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500話「ハンバーガー事変その3」



「さて、ここが買った土地だな」



 マチャドを置き去りにして、俺は商業ギルドで購入した土地へとやってくる。そこには、使われていない廃墟となった建物がいくつか並んでおり、明らかに廃れた様子が窺える。



 リリエールの話によると、元はとある商会の倉庫として使われていたものだったが、当時の商会の代表が罪を犯したことで、商会自体が解体され、この土地の権利自体が商業ギルドに渡ったらしい。



 商人というものは、体裁を気にする者が多く、以前の持ち主が罪人となってしまった物件や土地などは縁起が悪いということで、なかなか買い手が付かない。場所的にもそれほど重要性の高いものでもなく、以前倉庫として使われていたことからも、土地としての価値はそこそこあるが、言い換えればそれだけの場所だ。



 しかしながら、露店が立ち並ぶ区画から近いこともあり、そこに店を建てることができれば、客足はそれなりに見込める。今まで買い手が付かなかったのは、前の持ち主が罪人だといういわくつきの土地であったことと、倉庫として使っていた建物の解体費用が、土地を購入した人間が支払うことになっていたため、わざわざその土地を所有しようなどというもの好きがいなかったからだ。



「まずは、気配を探って人がいないかの確認だな」



 このまま解体してしまうと、中に人がいた場合悲惨なことになりかねないため、一度建物内を探って人がいるかどうかの確認をする。その結果、スラム街ではないということと、商業ギルドが定期的に見回りを行っていたためか、人がいる気配は皆無であった。



 このまま建物を処分してしまっても問題ないと判断した俺は、建物を撤去する前に土地の周囲を結界を覆い、幻術であたかもそこに建物が存在しているかのように偽装を施す。



 そして、建物自体は取り壊しても問題なかったが、何かに使えるかもしれないということで、ストレージに仕舞っておくことにした。



「あっという間に更地になったな」



 本来であれば、解体作業だけでも何十人という作業員を動員し、更地にするまで数週間を要するところだが、俺一人にかかれば一瞬で終わってしまう。



 改めて自分の規格外な能力を自画自賛しつつ、新しく建物を建設していく。建物自体は入って正面に複数の会計カウンターを設け、大量の客を捌けるようにする。イートインスペースも確保するため、会計カウンターに辿り着くまでの通路の左右に十数組の丸テーブルと椅子を設置し、店内でも購入した商品を食べられるようにした。



 そして、重要な心臓部分である調理場だが、これはバックヤードにクッキー、唐揚げ、ハンバーガーそれぞれ専用の調理レーンを設け、各レーン毎に決まった商品を調理するように設置する。



「あとは、そうだな。ハンバーガーを売るなら、フライドポテトも出しとくか」



 ハンバーガーの付け合わせとしてポピュラーな料理であるフライドポテトについても、この際だからメニューに加えることにし、あとはミックスジュースを用意するドリンクレーンも追加しておくことにした。



 まずはメインのメニューとしてクッキー、唐揚げ、ハンバーガー、フライドポテト、ミックスジュースの五品で勝負をし、余裕が出てくれば期間限定商品として一定期間のみの販売する商品を出すということで落ち着いた。



 元々、ハンバーガーを期間限定商品にする予定だったが、今日の販売でかなりの需要が見込めることがわかったため、見事レギュラー入りを獲得した。ぱらっぱっぱっぱぁー。



 店舗の大きさ的に、客に開放するスペースよりも調理場などのバックヤードの方が広くなってしまうが、店というのは基本的にそういう形式のものが多いため、これは別段気にすることではない。



 一通りの内装が完了したところで、一度コンメル商会へと転移する。すると、商会内の敷地に数十人の人が集まっているのが視界に入る。戸惑いながらもちゃんと俺の指示通りに動いたマチャドに感心していると、俺の姿を見つけた件の人物が、不満気な表情を浮かべながらやってきた。



「全員集めましたけど」


「大儀である」


「それで、いつになったら説明してくれるんです?」


「とりあえず、移動しよう」



 そう言って、転移門を開きその場にいた全員を新店舗へと連れて行く。ちなみに、何故かは知らないがメランダたち元奴隷組も付いてきており、特に追い返す理由もないため、同行を黙認している。



 新規の奴隷たちと元クッキー&唐揚げを販売する従業員、そしてメランダたち元奴隷組に、俺とマチャドを加えた総勢百人規模の集団が一瞬にして移動する。



「こ、ここは?」


「うちの従業員たちがクッキーや唐揚げを売っている区画があるだろう? ここはその区画に隣接する土地だ」


「そ、そんなわけありませんよ。だって、ここは商業ギルドが管理する土地で……」


「俺が買い取った」


「なっ……」



 俺の説明をしてやると、あまりの出来事に絶句する。詳しく聞いてみると、商業ギルドが説明してくれたように、この土地は長年に渡って買い手が付かないいわくつきの場所となっており、商人の間でもかなり有名な忌み地らしい。



 しかしながら、ただ以前の所有者が罪人となってしまっただけであって、土地自体に何か商売に関していわくがあるわけではない。



 新たに土地を購入した者が不幸になったという話もなければ、夜な夜な幽霊が出るなどの怪異が起こったという噂話があるわけでもない。ただ単に、前任者が犯罪で捕まったというだけである。



 そして、この土地はコンメル商会にとって都合が良く、露店が立ち並ぶ区画の隣ということもあって、普段から商品を購入してくれる常連客の客足を離れさせることなく店を営業することができる好立地なのだ。



「全員整列!」



 俺の号令にメランダたちがいち早く動き、それに少し遅れる形で従業員が続き、わけのわからない様子だがなんとなくで動いた奴隷たちが順番に列を形成する。



 それを見届けたのち、俺は全員に向かって宣言する。



「諸君……といってもメランダたち元奴隷組は別だが、今露店で働く従業員とそして新たに加わった奴隷たちは、明日からここで働いてもらう。販売する物は以前と同じく軽食で、クッキー、唐揚げ、ミックスジュースに加え、ハンバーガーとフライドポテトを追加販売する予定となっている。当面はこの五種類のメニューを主軸に営業することになるのでそのつもりでいてくれ。シーファン、白銀の団の活動内容……特にシフト関連はどうなっている?」


「はい、それぞれ三つの班に分かれ、そのうちの一斑がダンジョンに潜って素材調達の任に就いており、一週間ごとに班を入れ替えて活動する交代制をとっております。その間、残りの二班につきましては自由行動となっていて、そこで休暇と鍛錬の時間に当てております」



 元奴隷組たちが所属する冒険者クラン【白銀の団】は、新しく追加の奴隷を雇うことになった際、俺が独断で奴隷から解放し自由を与えた連中だ。自由の身となってどこへなりとも行けばいいと言ったが、俺に恩を返すまでは離れないと言って奴隷から解放しても残ってくれたのだ。



「ならば、その二班のうちの一斑をこの店の護衛として回してもらうことは可能か?」


「もちろんにございます!」


「であれば、報酬は……」


「いりません」


「そういうわけにはいかない」



 報酬についての話になった際、シーファンはそれを固辞してきた。彼女の言葉に同意するように元奴隷組たちが頷いているが、経営サイドとしてタダ働きさせるわけにはいかない。



 現在の彼女たちの肩書きは冒険者だが、ただの冒険者ではない。仮にもSランクの冒険者だけで構成されている高ランクの集団である。そんな相手をタダで働かせるなどあってはならないのだ。



 しかも、彼女たちのことは冒険者の間だけではなくこの王都でもかなり有名な存在となっており、そんな相手をタダで働かせたなどという噂が広がれば、コンメル商会としては痛いところを突こうとする人間にその機会を与えてしまいかねないスキャンダルとなってしまう。



 それ以前にSランク冒険者の報酬は高額で、営業時間の間ともなれば長時間その場に拘束されることになる。そんな人材を護衛だけに置いておくとなれば、その報酬も決して低くはなく、少なくとも中金貨や大金貨という話になってくる。



 冒険者ギルドとしても、Sランク冒険者をタダで働かせるといった事実が確認されれば、事情を聞かなければならなくなってくるだろうし、後々になって面倒なことになってくるのは必至である。



 例え本人同士で話し合いがついていたとしても、所属している人間や組織などの第三者たちが納得するかというのは、まったくの別問題なのだ。



「そうだな。一週間の拘束で一人当たりの報酬が大金貨三枚と考えて……月額で一人大金貨十五枚ってところか」


「そ、そんなに受け取れません!」


「じゃあ、あらかじめ冒険者ギルドに指名依頼を出して、パーティー単位での依頼として受けてもらおう。そうすれば、一人頭じゃなく、いちパーティーの報酬ということになる。まあ、それでも報酬は大金貨十数枚にはなるだろうがな」


「で、ですが……」



 元従業員としての矜持なのか、頑なに俺からの報酬を受け取ろうとしないメランダたちを見かねたマチャドが、助け船を出す形で彼女らに助言する。



「受け取ってしまえばいい」


「しかし」


「こう考えればいいのです。ローランド様のお役に立てるための資金を頂いたと」


「どういうことでしょう?」


「労働によって得た報酬をどのように使うのか、それは報酬を得た者が決めること。つまりは、ローランド様から得た報酬をローランド様に使うという選択肢もあるということではないですか?」


「な、なるほど!」


「さすがマチャドの旦那! 商人だけあって頭が良いぜ!!」



 マチャドの言葉に、マチルダたちが称賛の声を上げる。報酬を受け取れないというのならば、その得た報酬を使って報酬を得た者のために役立つことをすればいい。確かに、これならば誰にも文句は言えない。



 依頼主である俺自身、冒険者ギルドを通して冒険者に出した依頼に対する報酬を支払っており、その報酬を得たメランダたちは、得た報酬を好きなことに使う。冒険者が依頼を受けて依頼を達成した場合、その依頼の成功に対して報酬を支払わなければならない。このことについては、冒険者ギルドが守らなければならないルールがあるため、報酬を支払わないわけにはいかない。



 しかし、依頼を達成した冒険者にちゃんとした相場の報酬を支払い、冒険者がその報酬を受け取ったあとについての規定に関しては、受けた依頼の報酬であれやこれをやってはいけないなどの制限はかけられていない。



 つまりは、マチャドの言ったように俺から依頼達成の報酬を受け取ったあと、その報酬を俺のために使った場合、報酬支払後の報酬の使い道に関する規定自体が存在しないため、実質的に問題はない。



「私は、ご主人様からいただいた報酬でコンメル商会に出資しよう」


「あたいはこの店の常連になって食べまくってやる!」


「では、私はご主人様が支援しておられる孤児院の資金援助をいたしましょう」


「ああ、あとオラルガンドのグレッグ商会にも、支援金という形で送れば問題ないかと思いますよ」


「……」



 俺の承諾なく勝手に話が進んでいくのを黙って見つつ、俺は彼女たちを店へと案内することにする。依頼についてはあとで冒険者ギルドに行くことにして、今は彼女たちに店の説明を行うことを優先するのだった。

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