表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

517/550

504話「一つのイベントが終わり、また新たなイベントが」



「何とか落ち着いたようだな」



 ハンバーガーを生み出し、それを販売するようになってから数週間が経過する。俺が予想した通り、あれから、ハンバーガーは王都の人々の間で大ヒットとなり、連日長蛇の列が店の前に形成されている。



 新たに追加した三店舗でも同様の状態となっており、もし一店舗だけで営業していたら、従業員たちは過酷な労働を強いられることになっていたことは想像に難くない。



 もっとも、その分だけ高い給金を与えるつもりで入るものの、いくら収入が良くてもその得たお金を使う暇と余裕がなければ、それはまったく意味を成さない。



 前世の俺も収入だけは人並み以上に得ることができ、経済的にかなり余裕のある人生を送ってきた。だが、その分だけ仕事に従事する時間が多く、そのほとんどの時間を会社で過ごすことに割かれる毎日を送っていた覚えがある。



 人生とは、食う、寝る、働くだけを繰り返すようなものではなく、その合間合間に自分が興味のあることや、楽しいと感じるようなことをするものだと俺は思っている。



 であるからして、高い給金だけ支払って馬車馬のように働かせるという行為はできるだけ避け、それなりに休暇の取れるくらいの忙しさにまでなってくれたらという狙いがあった。



 そのために、ハンバーガーのレシピを商業ギルドで販売したり、レシピを買ってくれた料理人のもとを訪ね、売り物になる商品にするためのアドバイスをやってみたりと、少しでもハンバーガーというものが王都に普及するよう努めてきた。



 その甲斐あってか、露店や飲食店の中にも独自に開発したハンバーガーが出回るようになり、フィルフナルドに訪れる客足も少しだけ緩和されていったのである。



 それ以外に目立ったイベントとしては、一号店にティアラとシェリルがやってきたことくらいだ。シェルズ王国の王族、それも第一王女と第二王女自ら足を運んだということで脚光を浴び、実質的に王族御用達ということで知れ渡ることとなった。



 その時の忙しさときたら、一時的にゴーレムに出動してもらう事態となり、数日間の大繁盛をなんとか乗り切ったということがあった。



 ゴーレムの起用については、奴隷よりも人件費が抑えられるので、最初はそれでもいいかと考えたのだが、俺がいなくなった時にゴーレムたちが動かなくなる可能性があることと、人を採用することで経済を支える社会貢献という名目が立つなどの理由から、一度は浮かんだゴーレム案だったが、今回ゴーレムは使わないことにした。



 少しばかり大事になりかけたのが、ティアラとシェリルの姉妹が俺の店を訪れたという情報が国王と王妃の耳に入り、自分たちも店に行きたいと言い出したことだ。



 いくら同じ王族とはいえ、王女と国王や王妃ではその扱いも異なり、万が一にも国に不信を持つ者がよからぬ動きをしないとも限らないため、護衛する側から見ても誰でも出入りが可能な場所へ国のトップが赴くべきではないということで、その話はお流れになった。



 その代わりといってはなんだが、フィルフナルドで販売している商品を押し付け、これで我慢しろと言っておいた。



 そんなこんなで、ハンバーガーから始まった目まぐるしい出来事はこれで一旦終息を見せたのだが、そうなるとまた新たな問題が発生するというのがお決まりのパターンであるからして……。



「なに? ファイヤードラゴンが動いただと?」



 ハンバーガーのことで気を取られていた俺は、あれからほったらかしにしていたロックドラゴンにかけた魔法の効果が切れることをすっかり忘れていた。



 それに気付かず魔法の効果が切れたロックドラゴンが開口一番こう口にしたのだ。“ファイヤードラゴンが動いた”と……。



「ああ、この気配は間違いなくあいつだ」


「竜刻の時までまだ余裕があったんじゃないのか?」


「そう我は見ていたのだがな……。どうやら、予定よりもかなり早く発症したらしい」



 何事もイレギュラーなことは起こり得るもので、今回もそれが起こってしまったというだけなのだが、それにしたって何もこんな狙いすましたかのようなピンポイントで起こらなくてもいいのではないだろうかと、誰にともなく不満を漏らしてしまいたくなる。……これは、管理者にクレーム案件だな。



 兎にも角にも、起きてしまったことはそれとして、早めの対応をしなければ取り返しのつかないことになりかねないことを前世の経験で知っている俺は、ロックドラゴンを伴ってファイヤードラゴンが棲み処としているセコンド王国にある火山地帯へと向かった。



「ここが、ファイヤードラゴンがいる場所か」


「そうだ」



 転移と飛行魔法を駆使してその日のうちに火山地帯へとやってきた俺たちは、すぐにファイヤードラゴンを探し始める。火山地帯というだけあって、活発な活動を見せる活火山の火口からは、ところどころ溶岩がまるで噴水のように吹き出しており、いつ勢い良く噴火してもおかしくない。



「今にも大噴火しそうな勢いだな」


「ファイヤードラゴンが竜刻の時に入っているからな。その影響もある」


「なら、早いとこなんとかするとしよう」



 さすがに近隣に村や街など人の拠点は存在していないとはいえ、一度噴火してしまうと面倒なことになるのは間違いない。であれば、そうなる前に片を付けるまでということで、ファイヤードラゴンの気配がする場所へと足早に向かうことにした。



「ギャオー、ガアアアアア」


「いたな。症状はおまえの時と同じで錯乱してやがるな」


「まったく、ドラゴンのくせに情けない奴だ」


「同じ症状で苦しんでいたおまえが言うな」



 火山地帯の奥地に進むと、そこにいたのは赤い鱗に覆われた巨大なドラゴンだった。その体格はロックドラゴンと同じくらいあり、時折鱗で覆われている部分から火が噴き出していることを見るに、体温自体が高温であることが窺える。



 あんなものに人間が触れてしまえばひとたまりもなく、瞬く間に消し炭と化すのは想像に難くない。



「とりあえず、動きを止めるか。【コキュートス】」


「ギッ」



 かなりアグレッシブな動きをしていたので、これでは解呪の魔法を当てることができないという判断から、動きを止めるため氷の魔法を使った。ロックドラゴンと同格であることはすぐに理解できたため、手加減なしでやってみたが、炎と氷ではやはり炎の方に軍配が上がるらしく、絶対零度の魔法とされるコキュートスがいとも簡単に破られてしまう。



「ゴアアアアアアア」


「破られたか。であれば……【包囲結界】」



 属性の優位によって破られたのであれば、今度はそれがない方法で封じ込めればいい。今度は純粋な魔力で形成される結界を張ることで、動きを封じ込める作戦にシフトする。



 さすがにドラゴンといっても、俺との実力差は歴然であり、今回の結界によってその動きを封じ込めることに成功する。だが、ファイヤードラゴンも大人しくそのまま黙っているわけもなく、結界に体当たりをし始め、物理的な攻撃によって結界を破ろうとしてきた。



 巨体を使った体当たりは強力なものであるが、それを想定して張った結界であるため、結界には傷一つ付かない。



「よし、じゃあこれで終わりだ。【パーフェクトディスペル】!」


「ガ、ガフゥ……」



 ファイヤードラゴンの動きが止まったところで、一発目から渾身の解呪魔法をぶち込むと、途端に大人しくなり意識を失う。そして、しばらくすると目が覚めたようで、ロックドラゴンと同じように話ができるようになった。



「む、ここはどこだ? 何故人間がここにいる?」


「それは、我から説明した方がいいだろう」



 そう言いつつ、正気に戻ったファイヤードラゴンに対し、ロックドラゴンが俺の代わりに説明をする。竜刻の時の影響で自我を失っていたところを助けたことなど、諸々の説明を受けたファイヤードラゴンが、俺に礼を言ってくる。



「どうやら、迷惑を掛けてしまったようだ。礼を言う」


「気にするな。竜刻の時というものがあることを聞かなければ、十中八九殺していただろうからな。礼なら、そういったものがあることを教えてくれたロックドラゴンに言うといい」


「ふん、こいつに礼を言うくらいならば、死んだほうがマシだ」


「奇遇だな。我もお前のような炎トカゲに礼を言われるなど、気持ち悪くて逆鱗がむず痒くなるわ」


「なにをっ、この土トカゲが! 我の炎で消し炭になりたいか!!」


「貴様こそ、我の岩で粉々にされたいのか!!」



 どうやら、この二人……いや、二体というべきなのだろうか、仲はあまりよろしくない様子で、一触即発の雰囲気を持っている。



 せっかく助けたのに、ここで暴れられたらもとのもくあみであるため、すぐに間に割って入る。それから、ファイヤードラゴンに体調に問題はないかを尋ね、特に問題はないということであったため、そのまま火山地帯からおさらばすることにした。



 こうして、いきなり始まった竜刻の時だったが、あっさりと片が付いたのであった。

よければ、ブックマーク&評価&いいねをお願いします。

あなたの清きクリックが、作者のモチベーションに繋がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ