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496話「ちょっとしたトラブルからの朗報?」



「どこに行っていたのだ?」



 サルバドール領から戻ってきた俺を待ち構えていたのは、ご機嫌斜めといった様子のロックドラゴンであった。そういえば、あのままほったらかしにしていたことをすっかりと忘れていたのを今思い出し、こいつの処遇をどうするべきか思案する。



 実際のところ、ロックドラゴンがなぜ人の住む領域に留まっているのかはわからない。何やらぶつぶつと、訳のわからないことを言っている時があるのだが、それはともかくとして、現時点で彼女にやってもらう仕事はないと言っていい。



 竜族の間で起こるとされる【竜刻の時】についても、始まったばかりであり、次の竜刻の時までかなり余裕があると言っているため、今すぐにでもどうこうしなければならないということはない。



 であるからして、それまでは今までいた元の山に帰ってもらうのが一番なのだが……。



「おまえ、山に帰らないのか?」


「貴様は、我がいては迷惑か? 我のことを嫌いになったか?」



 いや、嫌いも何も、俺とこいつが出会ってそれほど時間は経過していない。寧ろ、出会いとしては敵対状態にいたわけだから、最悪と言ってもいい。だというのに、なぜこいつはこれほど悲しそうな顔をするのだろう?



 などと、鈍感系主人公を気取ってみたが、すべてわかっているため、すぐにその思考を破棄する。見た目こそ違うが、なんとなく雰囲気がナガルティーニャのそれに近いため、おそらくそういうことなのだと勝手に判断する。



「……いや、待て。まだ慌てるような時間じゃない。それに、まだ初夜を経験してないじゃないか。嫌われたかどうかは同衾してからでも遅くはない」



 本人は小声で言っているのだろうが、その大きな呟きは丸聞こえであり、下手をすればわざとこちらに聞かせているのではないだろうかと勘繰ってしまうほどだ。



 元々、ドラゴンという性質上声が大きくなってしまうのか、人間の体の時と元の姿の時とで声の調節ができていない様子だ。



「言っておくが、同衾はしないぞ?」


「何故だ!? もう土臭くはないぞ!!」



 そう言って、首から胸元にかけて肌を見せてくる。艶のある健康的な褐色の肌に色気のある鎖骨が露出しており、妖艶の一言に尽きる。そして、何よりもその胸元には服の上からでも十分にわかるほどに膨らんだ乳房が、今にもこぼれ落ちそうになっていて、さらにその妖艶さに磨きをかけている。



 そのエロスな光景を目の当たりにして眉一つ動かさないのは、同性愛者か性欲のまったくない枯れた人間だけであり、当然ながら俺はそのどちらでもないため、視線がそこに行ってしまうのは仕方のないことであった。



「どうだ!? この体、貴様の好きにしていいのだぞ? 舐め回すのも、揉むのも何でもござれだ!! わ、我としては、後ろから無理矢理揉みしだかれる方が――」


「おまえの性癖など聞いてねぇわぁー!!」


「ごふぉ」



 これ以上卑猥な光景を白日の下に晒すのは、コンプライアンス的にはNGだったので、俺はロックドラゴンの懐に入り込み、ある程度加減したアッパーカットを繰り出す。



 下から上に突き上げられた拳は、彼女の顎をクリーンヒットし、そのまま彼女の体が宙へと投げ出される。そして、綺麗な放物線を描きながら、重力の赴くままに床へと叩きつけられた。



「揉み、揉みしだ――ごふっ」


「何という執念だ。だが、これでしばらくは静かになる」



 仰向けで大の字になって気絶するロックドラゴン。そのあられもない姿に、本当に彼女の要望通りのことをしてやろうかとも考えたが、それをすると最後までやられそうな気がしたため、理性を全力フル稼働させ、触ることだけはやめておいた。YESバストNOタッチである。



 その後、騒ぎを聞きつけてやってきた使用人にあとを任せ、俺は国王に諸々の手続きを頼むため、王城へと移動する。



「わかった。すぐに手配しよう」


「よろしく頼む」



 王城へとやってくると、国王に使用人の手配を行うよう頼む。具体的には、執事とメイド複数人、料理人に庭師だ。あとは、ギルムザックに事務仕事を教えてくれる文官が一人に、可能であれば武官も一人くらいはほしいところだ。



 人員の確保についてはこれで問題なくなったが、まだやらなければならないことは山積みとなっている。特に、自給自足を行うための畑作業がまだ手付かずであるため、早急に育てる作物を決めなければならない。



「へ、陛下、大変にございます!!」


「何だ騒々しい。どうしたというのだ?」


「先ほど、王妃様が倒られました」


「な、なんだとっ!?」



 突如として寄せられた知らせに、国王が椅子から立ち上がる。とりあえず、状況を把握するため、国王と一緒に王妃のいる部屋へと向かうことになった。



 王妃が倒れたという知らせを受け、俺たちはすぐに彼女の部屋へとやってきた。そこは、豪華な造りではあるものの、過度な調度品などはなく、シンプルに白で統一された部屋だった。



 唯一の贅沢品といえば、一人用にしては嫌に大きい天蓋付きのベッドが隣の寝室に設置されている程度であり、特にこれといったものはない。



「あ、あなた」


「サ、サリヤ!」



 床に臥せっている王妃を目の当たりにした国王が、彼女に駆け寄り手を握る。そんな国王の行動に辛そうな表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうに王妃が微笑んだ。



「医者は何と言っておるのだ?」


「そ、それが急にお倒れになられましたので、今急ぎで呼びに行っております」


「ええい、早く呼ばぬか!」


「俺が診ようか?」


「ああ、頼む」



 医者がまだ来ていないということで、俺が診察を申し出てみたのだが、すぐに国王によって許可が出される。一介の冒険者に任せるというのもどうかと思うが、緊急性の高い病気だった場合、一刻を争う可能性もあるので、俺はすぐに王妃を調べてみた。



 俺の持つ【極解析】によって王妃を調べた結果、その原因が判明する。その結果に俺は眉に皺を寄せる。そのタイミングで、知らせを受けてやってきた宰相のバラセトと近衛騎士団長のハンニバル、そして第一王女のティアラと第二王女のシェリルが部屋へとやってきた。



「ど、どうなのだ? サリヤの容体は!?」


「……国王、こっちへ」


「ん?」


「ちょっと、こっちにこい」



 そんな焦った様子の国王を俺は手招きする。訳が分からない顔をしつつも、俺の指示に素直に従う国王だったが、俺はそんな国王に対し、最大限に手加減をした蹴りを奴の尻にお見舞いする。



「ふんっ」


「あいた。な、なにをするのだ!? 血迷ったか?」


「ふんっ」


「あいたい」


「お、お待ちくだされ師匠! 確かに国王は頼りなく、師匠が失望されるのもわかります。しかし、だがしかし、それでもこの国を背負って日々国のために邁進されておられる方なのです!!」


「おまえが普段国王をどう思っているのかはよくわかった。だが、別に国王に失望したから蹴ったわけではない」


「では、どういった理由で?」



 国王に危害を加える俺との間に、ハンニバルが割って入る。近衛騎士という立場上、王を守ることを使命としている彼にとっては至極当然の行為であり、寧ろ斬りかかってきても不思議ではない。



 しかしながら、俺が普段こういうことをする人間ではないということを理解しているため、何か理由があるのではという結論に至ったようで、とりあえず俺の攻撃から国王を守ることを選択しつつ、俺に訳を聞くという判断をしたようだ。



「ただのやっかみだよ」


「やっかみ……ですか?」


「国王」


「いてて、な、なんだ?」


「忙しい身の上のくせにやることはやってたんだな?」


「?」


「王妃の体調不良の原因だが、おめでただよ」


「おめでた?」



 そう、王妃を調べた際、状態の欄に【妊娠中】という項目が表示されたため、俺は彼女が倒れたのは突発的な病気ではなく妊娠からくる体調の変化であるとすぐに見抜いた。そして、それと同時に国王に対する嫉妬で、奴のケツを蹴るという行動に至ったわけだ。



「つまりは、妊娠しているということだ」


「ま、まことか?」


「なんなら、あとで医者にも診せるといい」


「そうか……そうか!」



 俺の診断に途端に緊張の糸が切れたらしく、その場にいた全員が安堵の表情を浮かべる。そして、国王は王妃のもとへ駆け寄ると、手を握って彼女に労いの言葉をかけ始める。



「でかした! でかしたぞサリヤ!!」


「ええ、あなた。毎晩無理矢理に誘った甲斐があったわ」


「あ、ああ……そう、だな……」



 王妃の言葉に、何故か遠い目をする国王。どうやら、世継ぎを作ることに関しては王妃の方が積極的だったらしい。だが、見目麗しい女性である王妃から毎晩お誘いを受けていたという点についてはやはり男としては羨ましく、ぶっちゃけ爆発しろと思わなくもないので、国王を蹴ったことはやはり間違いではないと改めて結論付ける。



「まあ、そういうことだから、おめでとうと言わせてもらおう」


「ありがとうございますローランド様」


「できるなら、王子が生まれるといいな」


「必ずや産んでみせますわ!」



 現在、シェルズ王国には第一王女のティアラと第二王女のシェリルしかおらず、このままではどこかの国から王族を婿として迎えねばならない状況であった。

 だが、ここにきて王妃が懐妊したことによってその必要がなくなる可能性が出てきたのである。



「お母様おめでとうございます!」


「おめでとうございます!」


「二人ともありがとう」


「これで心置きなく、私はローランド様のもとへ嫁げますわ」


「まあ、ティアラったら」



 そんな会話が聞こえてくるが、それを了承したつもりはないので、残念ながら彼女の願いが叶うことはないだろう。



 ひとまず、王妃に何事もなかったので、その日は家族で新たな命の誕生を祝うのを邪魔しないよう、俺はそのまま辞去することにした。

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