491話「確認作業」
「そうか、候補が見つかったか」
「ああ。あとは候補となる領地の選定だけだ」
「わかった。いくつか候補を纏めておくとしよう。準備ができたら連絡する」
一度、身代わりとなる貴族候補が見つかったことを国王に報告するため、再び王城を訪れた。だが、あまりに早い報告であったため、国王からは最初から候補をピックアップしていたのではないかと思われてしまった。
俺がギルムザックたちと冒険者ギルドで会ったのはたまたまだ。確かに、ここ最近の彼らは王都とオラルガンドを往復していたようだが、狙って会うことはできても、貴族にする候補として意識していたわけではない。偶然に偶然が重なった結果によるものであった。
こういうのをご都合主義というのだろうが、人間生きていれば、自分の都合の良いように事が運ぶことなど、一度や二度あってもおかしくはない。今回はたまたまそれが起こっただけである。
今までこの世界で生きてきて、それが何度も起きているような気がしなくもないが、俺がこの世界を管理する管理者の都合で存在しているとしたら、多少そういった点において優遇されていても何ら不思議はない。
などと、もっともらしい言い訳を並べ奉ってはいるものの、実際のところは本人に確認を取ったわけではないため、その真相は闇の中である。
「問い詰めるか? いや、あの吾輩野郎がそう簡単に自供するとは思えん。あいつの小説に対する執着は、かなりのものだったからな」
ご都合主義が起こっていることに対しては問題はない。だが、それによって俺の進むべき道があらかじめ決められていることに憤りを感じる。
誰だって、自分のことは自分の意志で決めたいと考えるだろうし、それを勝手に決められているのだとしたら、その相手に文句の一つも言ってやりたいと考えるのは普通のことだ。
「まあ、とりあえず。疑わしきは何とやらとよく言うからな。しばらくは様子を見るとしよう」
ひとまずは、奴のことに関しては一旦保留にし、一度屋敷へと戻ることにした。
「おう、帰ってきたか。どうだ? これならば問題あるまい!」
屋敷に戻ると、客室として利用している部屋のソファーにロックドラゴンが寛いでいた。だが、その姿は最初に会った時とはかなり異なっており、見た目が良くなっている。
汚れは浄化され、髪は艶を取り戻し、ムチムチの体にも清潔感が蘇っている。確かに、汚れていた時とは比べ物にならないほどの魅力を取り戻したようだ。
だが、残念ながら最初の初対面の印象が悪すぎたが故の弊害か、確かに客観的に見れば魅惑的な体つきをしているのだが、俺個人の感想としては彼女に魅力を感じることはなかった。
やはりというべきか、人の持つ魅力というものは見た目の美醜ではなく、人柄で決まるものだということを今回の件で改めて思い知らされることとなった。
「そうだな。とりあえず、臭くはなくなった」
「であろう! な、ならばこのまま寝所へ向かい為すべきことを為そうではないか!!」
「寝たいなら、おまえ一人で寝ろ。それに俺は忙しい」
「な、お、おい! 待て、我の話を聞け――」
俺を呼び止めようとするロックドラゴンの声を無視して、そのまま部屋の扉をバタンと締め切る。中からは、「くそう、次こそは必ず……」などという彼女の諦めの悪い台詞が聞こえてきたが、その努力が報われることがないと心の中で思いつつ、状況確認のため俺はコンメル商会にも足を運ぶことにした。
「本当にスタンピードを何とかしてしまったのですね。にわかには信じがたいですが……」
先にメランダたちが報告していたのか、俺の口から改めてその事実を聞かされて、呆然とするマチャドだったが、いつも驚かされて耐性がついているのか、すぐにいつもの彼に戻った。こいつも、なかなかわかってきたようだ。
「それで、何か問題はあったか?」
「いえ、特に問題はありません。スタンピードと聞いて最初の内は浮足立っておりましたが、コンメル商会にはローランド様がおりますので、何も心配ないと我々はそう信じておりました」
「まあ、実際はメランダたちがやったんだけどな」
「そんなことはないです。寧ろ、まだまだ実力不足だということを痛感しました」
「最後に出てきやがったドラゴンを、ご主人様が手玉に取るところなんざ痺れちまったねぇ~」
「本当に、素晴らしかったですわ!」
ちょうど、メランダたちがマチャドに報告していたらしく、彼女たちも同席する形での報告となったが、メランダ・カリファ・シーファンが顔を輝かせながら、それぞれ感想を口にする。
「そんなことが!? それでそのドラゴンは倒されたのですか?」
「一応顔見知りだったから、事情を聞こうとしたんだが、なんか錯乱していたから治療魔法で治して事情聴取したら、どうやら暴れていた原因はドラゴンの体質上の問題だったらしい。しかも、他のドラゴンも暴れ出すかもしれない可能性があるみたいでな。今後はそれを止めるために動くつもりだ」
「なんだか、話が大きすぎて付いていけません」
「まあ、ご主人様はすげぇってこった」
「カリファ、そんな取って付けたような言い方しなくても」
「事実じゃねぇかメランダ隊長」
というような感じで、マチャドへの報告を済ませると、俺は孤児院や他の場所へも赴き、何か被害が出ていないか確認後その日は終了した。
冒険者ギルドや商業ギルドの面々、並びに国王たち国の上層部は後処理にてんやわんやだったらしいが、スタンピードを止めるのとどちらが辛いかと問われれば聞くまでもないため、その日は俺のところに呼び出しが来ることはなかったのである。
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