488話「厄介事というものは、後処理の方が大変だったりする」
「ローランドくん、無事だったの~? 怪我はない~?」
「わぷっ、見ての通りだから、あまりくっつくな」
まず初めに、冒険者ギルドのギルドマスターであるララミールへの報告だ。遠目から見ていただろうが、こういうことは直接報告したという事実が大事であるため、無事にスタンピードが終息したことを伝えようとしたが、わざとらしく心配した振りをして、俺の頭を自分の胸の谷間に埋もれさせようとしてきた。
どっかのドラゴンと違って女性特有の甘い良い香りが漂ってきたが、それを受け入れてしまうと後でとんでもないことになりそうであるため、即座に拒絶の態度を見せる。
「んもう。ローランドくんったらいけずなんだから~。君さえよければ、この体を好きにしていいのに~」
「いつから冒険者ギルドのギルドマスターから娼婦に転職したんだ?」
頬を膨らませながら、その豊満な体を左右にくねらせる姿は、確かにそそるものがある。だが、一度手を出せば、すべてを食い尽くされる大蛇の如き様相になりそうであるため、見え透いていても、その誘いに乗るわけにはいかない。
ただでさえ、俺との婚姻を望んでいる女性は一定数おり、一人でもそういった関係になれば、芋づる式のように二人三人と人数が増えてしまうだろう。そうなってしまえば、ハーレム系主人公の道を一直線に突き進むことになる。それは、なんとしても避けねばならない。
「くそう、あのダークエルフめ。まさか、アレがあやつの番なのか? いや、そんなはずはない。確かに、乳はデカいが柔らかさと形は我に軍配が上がっておる。こうなったら、今夜にも寝屋に忍び込んで……」
なにやら、不穏な台詞を言っているが、俺がそういった魔の手から幾度も逃げ延びてきた手練れであることは思ってはいないようだ。それが無駄な努力にならないことを祈っているが、彼女の思惑は外れることになるだろう。
そういった一幕はあったものの、とりあえずはララミールに報告したという形上ではあるが報告できたため、俺たちは一度屋敷へと帰還することにした。
「ほう、ここが貴様の住処か。なかなか立派なものではないか」
屋敷に戻ると、ロックドラゴンがそんな感想を寄こしてくる。ずっと山の中に住んでいた彼女から見ても、どうやら俺の屋敷というのはかなりのものに映るらしい。
確かに、この屋敷を国王からもらった時はかなり驚いたが、今となっては住み慣れた我が家としての認識が強いため、そういった感情を次第に抱かなくなっていたのだ。
これは、個人的にはかなり悪い傾向だな。前世の芸人がバラエティ番組で言っていた一言を思い出す。“当たり前じゃねぇからな! 当り前じゃねぇぞ!!”だったか?
「とりあえず、風呂にでも入ってきたらどうだ? いつまでもそんなみすぼらしい格好でいるのは、良くないだろうからな。おい、彼女を風呂に入れてやれ」
「かしこまりました。ご案内します」
「む、我に風呂など必要などないぞ? 水浴びなら一月前に浴びたばかりだ」
「まるで最近のような言い方だが、人間の尺度で言うなら、一月前は最近じゃないぞ? 俺が入れと言ってるんだ。俺の言うことが聞けないのか?」
「うっ……わ、わかった。……そうだな。将来の番の相手が言うのだ。旦那様の言うことを聞くのは、つ、妻としては当然だからな」
「何をぶつぶつと言ってるんだ? さっさと行け」
俺が風呂に入ることを促すと、ロックドラゴンは渋々ながらもメイドと一緒に風呂へと向かって行った。その時、何やらぶつぶつと言っていたようだが、その声があまりに小さかったため、俺の耳に届くことはなかった。
とりあえず、一度執務室へと移動し次の面倒事である要人たちに報告するという通過儀礼を行わなければならない。あと残されている報告するべき場所は商業ギルドと国王の二つである。
商業ギルドについては、リリエールに言えば事足りるため、特に問題は起こらない。だが、問題はこの国のトップである国王だ。
どんな経緯であれ俺が王都の壊滅を救ったという事実は変わらず、それについて褒賞を与えてくるのは明白だ。特に彼の国王という立場上、信賞必罰は国のトップにいる以上他の者に示しを付けるという意味でも、俺に対し何かしらの褒美を与えねばならないだろう。
国王との話し合いでいい落としどころを見つけられればいいのだが、最悪の場合、またプチ家出をすることも考えねばなるまいな。
「ソバス、今回の件については結果は上々だった。故に特別な臨時の給金を与える。あとで分配してくれ」
「ありがとうございます。使用人たちも喜びます」
そう言って、俺はソバスに金貨の入った革袋を手渡す。一応だが、中身は小金貨と中金貨が入っており、一律中金貨数枚という屋敷に雇われている使用人の給金としては破格の報酬になるだろう。
もっとも、Sランク冒険者並みの実力がある彼ら彼女らであれば、冒険者ギルドで活動を行えばその程度の金など瞬く間に稼いでしまうのだが、それには常に命の危険が伴う。
そういった命の危険がなく大金を手に入れられるのならば、それに越したことはない考えていいる使用人たちであれば、今回の臨時ボーナスは有難い限りであると俺は考えていた。
「それとは別に、この屋敷の維持費とおまえたちの今後の給金を先に支払っておく。もしかすると、またこの国を出なければならなくなってしまう可能性があるだろうからな」
「竜刻の時をお止めになるのですね?」
「それもあるが、今回の件で国王が提示する報酬如何によっては、国を出る可能性があるってことだ」
「左様でございますか」
俺がそう言うと、ソバスは一瞬悲しそうな顔したが、すぐに元の表情へと戻って、当座の金が入った皮袋を受け取った。中身は大金貨数百枚という平民には一生かかってもお目に掛かれないほどの大金が入っているが、毎年一万枚以上の大金貨が手元に届く身としては、もはや大金貨の有難みなど皆無に等しい。
これも良くない傾向だと感じているため、もう少しお金の有難みという意識は忘れないようにしようと考えを改めることにし、俺はソバスに一言挨拶をしてから商業ギルドへと瞬間移動する。
「なるほど、仔細了解しました。商人たちには、それとなく情報を伝えておきます。ローランド様、王都を救ってくださり、誠にありがとうございました」
「気にするな。自分のためにやったことだからな」
「それでも、王都の人々が救われたことに変わりはありませんから」
「じゃあ、これ以上報告することはないから、これで失礼する」
「わかりました。今度お会いする時は、是非とも商売のお話しでお会いたいものです」
去り際にそう言ってくる辺り、商売人らしいといえばらしいリリエールだったが、細かい追及をしてこない分、報告は簡単に済んでしまった。
さて、問題はここからだが、このまま報告しないわけにもいかず、俺は覚悟を決めて国王のいるであろう執務室へと向かった。
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