511話「レッツ、領地開拓!」
「んっ、ん~。うん、目覚めすっきり」
充実した休日を過ごした翌日、すっきりとした気分で目覚めることができた。どうやら、肉体的な疲労よりも精神的な疲労が溜まっていたらしく、どれだけ強くなろうともこういったところは定期的にケアしなければならないと改めて気づかされる。
そんなわけで、リフレッシュした俺は、目下の問題について取り組むことにする。一体なにかといえば、領地改革だ。
そもそもの話だが、ギルムザックに爵位と領地を与え、貴族として取り立てたのは俺自身が爵位と領地を受け取ることを拒絶した結果であり、もともと自由にできる領地を欲していた。
そんな折に、竜刻の時が起きてしまい、王都に危機が訪れた。それをあっさりと解決してしまった俺であったが、もし俺がいなければ少なくない犠牲者が出ていたことは想像に難くない。
国王としても、なにかしらの形で褒賞を与えなければならない。一番手っ取り早いのが爵位と領地だが、それは俺が望んでいない。だからこそ、俺以外の誰かに爵位と領地を与え、実質的な統治権を俺に手渡すという形を取ったのである。
もちろん、表向きにはまったく関係ない他人による叙勲であるため、俺本人にもなにかを与えなければならないということで、ミスリル一等勲章よりも劣るが、それなりに栄誉のある勲章をいくつか寄こしてきた。
もう一つミスリル一等勲章を与えるという話も出ていたようだが、俺が勲章に対してなにも感じていないことと、いくら王都の危機を防いだとはいえ、国内最高の栄誉を二つも与えていいのかという貴族の物言いが入り、別の勲章を与えるということでまとまったという話があった。
そういった経緯から、実質的に他人が所有する領地の統治権をもらったわけなんだが、どうしてこんな回りくどい真似をしてまで領地を欲していたのかといえば、そろそろ次のステップへと進みたかったからである。
次のステップとは、やはりというべきか俺がいなくなっても問題ないようにするということであり、端的に言えば、隠居の準備である。
まだ成人していないくせになにを頓珍漢なことを言っているのかと思うかもしれないが、俺は本気だ。
まだ若いというが、前世の人生を振り返ってみれば、それはまるで走馬灯の如くあっという間の出来事のように感じた。それだけ、人の人生というのは短いのだ。
であるならば、若いうちから老後のことについて考えても不自然ではなく、むしろ今のうちから構想を練っておいた方がいいとさえ俺は考えていた。
まず差し当たって孤児院と各商会については、新しく人を雇い入れたり、いろいろと根回しを行ったりしているので、そろそろ俺が抜けても大丈夫になりつつある。
そして、今問題があるとすれば、新たに領地改革を行っていくギルムザックたちであり、当面の間は彼らのバックアップを行っていくべきだと判断した。
この世界にやってきた当初はいかに貴族の当主という決められたレールから抜け出すことを考えていた。だが、今は自分が抜けたあとも上手くやっていけることを考えている。
「ひと段落ついたら、またどこかに旅でも行きたいところだな」
そんなとりとめのないことを呟きつつ、朝の支度を終えた俺は、すぐにギルムザックたちのもとへと向かった。
「おはようございます師匠! 今日もいい天気ですね!!」
「おまえは、朝から元気だな」
現地に到着すると、食後の腹ごなしなのか、ギルムザックが剣を振るっていた。はつらつとした挨拶をされたが、俺とのテンションの差に少しだけ暑苦しさを感じる。
「今日はどうされましたか?」
「ああ、王都も落ち着いたし、そろそろ本格的にここの改革を行っていこうと思ってな」
「改革……ですか? それなら、もうすでに師匠が作ってくれた村があると思うのですが?」
「それは一時的なものだと言ったはずだ。いずれこの地を王都やオラルガンドに並ぶ【第三の都市】として発展させるつもりだ」
「ここをですか?」
俺の突拍子もない言葉にギルムザックが怪訝な顔を浮かべる。ほとんど開拓されていない土地を見て国内で三番目の都市にすると言われても、ただのビックマウス発言としか思えないだろう。だが、俺はやる。やると言ったらやるのだ。
「まあ、最終的にはそれくらいの規模の拠点になるだろうから、おまえもそのつもりで貴族としての勉強をしておけ」
「はあ、わかりました」
あまり想像できないのか、曖昧な返事をするギルムザック。まあ、今に見ていろ。その呆けた顔を驚き顔に変えてやろうではないか。ふっ、ふっ、ふっ……。
内心でほくそ笑みながらギルムザックと別れた俺は、さっそく実行することにする。だが、その前に領地の現状把握を行うとしよう。
現在、ギルムザックが爵位と共に賜った領地は、シェルズ王国王都ティタンザニアから真東にある【ミステット平原】という場所だ。広さはマルベルト領とバイレウス領を足したくらいの広大な土地であり、今まで開拓されることなく放置されてきた土地であった。
というのも、未開拓の土地ということで、周辺一帯がモンスターの生息域となっており、開拓が可能かどうかの調査のため、事あるごとに調査団が派遣されていた。しかし、なにもない状態からの開拓ということと、モンスターと対峙しながらの開拓ということもあって、それが可能な人材がおらず、国王が変わる度に計画が持ち上がるものの、最終的には開拓不可能という判断が下されていた。
だが、今回開拓に携わるのは自称化け物染みた強さを持つ男こと俺であり、そこを治めることになる領主についても、元冒険者であるギルムザックたちを据えることでモンスターに対抗するための戦力の確保という現実的な問題についても解決済みだ。
あとの残る問題としては、人が人として生きるための文化的な営み……所謂【衣食住】の確保である。
「あ、先生じゃないですか!」
「メイリーンか」
俺がある場所へ向かっていると、ちょうどモンスター討伐に勤しんでいるメイリーンを発見する。現状、ギルムザックが治めることになる領地には、まとまった戦力、つまりは軍隊が存在しない。
個々の力についてはギルムザック他四名の元Sランク冒険者である彼らがいるので問題はないが、やはり数の暴力という言葉もある通り、一定数からなる軍隊が必要になってくるだろう。
しかし、その軍隊を運用するためには宿舎などいろいろと必要なものがあり、今は土地の開拓を優先しているのが精一杯で、とてもではないが手が回らない。そこで、俺の出番というわけだ。
「さて、始めるか」
「一体なにを始めるんですか?」
「見てればわかる。……【ウインドカッター】」
疑問符を浮かべるメイリーンを横目に、俺はさっそく未開拓の土地にメスを入れることにする。まずは、生い茂った雑草やら木々をなんとかするべく、魔法を使ってそれらを撤去していく、使えない雑草はその場で焼却し、木材としての利用が見込める木々はストレージに収納していく。
その速さは目まぐるしく、まるで早送り映像を見ているがごとく、瞬く間に更地が完成していった。
「ふん、まあ最初はこのくらいか」
「……」
そのあまりに異常な光景にメイリーンは言葉を失い、それを成した俺はといえば、特になにも感じていない。
そのまま開拓の続きを行おうとした俺だったが、ここで平静を取り戻したメイリーンの物言いが入った。
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