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494話「叙勲式」



「よって、この男に準男爵の位を授ける」



 俺が最低限の領地開拓を行ってから数日後、ギルムザックたちの叙勲式が行われた。



 まずは、式に参加している貴族たちにギルムザックたちの功績を説明し、シェルズ王国にとって大きな功績を残したことをアピールする。そして、その功績に報いる形で爵位を与えるというもっともな理由をでっち上げた。



「お待ちください陛下。確かに彼らが残した功績は素晴らしいものですが、果たして爵位を与えるほどのものなのでしょうか? 今一度再考するべきでは?」


「……ほう、伯爵は余の判断が間違っておると申すか?」


「そ、そのようなことはありませんが、恐れながらそうそう爵位を与えてしまっては、他の爵位を持つ貴族の方々から反感を――」


「ふむ、この者に爵位を与えることに異を唱える者は、前に出て申し立てよ」



 政治というものにおいて、何か新しいことをやろうとした時、例えそれが正しいことだとしても、何かにつけて難癖まがいの反対意見を言ってくる者というのは一定数存在する。



 それはこの世界でも同じであり、一人の伯爵の位を持つ貴族が、国王の言葉に異を唱える。だが、国王もそれに対抗して威圧を纏って返答するも、それでも引き下がろうとしない。



 そこで、異を唱えた伯爵の言った通りの人間がいるのであればということで、他に反対意見がある者がいればこの場で申し出ろと国王が促すも、大多数ではないにしても、ちらほら前に出てくる貴族の姿があった。



(ふん、利権に塗れた亡者共め……。そんなに自分の立場が大事か)



 嫉妬の感情を隠しもせず、おくびもせず反対の意志を見せる貴族たちに、国王は内心で悪態を吐く。



 貴族という存在は、高貴な者でなければならないという風潮があり、その自尊心の高さから他人の功績を妬む傾向が強い。自身の功績は大っぴらに喧伝し、他人の功績は陰でありもしない噂を流す。その醜さたるや、とても同じ人間の所業とは考え難いものだ。



 つまりは、彼らがギルムザックの叙爵に反対しているのは、ギルムザックがどうこうというよりも、他人が脚光を浴びたり、自分たち以外の人間が目立ったりというのが許せないという子供染みた理由から来るものでしかない。



 さらに厄介なところは、それをあたかも正しい行いだと主張し、自らの行いにまったくの非はなく、悪いのは常に他人であるという考えで行動しているところだろう。



 もちろんだが、すべての貴族がそういった考えを持っているのかと問われれば、そうではない。そうではないが、高貴なる家の生まれとして常に特別視され続けてきた人間にとって、自分が選ばれた存在であり、他者は自分よりも劣る存在であるという固定観念が生まれてしまっていることもまた事実としてあるのだ。



(やれやれ、人間の醜悪な部分がモロに出てやがる)



 そんな貴族たちの姿に、俺は内心で侮蔑的な視線で成り行きを見守っている。



 事前打ち合わせで、叙勲式に参加する旨を国王に伝えていた俺だが、表立って参加すると俺とギルムザックたちとの関係性がバレてしまう可能性があり、今回の叙勲が俺の策略によるものであるということが露見する可能性があったため、現在俺は秘密裏に参加している。



 といっても、ただただ純粋に透明化の魔法を使って気配を消すという物凄くシンプルな状態でいるため、そういった隠蔽系の能力を見破る魔道具があれば、バレる可能性がある。それを考慮して、念のため物陰からこっそり覗き込む形を取っているが、気分はさながら某野球アニメに登場する主人公の姉のようだ。



「飛〇馬! 負けないで」



 他の連中に聞こえないようそれっぽい台詞を口に出しつつ、状況を観察していると、ここで国王が動いた。



「ふむ、諸君らの懸念ももっともである。であるからして、かの者には余が特別に選定した場所を領地として与えることにした」


「特別な場所……でございますか?」


「かの者の冒険者としての功績を考慮し、準男爵位とミステット平原一帯を領地として下賜する」


「な、なんと!」



 国王の宣言に、その場にいた貴族たちにどよめきが起こる。それもそのはず。シェルズ王国に属する貴族であれば、一度は聞いたことがある名だからだ。



 先々代の国王が国力を強化する一環で、開拓の王命を出したが、モンスターの襲来によって失敗の憂き目に遭い、それ以降定期的に調査団を送って様子を探っていた場所だ。



 先々代が失敗してからというもの、一定年数ごとに調査団を派遣していたのだが、結局開拓の話はおろか、調査団自体の派遣規模を縮小するという話も出ていた。



 そんな、王国にとってあまりいい思い出がない“いわくつき”といってもいい土地を領地として下賜するというのは、無理難題以外のなにものでもなく、言外に失敗してこいと言われているようなものであった。



「なるほど、そういうことでしたか」


「これで文句はあるまい?」


「さすがは陛下。そのようなことを考えられていたとは……」



 国王が与える領地の場所を示したことで、不満を漏らした貴族たちは国王の思惑に気付き納得の表情を浮かべる。だが、残念ながら貴族たちが考えている通りの結末にはならないだろう。なぜならば、ギルムザックたちのバックには俺がいるからな。



「改めて問う。このギルムザックに、準男爵の位とミステット平原一帯を領地とすることに異議がある者は申し出よ。 ……では、満場一致でこの者をシェルズ王国の新たな貴族として迎い入れる!」



 後で不服を申し立てられないよう、その場にいた貴族たちに国王が改めて問い掛ける。すると、現金なもので今度は誰も反対意見を言うことはなかった。



 すべては、ギルムザックに与える領地がミステット平原であることに起因しているのだろうが、それにしてもこうもあからさまな手の平返しをされると、清々しささえ感じてしまう。



「今後の活躍を大いに期待する」


「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」


「これより、ギルムザック準男爵は開拓事業で忙しくなる。無用な干渉はせず、各々が持つ役割を従事せよ。よいな。決して邪魔をしてはならぬぞ!!」


『ははぁー』



 国王の念押しに貴族たちは素直に了承する。それを見た国王は口の端をにやりと吊り上げ、まるで悪巧みが成功したかのような表情を浮かべた。



 それはまるで、ギルムザックがミステット平原の開拓事業の失敗を期待しているかのように映っており、事情を知らない者からは実に暴君のような振る舞いであった。



 まあ、俺としては後になって文句を言われても面倒なだけであるため、事前の打ち合わせで国王に貴族たちから言質を取るよう指示は出していたのだが、こうもあっさりと言質を取れるとは思っていなかった。そして、国王よ……そんな顔をしろとは一言も言うとらんぞ?



 普段悩みの種だった貴族たちを手玉に取れるとあってか、国王の張り切りようは尋常ではなく、まるで悪戯好きの少年のような顔を浮かべていた。



 だが、同席していた王妃からは不審な目を向けられており、後で追及されることは想像に難くない。頑張れ国王、陰ながら応援している。



 同じように後でティアラから「そんな面白そうなことがあるなら、私も混ぜてくださいませ」という苦情が来そうだが、そこは頭の一つも撫でてやれば何とかなるだろう。……うーん、なんか女たらしみたいで嫌だが、それが一番手っ取り早いこともまた事実なので、仕方がないのだ。そう、仕方がないのである。



 かくして、ちょっとした物言いはあったものの、予定通りギルムザックの叙勲式は終了したのであった。

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