



 俺の隠れ蓑となる貴族ということで国王も気にしておいてくれるようだ。



 こうして、手続きはその日のうちに完了し、翌日には新たな貴族家が誕生したことが告知された。



「じゃあ、俺はこれで失礼させてもら――」


「ああ、やっぱりいた。師匠、たまには模擬戦の相手をしてくださいよ!」


「ハンニバルばかりずるいですわ。ローランド様、私ともお話してください」



 そこへやってきたのは、自称俺の弟子を名乗る近衛騎士団長のハンニバルとシェルズ王国第一王女のティアラだった。



 いつもはすれ違うことが多いのだが、残念ながら今回は長居し過ぎたようで、二人に捕まってしまったのである。



 結局、二人の相手をすることになってしまい、俺が帰ることができたのは、昼を過ぎてからであった。



 そんな一幕があったものの、再びミステット平原ことアドベルト領へと舞い戻ると、そこには街が建っていた。



 ただ建物が乱立するようなものではなく、しっかりとした石畳に包まれ、モンスターの攻撃に耐えうるだけの高い石壁もあり、とてもではないが先日までそこが平原だったとは誰も思わないほどだ。



 ただ、惜しむらくはまだ人の入植が住んでいないため、ほとんどの建物が空き家となっていることである。



 あれからいろいろと考えた結果、噴水がある中央部の周辺には役所などの公共施設となる建物を集中させ、その外縁部に居住区を設けるという方法を取ったのだ。



「よし、ライフラインにも手を付けておくか」



 ライフライン……それは一般的には生活に必要な住宅機能や設備のことを指す言葉であり、英語で【命綱】という意味も持っている。



 日本におけるライフラインの一例としては、電気・ガス・水道などが挙げられるが、この異世界でのライフラインというのは下水処理施設のことである。



 中世ヨーロッパ程度の文明力しかない世界に電気やガスなどというものはなく、その代わりに魔法というものが存在しているため、それを使った魔道具で代用されることもあるが、基本的に値段が高く、王侯貴族などの富裕層しか利用できない状況だ。



 そんな都市において問題となるのが下水処理であり、この施設がないと汚水処理の問題が解決せず、悪臭の原因にもなり得る。



 清潔な水は病気の罹患率にも直結し、下水処理施設のある都市とない都市での病気の罹患率は雲泥の差となっている。



 かくいう、シェルズ王国の王都も下水処理施設はあったが、その機能を十全に発揮できておらず、今だから言うが、多少鼻をつく臭いが充満していた。



 俺の指摘で多少は改善されたが、まだまだ王都全体にまで下水処理が行き届いているかと言われれば、そう断言できないのが現状である。



「この辺は生活基盤の重要なものだから、時間をかけてゆっくりやるとしよう」



 それから追加の移民がやってくる数日間、下水道などの街の中のライフライン整備を行った結果、日本に存在していた中規模の都市と大差がないくらいの街へと変貌を遂げた。



 そして、そののちやってくる調査官の報告を聞いた国王から、そのレベルの街は王国内でも片手の指しか存在しておらず、王都とオラルガンドに次ぐ事実上の第三の都市だと太鼓判をもらったのである。

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