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513話「ちょっとした騒ぎになる」



「待たせたなプロト。これを使ってくれ」


「ありがとうございますムーご主人様」


「……」



 プロトのもとへ戻った俺は、さっそく加工した石レンガをプロトに渡す。広範囲に積み上げられていく石レンガを呆然と見つめる人間がいた。言わずもがな、メイリーンである。



「先生、これはなんですか?」


「石レンガだが」


「いえ、それは見ればわかります。私が言いたいのは、どうしてこれだけの石レンガをお持ちなのかということでありましてですね」


「飛んで行った先に巨大な岩壁を発見してな。それを材料にしてさっき作ったのがこれだ」


「……なんでしょう。私の中の常識というものが崩れていく気がします」


「まあ、気にするな」



 もはや諦めの境地といった具合にメイリーンが肩を落とす。俺としてはできることを最大限にやっているだけなのだが、そのできることの規模が大きすぎて彼女の許容範囲の限界を超えてしまったらしい。



 今の俺がどれくらいの強さなのか。ステータスを確認すれば、なんとなくは理解できる。その能力にものを言わせ力業でそれを成している部分があり、人が考える常識の範囲からかけ離れていることも理解はしているつもりだ。



 だが、理解していることとその能力を使わないというのは別問題であり、今は早急に領地を開拓しなければならない。通常であれば、領地の開拓などは数年から十数年という長い年月をかけるのだろうが、そんな悠長なことをしていてはいつまで経っても話が進まない。そのためなら能力の出し惜しみをする気はない。



 俺の励ましになっていない励ましに呆れた視線を向けられつつも、俺はすでに石畳に変わっている場所の確認を行う。ゴーレムたちの仕事は確実性があり、特に問題なく石レンガが敷き詰められている。



「さて、次は建物の設置だな」



 地盤となる石畳の設置が終われば、あとはそこになにを設置するかという話になる。まず拠点の基本は、雨風をしのげる場所を作るということであり、どの施設よりも居住区となる場所を優先させたい。



 しかし、のちに大都市に変貌を遂げるであろうことを鑑みれば、中心部を居住区にしてしまうといろいろと交通の便が悪くなってしまう可能性がある。



 俺がいた日本でも、公共の交通機関であった電車を利用する人間は多かった。そのため、駅から徒歩○○分という情報が重要視されており、駅から近ければ近いほど家賃も高くなっていた。



 かといって、街に入ってすぐの場所に居住区を作ってしまうと、逆に市場や役所などの内部の施設を利用するときの交通の便が悪くなってしまう。



「うーん、悩ましいな」


「し、師匠これはいったいどうなってるんですか!?」


「ん?」



 そんなことを考えているうちに、気づけば周囲には人だかりができていた。いつの間にかギルムザックとアキーニや新しく迎え入れた使用人やらが集まってきており、ちょっとした騒ぎとなっていた。



 まあ、今朝までなにもなかった場所が更地になり、そこに石畳の広場が出現すれば驚くかもしれないが……。



 ちなみに、どうでもいいことかもしれないが、ギルムザックの仲間の一人であるアズールだが、今ここにはいない。故郷に残している将来を誓い合った幼馴染を連れてくるため、現在帰郷中である。けっ、リア充め、爆発させてやろうか? 物理的に……。



「今街を作っているところだ」


「街って」


「ここって昨日まで草原だったところだよね?」


「はあ、先生が魔法で更地にしてあっという間にこうなっちゃったのよ」


「師匠? 俺ってここに必要だったんですかね? 師匠一人でも問題ないような」


「必要だぞ。俺の身代わりだからな」


「……」



 俺がやらかしたことをメイリーンの口から聞いたギルムザックたちは、呆れたような視線を向けてくる。そして、俺の身代わりということは聞かされていたが、改めて俺の口からその言葉が出たことでやるせない気持ちになっているようだ。



「俺の身代わりなんて誰でもできることじゃない。だから、気に病むことはないぞ」


「それなんの慰めにもなってませんよ!!」


「ギルムザックよ。なにか勘違いしていないか? 別に領地の管理を俺一人でやるつもりはないぞ。いや、大変なのはむしろ街ができたあとだ」


「どういうことです?」


「まともな生活を送ることができる場所は俺が今から作ってやる。だが、そのあとのことはすべておまえたちで行ってもらうということだ。領地経営、モンスターの駆除、流入してくる移民への対処、その他近隣の領地間で起きる摩擦などなどだ。寝る間すらなくなるほど忙しくなるから、楽しみにしておけ」


「……」



 俺の言葉を聞いたギルムザックたちはあまりのことに絶句している。そうかそうか、それほどまでに嬉しいか。なんてな。



 そもそも、俺がいなければ今こいつらが住んでる場所もなく、なにもないゼロの状態からスタートするはずだった。下手をすれば、数か月くらい野宿生活が続くかもしれなかった状況をそれは忍びないということで城を建てたのは他でもないこの俺だ。



 もっとも、それはギルムザックに爵位と領地を与え、俺の身代わりとして領地を管理するという対価として支払った。それに加えてある程度の基盤が整うところまで土地を開拓してやろうというのだ。感謝されこそすれ、非難を受ける謂れはないのである。



「そんなこと聞いてませんよ」


「領地が発展してくれば、おのずと直面する問題だ。領主というのは、そういった問題を常に抱えた状態でいる者たちのことを指す肩書なのである!」


「そんな高らかに宣言されても」


「おまえも男だろうが! 四の五の言わずに腹を括れ!! 貴族になるっていうのはそんな甘いもんじゃないんだぞ!!」



 などと言っている俺だが、その貴族の責務から逃げた人間である俺が言えた義理ではないと思う。だが、実際領地を経営するというのは決して楽ではないのだ。



 特になにもない土地を開拓し、そこに人が住めるようにするなど正気の沙汰ではない。特にこの世界ではモンスターという人間の脅威となり得る存在がいる。それだけでも、未知の土地を切り拓くということがどれだけ無謀なものであるかということは想像に難くない。



 だが、それはあくまでも一般的なこの世界における領地開拓の話であり、俺がそれに該当するかと問われればNOという答えになる。



 圧倒的な強さによってほとんどのモンスターを駆逐でき、通常の何十倍という速さで土地の開拓を行える人間が普通という枠に当てはまるとすれば、この世界はすでに地球のように発展した文明を築いていただろう。



「まあ、今はできることを少しずつやっていけばいい。おまえには期待しているのだ」


「師匠」


「というわけだ。今からここに街を作るから、この街の管理は任せたぞ!」


「……」



 それから、あっという間に街を作り上げてしまった俺だが、それを見たギルムザックたちには「まあ、師匠だからな。そういうことにしておこう」となにか諦めにも似た視線を向けられたり、あっという間に街ができていく光景に一部の人間から神として拝まれたりといろいろあったが、とりあえず必要最低限の街としての形にすることができたのであった。

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