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489話「身代わり人材発掘?」



「という感じだ」


「そうか、おまえにはまた世話になってしまったな。礼を言う」


「問題ない。自分のためにやったことだからな。それよりも、このあとのことなんだが……」


「ああ、わかっている。此度のおまえに与える褒賞についてだろう」



 国王のもとへと赴き、今回のスタンピードについて報告をする。できることならば、報告だけで済めばよかったのだが、やはりそうは問屋が卸さないのが現実だ。



 俺がその件について問い掛けると、やはりというべきか、国王は苦々しい顔を浮かべる。おそらくは、国王として国を救った英雄に与える褒賞について悩んでいるといったところだろう。



「何もなしってわけにはいかないよなやっぱり」


「そうだな。俺としてはおまえに貴族になってほしいが、それは嫌なのだろう?」


「聞くまでもないな」


「それができれば、おまえに伯爵か侯爵の位と相応の領地を与えるだけで済むんだがな」


「そして、ティアラとの縁談を円滑に推し進めるという魂胆か」


「年頃の娘を持った父親の心情などわかるまい。会う度に“いつになったら、ローランド様と婚約できるのですか?”と言われる父の気持ちなど……」


「……」



 国王の哀愁漂う雰囲気に思わず口をつぐむ。彼は彼でいろいろと大変なようだが、だからといって俺の行動が制限されるような事態になるなどあってはならない。



 国王自身もそれについては理解しており、だからこそ国王の持つ権限を使って無理矢理に爵位と領地を与えることもできることをせず、何か相応しい報酬がないかと頭を悩ませているのだ。



 もっとも、本当に爵位と領地を与えられた場合、俺がこの国から出ていくことは想像に難くないため、彼としても爵位と領地を与えたくても与えられないというジレンマに陥っている。



「一つ、欲しいものがある」


「なんだ? 何でも言ってくれ」


「この国に、誰の領地にもなっていない土地はあるか?」


「ん? それなら王家が所有管理している所領の中にいくつかあるが、ほとんど管理が行き届いていない場所もある。一から開拓しなければならない場所もあるから、領地として下賜することもできんぞ」


「構わん、寧ろそういう土地が今回の最適場所だ」


「だが、領地を与えるとなると、それに伴って同時に爵位も与えることになるぞ?」


「それについては、別の人間に爵位と領地を与えることでなんとかすればいい。とりあえず、目ぼしい土地を選んでおいてくれ。俺は、人物の発掘を行うとしよう」



そういったやり取りが交わされた後、俺は国王のもとから脱出することに成功する。とりあえず、目下の目標としては俺の代わりに領地と爵位を受け継いでくれる人材を見つけなければならない。



 せっかく、ビンボー領地の跡取りという悲惨な運命を弟に押し付け……もとい、託した俺が、何が悲しくて王家が所有する所領の一部から領地と爵位を下賜されなければならないのか。これこそまさに、本末転倒も甚だしい。



 だからこそ、そういったことにならないためにも、誰か適任の人材を見つけ出さねばならない。一度弟で成功してるんだ。今回は二度目ということで、問題ないと確信している。……人材さえ見つかればな。



「さて、誰に領主をやってもらおうか……」



 唯一困っていることがあるとすれば、人材の確保である。そこさえクリアできれば、事はスムーズに運ぶのだが、領地の管理ができ、スタンピードなどのモンスター関連のトラブルが起きてもある程度対応でき、尚且つ貴族になることを了承してくれる人材なんてそこらへんに転がっている訳が――。



「俺たちも、そろそろ冒険者から足を洗って、今後の身の振り方を考えておいた方がいいかもな」


「何言ってるのよ! やっとSランク冒険者になれたっていうのに、このまま引退なんてもったいないじゃない!」


「そうだよ。それに僕たちだってまだまだ若い世代に負けてないさ」


「そうです。それに、このまま何もせず引退したら、ここまで強くしてくれた先生に申し訳が立ちません」



 俺が人材確保で悩み、なんとなく冒険者ギルドに足を運んでみると、見知った顔がいた。誰かといえば、ギルムザック・アキーニ・アズール・メイリーンの四人組パーティーだった。



 こいつらとは結構前から知り合い、戦い方の手ほどきをしてやったことで、俺のことを師匠と仰いでいるが、別に俺はそんなつもりで教えたわけではなく、その師匠というのも彼らが勝手に呼んでいるだけであって、未だに認めてはいない。



 だが、何やら真面目な話をしているが、その内容が些か興味深い話であったため、彼らに気付かれないように気配を殺して、ギルムザックの背後に立った。



「おまえらはいいよ。まだ若いからな。だが、俺はもう二十四だ。もう無茶が通じる歳じゃねぇ」


「そんなことないわよ、ギルムザックならまだまだやれるわ!」


「そうだよ、それに若いって言っても、三つか四つくらいしか変わらないじゃないか」


「私は二十三なんですが、それは私がおばさんという歳だと言いたいのですか……」


「そ、そんなことは誰も言ってねぇぞ」



 などと話し合っている四人だったが、いい加減こちらに気付いてほしいということで、不意に声を掛けてみた。



「面白い話をしているな。俺にも聞かせてくれよ」


「「「「うわぁー(ぎゃあー)!!」」」」



 いきなり声を掛けたせいで、四人全員が悲鳴を上げた。何事かとこちらに視線を向けてくる冒険者もいたが、冒険者ギルドはスタンピードの後処理で忙しいため、ギルド内にいる冒険者はちらほらとしかいない。



「し、師匠!? い、いつからそこに」


「おまえが、そろそろ冒険者から足を洗ってと言い出した時からだ。それで、冒険者を辞めるのか?」


「ち、違うんです師匠。今すぐって訳じゃなくて」


「誰が師匠だ。俺はおまえらの師匠になった覚えはない。ちょっと戦い方を教えただけの人間に過ぎない」



 何か言い訳がましいことを口にしていたが、いい機会だと思い、ここぞとばかりに彼らの師匠ではないアピールをするものの、それはすげなく却下されてしまう。



「俺たちは、師匠のお陰でここまでこれました。だから、誰が何と言おうと、師匠は俺たちの師匠です!」



 ギルムザックの言葉に他の三人が力強く頷く。ちっ、師匠からの脱却は失敗に終わってしまった。



 だが、改めてこいつらを見て思った。ひょっとして、こいつらなら俺が求めている条件に当てはまるのではないかと……。



 まず、領地の管理だが、何もない土地を開墾するには体力が必要となる。しかも、国王の話では管理が行き届いていない土地には低級とはいえモンスターの巣窟となっており、一般人が赴けば、それこそ命の危険がある場所だ。



 だが、こいつらなら冒険者としての経験があり、モンスターとの戦いにも慣れているため、余程の相手でなければ対処ができるだろう。しかも、俺が鍛えたから開墾するための体力も十分に持ち合わせている。



 後は、貴族としての教養が必要となってくるが、そこはそれを教えてくれる人材を国王から貸し出してもらうなり、俺がこいつらに叩きこめば済むだけの話だ。



 そう考えれば、こいつらなら俺が探していた【俺の代わりに領地と爵位を引き受ける人間】として条件に当てはまるのではないかと思い始めていた。よし、そうと決まれば人材発掘だ。



「おまえたち、頼みがあるんだが……」


「な、なんですか師匠。なんか雰囲気が怪しいんですが」


「そんなことはないぉー。いつもの太々しい俺だ」


「た、確かにいつも太々しいですが……ああ、いえなんでもないです!」



 俺の雰囲気の変化を敏感に察知したギルムザックが席を立って身構える。だが、彼にとって不幸だったのは、彼が座っていた場所が壁際であり、席を立ったところで逃げる場所がなかったというところだろう。



 俺はあらかじめ視線で他の三人に“奴を逃がすな”とアイコンタクトを送り、一瞬にしてギルムザック以外を味方に付けたのだ。パーティーのリーダーよりも、俺を優先してギルムザック捕獲に協力する三人に対し、「それでいいのか? リーダーの存在意義とは一体?」という言葉を投げ掛けてやりたいところではあるが、今はそれが助かっている部分もあるため、そこは協力してくれることに免じて敢えて追及は避けることにする。



「くっ、お、おまえらぁー!」


「では、ギルムザックよ。貴族になってみないか?」


「へっ? き、貴族?」


「そうだ。実は、かくかくしかじかぽんぽこぴーというわけでな」


「い、いやわかんないです……」


「なるほど、先生の代わりに領地と爵位をギルムザックが受け継いで、先生はその領地でいろいろと開拓を行いたいわけですね」


「……まあ、そういうことだ。簡単に言えば、従業員として俺に雇われる気はないかということだ。その報酬の一部として、爵位と領地を与えて貴族として生きる道をくれてやるということだな」



 などと言っているが、俺の本心としては面倒なことをすべてギルムザックに押し付けてしまおうという魂胆であり、かつて俺が弟にやったこととまるで同じことであった。



 だが、ギルムザックから返ってきた反応は、俺が予想していたものとは違っていた。

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