493話「視察からの開拓作業」
「ここが国王の言っていた【ミステット平原】か」
シェルズ王国王都ティタンザニアから真東に進むこと一時間程度でその場所に辿り着く。一時間といっても、飛行魔法による移動手段を用いての一時間ということになるので、徒歩や馬車での移動となると、実質的には十日以上の道のりになることは確実だ。
「確かに、国王の言った通り何もないな。あっちに森とかはあるけど、周囲は草だらけだ」
周囲の様子を確認してみると、近隣に小規模の森が広がっており、そこにはモンスターの気配がある。特に人工物はなく、本当に人が入っていない自然そのままの状態だ。
国王に詳細を聞いていたが、以前にここいら一帯を開拓して新しい拠点を作ろうという計画が持ち上がったらしいのだが、見ての通りの何もない状態であることと、近くの森や山から人間の気配を察知したモンスターたちが襲い掛かってくるという事態になったため、やむなく断念することになり、それ以降開拓話が持ち上がることなく放置されていた。
しかも、その話というのが現国王の二代前の国王の話となっており、先代国王も十年に一度ほどミステット平原の様子を探っていたらしいのだが、特に変化が見られないとのことで、今代の国王まで開拓計画が出ることはなかったのである。
「地面の質も固いな。こりゃあ、畑を作ってもいい作物はできないだろうな」
地面が剥き出しになっている場所に移動すると、俺はこの辺りの地質を調べるため、地面に手を当てて状態を確認する。だが、この土地そのものは肥沃な土地というわけではなく、あまりいい土ではないようだ。
人の手が入っていないため、草が生え放題となっていることと加えて、最初から土を耕して畑を作っても、あまり質の良い作物はできないのは一目瞭然だった。
「だが、それはあくまでも通常の開拓方法で開拓した場合だがな」
悪巧みをする悪役のようににやりと口の端を吊り上げると、俺はさらに奥に向かって歩き出す。歩いている途中、こちらの気配を察知したのか、森にいたモンスターたちがこちらに向かってくるような動きを見せた。しかし、俺の圧倒的な強者の気配を感じ取ったようで、途中から勢い良く森の奥へと逃げていったのが気配でわかった。
そのまま奥へと平原を進んで行くと、草が生えていない広場のような場所を発見する。ちょうど拠点にできるくらいの広さが確保できるようで、一時的な仮拠点を作ることにする。
「ここをキャンプ地とする!!」
誰にともなくそう宣言した俺は、さっそくストレージからプロトを呼び出す。
相変わらず、ちんまい体のマスコット然とした姿をしているが、初めてプロトを生み出してからかなりの進化を遂げている。それが証拠に……。
「ご主人様、お呼びでございますかムー」
「ああ、今日はこの辺り一帯の開拓作業を行う。プロトは、ゴーレムたちに指示を出してくれ。俺は俺でやるべきことをやるから」
「かしこまりましたムー。【作業用ゴーレム展開】!! 周辺一帯の草を刈り取りなさいムー」
指示を受けたプロトが、さっそく作業を開始する。どこからともなくゴーレムたちを召喚すると、テキパキと指示を出し始めた。
一体いつの間にそんなことができるようになったのかは知らないが、便利な能力を使えるようになったと軽く考え、俺は自分の仕事をやることにする。
「まずは、雨風を凌げる建物の設置だな」
兎にも角にも、人が日夜営んでいく上で重要なことといえば、雨風を凌ぐことのできる住居だ。
それがなければ、雨が降った時に吹きさらしの状態となってしまい、場合によっては体調を崩してしまうこともある。肌寒い冬に至っては、あまりの寒さに凍えてしまい、最悪の場合それが原因で死に至ることも珍しくはない。
だからこそ、人間が必要最低限の生活を送るために重要なものとして、衣食住が保証されることが重要であり、その中でも健康的で安全に過ごすことができる住の部分をなんとかすることにした。
「まあ、魔法で簡単にできてしまうんだけどな」
今まで多くの建物を作り上げてきた俺にとって、建物一つを生み出すことは難しい作業ではなく、それこそ本当に雨風を凌ぐためだけの建物であれば、瞬時にできてしまう。
しかしながら、今回は仮にもこのミステット平原を領地とする新たな貴族が誕生するのだ。それにふさわしい建物でなければ、箔が付かない。
そういった点を考慮した上で、まずは強度について考えることにした。とにかく頑強で、ちょっとやそっとの攻撃では傷の一つも付かないものを基本とし、それを建物の周囲を囲む外壁ではなく、建物自体の壁として使用することにする。
最初に基礎となる土壁を魔法で生み出し、水魔法を追加して作った泥をコーティングする。この時、多めに魔力を含ませることで、物理的にも魔法的にも耐久力が強化され、ちょっとやそっとでは壊れない壁が完成する。最後に風魔法で泥の水気を飛ばし、土壁から剥がれないように付着させれば、お手製の耐久強化防壁の完成である。
そして、外壁に関しては建物に使用した魔力量の五倍の魔力に引き上げることで、さらに強固な壁を設置する。これで、大抵のモンスターの攻撃を防ぐことができ、壁を壊して侵入してくるということはないだろう。
さらに、見栄えを良くするため、外壁は黒に建物に使った壁は白に変化させ、これから増やす建物とは違った特別感を演出する。
「こんなもんかな」
外壁と建物の外装が完了すると、今度は内装を決めていく。内装は、貴族が住まう建物として使用されるため、部屋数は十から十五程度にする。実際はもっと多くても構わないが、まともな生活を過ごせる程度の空間であれば問題ない。
内装は、客人を迎えるための応接室に始まり、執務室、書斎、厨房、エントランスホール、寝室、客室、ダンスホール等々、最低限必要な造りにしてある。
ちなみに、参考にしたのはマルベルト領の屋敷となっており、規模としても庭があるかないかの違いだけしかない。
さらに、内装の色合いに関しては、鉛色の石畳を使用することで、厳かな雰囲気と貴族として必要な高貴さを演出している。
調度品についてはおいおい揃えていくこととし、厨房に必要な調理器具や寝室や客室に使用されるベッドを設置する。それに加えて、モンスターや何らかの勢力による襲撃に備えるための戦闘ゴーレムを複数体設置し、防衛力も抜かりなく高めている。
「俺はあいつらに何と戦わせるつもりなんだ?」
過剰戦力といってもいい状態だが、世の中翼人や管理者などという通常ではありえない存在がいる以上、準備しすぎでちょうどいいのだ。何が起こるかわからないのが人生であり、そういった異常事態に対処できるよう最善を尽くのだ。やらない後悔よりも、やる後悔なのである。
そんなこんなで、一通り内装が完成したところで、プロトが状況報告のためにやってきた。
「ご主人様、この辺り一帯の草刈りが完了しましたムー」
「ご苦労」
プロトの報告を受け、一度外へと出る。飛行魔法でギルムザックたちが暮らす屋敷全体を見てから、プロトたちが刈ってくれた一帯が入るように外壁を魔法で移動させる。ある一定の広さを確保できたので、拠点に関してはこれくらいにして、次に畑の耕作を行うことにした。
「プロト、ゴーレムの半数は引き続き領地拡大の作業を行い、残りは畑作業に回してくれ」
「かしこまりましたムー」
俺の指示し従い、プロトは配下のゴーレムたちに命令する。俺はといえば、邪魔になっている草木を魔法で除去してから畑を耕し始めた。
地質的にあまり良質ではないため、多少手を加えることで最高品質とはいかないまでも、そこそこいい感じの作物が作れるように調整した。
最終的に二十五メートルプール一面くらいの畑の畝が完成し、開拓に必要な拠点と自給自足に必要な条件も満たした。軽く周囲を探索してみると、小さいながらも川が流れているのを確認したため、川魚なども確保することができるだろう。
冒険者である以上自分の食い扶持は自分で稼いでもらいたいので、あとはギルムザックたちに任せることにした。多少おんぶに抱っこな状態かもしれないが、俺の我が儘で貴族になってもらう以上、これくらいのサポートは問題ないと思いたい。というか、あいつらに任せてたら半年経っても自分の拠点すらまともに作れなさそうだしな。
「とりあえず、こんな感じで大丈夫かな」
そう独り言ちた俺は、プロトに草刈りと周囲のモンスターの掃討を指示すると、一度王都へと帰還することにした。
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