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487話「スタンピードの終わり」



「ご、ご主人様。ご無事ですか!?」


「ああ、見ての通りだ」


「ご無事の帰還何よりです。ところで、そちらの方はどなたですかな?」



 メランダたちのもとへ戻った俺は、彼女たちに自分の無事を報告する。俺の無事な姿に安堵の表情を浮かべる中、目ざとく彼女の姿を見つけたソバスが問い掛ける。



 特に隠す理由もないため、彼女が先ほど暴れていたロックドラゴンであること、その原因が竜刻の時という竜族特有のものであることを説明した。



 彼女があの巨大なドラゴンだったということを聞いて、その場にいた全員が警戒を強めるが、その行動に理由があることを知ると、警戒は解かないものの一応納得はしてくれた。



 当然だが、ロックドラゴンにはストレージに入っていた適当な布切れを体に巻き付けて、ローブのような装いを施してある。すっぽんぽんのままでは、いろいろとマズかったからな。



「ローランド様は、その竜刻の時というものをお止めになるのでしょうか?」


「そうせざるを得ないだろうな。このまま見て見ぬふりはできるが、俺が動かなかったことが原因で人が死んだなんてことになったら、俺のせいになるだろ?」


「そうは思いませんが」


「まあ、とにかくこの先ドラゴン共が暴れ出すっていうのなら、対処することにあるだろうな」


「かしこまりました」



 ソバスたちとの情報共有が済んだ後、残っているモンスターの掃討を行うということになった。ロックドラゴンが正気に戻ったことで、スタンピードのモンスターたちも脅威を感じなくなり、元の住処へと逃げ始めていた。



 それでも、まだ脅威は続いていると勘違いをしている個体もいるようで、そういったモンスターがまだ数千は残っているのだ。



 目的を失った群れ程度であれば、ソバスたちでも十分に対処は可能であるため、社員研修の続きとして残ったモンスターはソバスやメランダたちに任せることにした。



「ところで、この近くにいるドラゴンはおまえだけか?」



 竜刻の時に対処するのであれば、その鍵となるのはドラゴンたちの所在地である。ドラゴンのことはドラゴンに聞けということで、俺はロックドラゴンに聞いてみた。



「ドラゴンにも縄張りのようなものがあってな。この辺り一帯を我が縄張りにしている関係上、他のドラゴン同士ある程度の距離を取って生活している。ここから一番近いドラゴンとなると、この方向に我の翼で二日ほど行った場所にある火山地帯に、ファイヤードラゴンがいたはずだ」


「この方向は、セコンド王国か」



 奇しくも、ロックドラゴンが指を差した方向は、俺が今も結界で他国との接触を強制的に断ち切ったセコンド王国であった。元々、セコンド王国と俺が拠点にしているシェルズ王国は仲が悪く、毎年戦争をしている状態だった。そのため、それをやめさせる形を取るべく、セコンド王国の国境線に沿って結界を張り巡らせたのである。



 結果的には、そのお陰もあって長年目の上のたんこぶだったセコンド王国の問題が解決し、シェルズの国王には感謝されたが、どうやら再びセコンド王国に向かうことになりそうだ。



「だが、焦ることはないと思うぞ。あの頑固者は、性根がひん曲がっておるから竜刻の時の影響下でも最後まで抵抗するだろう。あと二、三年は狂乱状態にはなるまいて」


「それでも、放っておける問題ではないからな。折を見て様子を見てくることにする」



 それから、ロックドラゴンから他のドラゴンの居場所を聞き出すと、セイバーダレス公国、セラフ聖国、ブロコリー共和国、そして最近訪れたバルバトス帝国にもドラゴンがいることがわかった。



 属性別に言えば、セイバーダレス公国には風のドラゴン、セラフ聖国には光のドラゴン、ブロコリー共和国には水のドラゴン、そしてバルバトス帝国には闇のドラゴンがいることがわかった。



 他の氷や雷といった、上位の属性を持つドラゴンの居場所についても聞いていみたが、基本的にドラゴンというのは生物系の頂点に位置する存在であり、その力関係のバランスが壊れることを恐れた当時の他種族たちが、全竜族に対しある盟約を持ち掛けた。



 それは、各ドラゴンたちをバラバラの領域に住まわせることで、ドラゴンという戦略級の力を持った存在が一塊にならないようにしたのである。



 ドラゴン自体も群れる種族ではなく、基本的に一匹狼の気質があるため、バラバラに住むことに問題はなかったため、他種族の要請を受けていつしかばらけて生活するようになった。



 それでも、上位属性を持ったドラゴンたちの力は凄まじいということで、どこか人のいない孤島や領域に住んでおり、そういった存在が人間の住む領域にまでやってくることはドラゴンの歴史の中でもほとんどないそうだ。……なに、そのフラグみたいなの。嫌な予感しかしないぞ。



「であれば、その時には我も同行してやろう。我と一緒にいられるのだ。嬉しかろう」


「別に無理して付いてくることはないぞ? 縄張りがあるのだろう。だったら、余計な問題を起こさないようこの国から出ないでくれ」


「ぐぬぬぬぬ……。嫌だ! こうなったら地獄の果てまでも貴様についていってやる!! そして、我の魅力を貴様に教えてやるのだ!!」


「土臭いドラゴンが何を言ってるんだ? ドラゴンなら同じ種族のドラゴンを相手にしろよ」


「……ぐぬぬ。これが、雄を求める雌の本能なのか? 厄介、実に厄介である」


「何をぶつぶつと呪文を唱えているんだ?」



 この時の俺は知らなかったのだが、モンスターの雌が雄に対して魅力を感じるのは純粋な強さであり、強い個体の雄がいると、雌は求愛行動と称してその雄にべったりになるらしい。



 後になってそのことを知った俺の感想は、当然ながら知ったこっちゃないというものだが、のちにこのことがある面倒事を引き起こすことになる。



 ロックドラゴンから情報を得ている間に、ソバスたちによるモンスターの掃討は完了したようで、あれだけ群れていたモンスターたちは影も形もなく、周囲にあるのは彼らが屠ったモンスターの死骸のみとなっていた。



 ここから得られる素材は、彼らの報酬として後で俺のポケットマネーから支払うつもりだ。タダ働きをさせる気は一切ない。ブラックはいかんのだよ、ブラックは。



「ローランド様、生き残ったモンスターを処理が完了しました」


「ん、ご苦労」


「この後はいかがなされますか?」


「とりあえず、これでソバスたちの確認は終わったから、後は関係各所に今回のスタンピードが終結したことを報告して終わりかな」



 実を言えば、今回の件でその報告が一番面倒だったりする。関係各所といっても、精々が冒険者ギルドや商業ギルドのギルドマスターと、国王に一言伝えるだけだ。



 言うは易し行うは難しとはこのことで、仮に今回の件を報告すれば、報酬についての話し合いの場が設けられることになり、一国の一大事を救ったとしてそれに見合う報酬を支払うということになる。



 俺としては、降りかかる火の粉を払ったという認識であり、まかり間違っても国のために動いたわけではないので、そういった報酬をもらうこと自体望んではいない。



 そういった意向を伝えたところで、報告相手も「はいそうですか」と引き下がってくれればいいのだが、立場的にも何も報酬を与えないというのもそれはそれで問題があるということは予想できる。



「また、どっかの土地を貰って農園でも作るか? いや、できればダンジョンがありそうなところがいいから……」


「貴様は、一体何を呟いておるのだ?」



 今度は俺がぶつぶつ呪文を唱える番となってしまい、それを先ほど指摘したロックドラゴンに言われる形となってしまったが、とりあえずは相手から求める報酬についての目途は立ちそうである。



 そんなことを考えつつ、まずは一番近い報告相手である人物のもとへと向かうことにした。

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