505話「神槍によるクレームとその後の管理者」
【お知らせ】
第9回カクヨムweb小説コンテストに向け、新作の執筆のため一旦更新を止めます。
再開は未定となりますので、それまでお待ちください。
「おい、どうなっている?」
「……」
「おまえ言ったよな? “竜刻の時によって、錯乱するドラゴンが現れるまでかなり余裕がある”と。この二週間で、おまえを入れて四体目のドラゴンを鎮圧したんだが、これのどこにかなりの余裕があるんだ? んん?」
「……」
俺の詰問にただただ黙して語らず、ロックドラゴンが沈黙を貫く。
いかなる物事においても例外はつきものであり、今回たまたまそれが立て続けに起こったという見方もある。だが、何故よりにもよって俺が関わっている時にそれが起きてしまうのか。俺が納得できないのはそこである。
“どうしてこうなった?”という台詞を漫画やアニメなどでよく耳にするが、今回の件について俺はその言葉を使いたい。……どうしてこうなったのだろう?
「なんとか言ったらどうだ?」
「なんとか。……いたっ」
「古典的なボケをかますんじゃない!」
「しょうがないではないか! 以前の竜刻の時は、次のドラゴンが錯乱するまで五十年以上の時を要したのだ! まさか、今回の竜刻の時で錯乱するドラゴンがこうまで立て続けに現れるなど、我とて驚いておるのだ!!」
「ちっ、またイレギュラーか。おい、どうなってんだ管理者!! テメェの仕事だろう、テメェの!!」
「誰に向かって叫んでおるのだ?」
誰もいない場所に向かって叫び出す俺を、怪訝な表情でロックドラゴンが見据える。世界を管理する存在である神……所謂、管理者という存在を知っている俺からすれば、こういったイレギュラーなものに対する管理責任は、当然管理者の吾輩野郎にある。つまり、今回立て続けにドラゴンが錯乱している出来事についても、奴が原因を調査し、その原因を排除する義務があるはずなのだ。
だというのに、この体たらく……まったくもって度し難い。神という存在意義とその役目を放棄しているとしか思えない。
「これは、お仕置きが必要だな……いいだろう。仕事をしないというのなら、させるまでだ」
「おい、一体何を――」
「混沌と、混沌の、間で、本当の、感情は、コントロール、不能な、ようだ! 神槍召喚【オーディンの槍】!!」
「な、なんだその禍々しい槍は!? 何をするつもりだ!!」
仕事をしない管理者に灸を据えるべく、俺は魔法の深淵とも言うべき究極の魔法を行使する。究極の魔法……それは、不可能を可能とする理不尽な力、ズルとも呼称できるチートである。
以前にも言及したが、魔法というものは魔力というものを使って頭でイメージしたものを顕現させる物理現象である。魔法が発動する条件は、使用する魔法に必要な魔力が足りていることと、その魔法を制御するための緻密な魔力コントロール及び頭でその自称を想像するイメージ力だ。
この条件さえ満たしていれば、基本的に魔法というものはいかなる効果をも生み出す。その気になれば、不老不死や死者蘇生も不可能ではないだろう。
もっとも、魔法に関する仕様については世界ごとに違っているため、魔法というものが絶対的なものではないが、少なくとも俺が転生した世界の魔法に対しての仕様はユルユルだということが、最近わかってきた。まあ、管理しているのがあの吾輩野郎では仕方ないことなのかもしれんがな……。
俺が使用した魔法は、俺がいた地球の神であるオーディンが所持していたとされる神槍グングニールを創造する魔法である。魔法名では“召喚”となっているが、さすがにオーディン本人が持つ槍を借りるわけにもいかないので、オーディンが持っている槍と同程度の性能を持つ槍を魔法で生み出すというのが正確なところである。
神槍といっても、それを扱うオーディン自体が戦争と死を司る神であるからして、そんな神が持つ槍が神々しい見た目をしているかと言われれば、その限りではない。
寧ろ、その見た目は禍々しく悪魔や邪神が持つと言われても納得のいくほどに、暗いオーラを纏っていた。
「神槍よ、己が務めを果たさぬ愚かなる罪人に、その報いを受けさせよ!! 【断罪槍グングニィィィィィイイイイイイイイイル】!!! どっせぇぇぇい!!!!」
「おわっ!?」
俺の手元から離れた神槍グングニールは、自身の与えられた役割を全うすべく、空の彼方へと消えていった。神がいる神界がこの地上とどれだけ離れているかは知らないが、絶対必中の槍から逃れる術は皆無だ。
奴の元にあの槍がいつ届くのかは知らないが、これで少しは己の怠惰を悔い改めるだろう。
「よし、じゃあ帰るぞ」
「待て待て待て待て待て!! なんなんだあの槍は? どこに向かって投げた!?」
「neet not to know(知る必要のないことだ)」
「……おまえは一体何を言っているんだ? そして、何と戦っているんだ?」
「……帰るぞ」
まさか、ロックドラゴンが知る由もあるまい。そのネタが体は子供頭脳は大人な小学生が登場する漫画であることを……。そして、ロックドラゴンよ。お前のその返しもなかなかにオタク度の高い返答だぞ?
それから、王都へと戻った俺たちだが、俺のクレームが効いたのかはわからないが、今回の一件以降竜刻の時によってドラゴンが錯乱することがなくなったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ Side 管理者 ~
「ムホホホホ、最近やろうのPV数が上がってきておる。いいぞいいぞぉー」
ローランドが神……所謂管理者に向かって抗議のための槍をぶん投げてからしばらく経ったある日、管理者であるゴウニーヤコバーンは、ほくほく顔で浮かれていた。
というのも、自分が趣味で投稿しているWeb小説の閲覧数の調子がいいらしく、作り手としては多くの人間に見てもらえることが、創作活動のモチベーションに繋がるからだ。
そんな管理者のもとに、ある物体が接近している。言わずもがな、ローランドが投げたグングニールである。
「ん? 何だこの気配は……まさか!?」
自身の領域に侵入する不審な気配に気づいた管理者が、その正体を探ろうとする。そして、それが高速で接近する槍であることに気付いた管理者は、一つの可能性に思い至る。
「あのじじいの槍か!? 最近はギックリ腰が酷くて投げてねぇとか言ってたが、吾輩を油断させるための策略だったか」
北欧神話において、最高神とされるあの有名なオーディンをじじい呼ばわりするこの世界の管理者の神としての格が窺い知れるが、今はそんなことを議論している余裕はない。
確実に迫ってくるであろう神槍に対抗すべく、管理者は数十枚という膨大な数の障壁を展開する。障壁の一枚一枚は強固で、例え隕石が衝突したとしても、その衝撃を受け止めてしまうほどの代物だ。だが、そんな障壁をいとも簡単に突き破り、管理者との距離を確実に詰めてきている。
「くっ、さすがに絶対必中の名は伊達ではないということか……よかろう! ならば、この我が身をもって受け止めてくれるわ!!」
グングニールの槍の前では、いかなる障壁を用いても無意味だと悟った管理者は、一度両の拳を打ち鳴らすとサッカーのゴールキーパーのように両手を広げた。
神槍を止めるものはなく、そのまま管理者目掛けて突撃する。そして、管理者の懐に入った槍を宣言通りに受け止める。槍の刃の根元部分の柄を掴んで受け止めるというまさに神業的所業をやってのけた管理者だったが、その刹那自身の体が衝撃で打ち震えた。
「ぐぬぬぬぬぬぬ、やらせはせん! やらせはせんぞおおおおおおおお!!」
どこかで聞いたような台詞を吐きつつ、管理者とグングニールの一進一退の攻防が続く。その力は拮抗しているように思えたが、ここで管理者はあることに気付いた。
「むむ? あのじじいが投げたにしては、威力がないな。それに、纏っているオーラが神威じゃない。これは……魔力か?」
神という存在がその特異な力を使用する際、消費するのは魔力ではなく神力というもので、神々の間では神威と呼ばれている。だが、今管理者を襲っている神槍に込められているのはその神力ではなく魔力が込められていた。
「この魔力、覚えがあるな……。まさか、あの小生意気な小僧か!? 吾輩にこのようなものを差し向けるとはいい度胸である。……ええい、邪魔だ! どかんかぁぁぁああああああ!!」
グングニールを放ったのがオーディンではなく、ローランドだとわかった途端、管理者はすぐに行動に移った。今まで両手で支えていた槍を片手に持ち換え、空いた方の手で槍の柄の部分を殴りつけたのである。
いくら絶対必中の槍とはいえ、魔力によって推進力を得ている以上、それを断ち切ってしまえば、もはやただの棒切れと化してしまう。推進力を失った槍は、そのまま跡形もなく消えてなくなった。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
なんとか神槍を退けることができたものの、その消耗は激しく、肩で息をする管理者。その体たらくはとても神とは言い難いものがある。
「まったく、神である吾輩にこのような仕打ちをするとは、一体どういう了見だ? ことと次第によっては、許さぬぞ」
そう言いつつ、管理者が右手を虚空に掲げると、突如としてモニターのようなものが出現する。そこには、ローランドの姿が映っており、彼がグングニールを放つまでの一連の流れがはっきりと映っていた。
『ちっ、またイレギュラーか。おい、どうなってんだ管理者!! テメェの仕事だろう、テメェの!!』
「……」
『混沌と、混沌の、間で、本当の、感情は、コントロール、不能な、ようだ! 神槍召喚【オーディンの槍】!!』
「……」
『神槍よ、己が務めを果たさぬ愚かなる罪人に、その報いを受けさせよ!! 【断罪槍グングニィィィィィイイイイイイイイイル】!!! どっせぇぇぇい!!!!』
「なるほどな。そういうことであったか」
一通りの流れを見た管理者は、その内容に納得する。確かに、しばらく世界の管理を怠っていた自覚はあり、ローランドたちが関わっている竜刻の時という事象も管理者は把握していた。
「もうそんな時期だったのだな。まあ、ドラゴンたちの言う竜刻の時というのは、正味な話だたの発情期のようなものなのだが……」
ドラゴンは、他の種族と比べ生存本能というのが希薄である。そのため、ある一定期間ごとにその本能を刺激させるようプログラミングが施されている。それが竜刻の時の正体である。
つまり竜刻の時というのは、ドラゴンたちの発情を促すためのものであって、実質的に媚薬のようなものであると言っていい。
「ん? 発情のレベルが高くなっているな。どうりで発情するまでの期間が短いわけだ。最低レベルに調整しておこう。……これでよしと。どうだ小僧、これで文句はあるまい? よし、では吾輩は執筆に勤しむとしよう」
そこにはいないローランドに向かってそう言い放つと、管理者は再び執筆活動を再開した。
それ以降、ローランドが生きている間に竜刻の時が発動することはなく、ドラゴンによる錯乱事件は管理者の手によってひっそりと解決したのであった。
よければ、ブックマーク&評価&いいねをお願いします。
あなたの清きクリックが、作者のモチベーションに繋がります。