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512話「優秀な人間ほど、最善手はあとになって気づく」



「ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ先生! なんでさっきまで緑豊かだった場所が更地になってるんですか!?」


「俺が魔法で手を加えたから?」


「いくら先生が強くても、これだけの広さをたった一瞬で……」



 メイリーンが呆然と見つめるその先には、草木一つ生えていないなにもない更地が広がっている。以前からそうなっていたのであれば、メイリーンもここまでの反応を見せなかったのだろうが、先ほどまで鬱蒼と木々が茂っていたことを考えれば、脳が理解することを拒否しているのかもしれない。



 俺が撤去した木々は、広さで言えば五十メートルプールが三十個以上収まってしまうほどの広大な土地であり、それだけ聞いてもピンとはこないだろう。数値で言えば、長さ千五百メートル、幅六百メートルを超える広大な更地で、それが一瞬にして出現したことになる。



 俺がいた日本で例えるのなら、よく広さで多用される東京ドーム約十九個分に相当する。具体的に言えば、東京ドームの広さは約四万七千平方メートルで、俺が開拓した土地が九十万平方メートルとなり、その土地を東京ドームの広さで割ると約十九という数字が算出されるという寸法だ。



 まあ、難しい話はこれくらいにしてだ。一言で口にするなら“とにかくめっちゃ広い”である。



「とりあえず、中央部分に噴水を設置して広場にするか。地下水を汲み上げれば、水は確保できるだろうしな」


「ふ、噴水……」



 そう言うが早いか、さっそく更地となった土地の中央部分から地下水脈を掘り当て、水が湧いたのを確認したところで噴水を設置する。あとで水道などのライフラインを確保するためにも必要な設備であるため、手を抜くことはできない。



「よし、出てこいプロト」


「ご主人様、お呼びでございますかムー」


「ここに街を建設したい。差し当たっての作業として、ここ周辺一帯に石畳を設置する。設置作業を任せてもいいか」


「かしこまりましたムー。【クリエイトゴーレム】。ゴーレムたちよ、仕事だムー」



 プロトに指示を出すと、具体的な指示もなく作業を始める。いつの間にやら流暢に喋るだけでなく、周囲の岩石を材料にして簡単なゴーレムを作製できるようになっていた。生まれた頃はただただ職人ゴーレムたちの作業を見守っているだけの存在であったが、まさかプロトがここまで頼もしい存在になるとは思っていなかった。



 プロトによって生み出されたゴーレムたちの手によって石のレンガが形成されていき、瞬く間に噴水を中心に更地だった場所が石畳に浸食されていく。そのスピードは尋常でなく、人の手で行えば数か月を要する作業であるにもかかわらず、それがほんの僅かな時間で行われている。



 これもまた一種のチートであるなと俺が感心していると、恐る恐るといった様子でメイリーンが問い掛けてくる。



「あの、先生」


「なんだ?」


「あのゴーレムたちは一体なんです?」


「ただのゴーレムだが」


「いやいやいやいやいや! あれだけ統率された動きができるゴーレムがただのゴーレムなわけないじゃないですか!!」



 そこからメイリーンのゴーレム談義が始まった。彼女曰く、通常のゴーレム生成は一、二体の生成が限度であり、その動きもまるでロボットのようにぎこちないものらしい。



 それはゴーレム生成の際、求められる魔力量が多く、ゴーレムを生成後にもゴーレム自体を動かす魔力が必要なため、魔力が足りないことで起こる魔力不足が原因となっている。



 とあるゴーレムの研究していた有名な研究者ですら、一体のゴーレムをほどほどに操作できる程度でしかなく、ましてやゴーレム自身になにか作業をさせるなどありえないということらしい。



 さらに言えば、自我を持って喋るゴーレムなども皆無であり、プロト自体がゴーレムという分野において貴重な存在だとも言われた。



 そして、その喋るゴーレムが生み出したゴーレムたちの手によって異常といっても過言でないほどのスピードで石畳が作られていく様は、それこそ尋常ではないとのことだ。



「じゃあ、ものすごい性能の良いゴーレムなんじゃないか?」


「……駄目だこりゃ。なにがすごいのかいまひとつ理解してないわねこれ」



 俺がメイリーンの力説を聞いて出した答えに、呆れたような感想を口にする。素直な感想を言っただけだというのにその言い方はひどくないか? 性能が良いという言葉以外にプロトたちを評する言葉があるというのなら、是非とも聞いてみたいものだ。



 そんなこんなでプロトたちの作業は滞りなく進みつつあったが、ここで問題が発生した。なんと、石畳を形成するために使っていた岩石がなくなってしまったのだ。



 更地にしたときに撤去していなかった岩石を材料にしていたのだが、更地にした土地すべてを石畳にできるほどの岩石があるはずもなく、とうとう岩石がなくなってしまったのだ。



「ご主人様、石畳の材料が足りないですムー」


「わかった。それは俺が調達してこよう。プロトたちはこの更地を拡大しておいてくれ。ああ、あと多少緑も残したいから、一定の間隔で木を残していい感じにしておいてくれ」


「了解しましたムー」



 そうプロトに指示を出した俺は、石畳の材料確保のため飛行魔法で移動する。プロトの性能、特に知能レベルが上昇したことで、人間臭い曖昧な指示も理解してくれるようになり、こういった作業を任せても問題ないようになっている。



 ちなみに、このときメイリーンがなにをしていたのかといえば、プロトたちが更地を拡大している作業を呆然と見つめていたらしく、俺がいなくなったことに気づいていなかったようだ。



 それはそれとして、プロトに言われた石畳の材料となる岩石を見つけるべく、俺はしばらく飛び続ける。数分後、絶壁という言葉が相応しい程の岩の壁が姿を現し、俺の行く手を遮った。



「ふむ、これくらいの岩ならちょうどいいかもしれないな」



 というわけで、グランドキャニオンとはいかないまでもかなり巨大な岩の壁をストレージに収納する。そして、加工の手間を省くため【分離解体・極】のスキルを使い石畳に使用する石レンガを作っていく。



 一瞬にして数万単位の石レンガが生成されていく様子は、一般的な常識から見れば異常と言わざるを得ないが、便利なものは便利であるからあまり気にしない。



「あっ、これなら魔法で出した岩でもよかったんじゃないか?」



 便利になり過ぎると、あとになって最善の手を思いついたりする。わざわざ岩を見つけなくとも、魔法で岩を生成すればよかったと今になって気づいてしまった。だが、すでに石レンガまで作り終えている以上、今更魔法で岩を作ったところでなんの意味もなく、むしろ今まで行った作業が無用の長物となってしまう。



「ま、いっか」



 どちらにせよ、石畳に使う石レンガを確保できたことに変わりはないので、特に気にすることなく、俺はプロトのもとへと戻ることにした。

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