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486話「竜刻の時」



「ええい、面倒臭い! 【パーフェクトディスペル】!!」


「ガァァァァァ!」



 解呪系の魔法の中でも最高レベルの【パーフェクトディスペル】を見舞ってやる。そのあまりの強さに、断末魔の叫びをロックドラゴンが上げる。



 今度こそ元の状態に戻ったらしく、その目を見ると、以前会った時のように知性が宿っていた。



「どうやら、助けてくれたようだな。礼を言う」


「別にお前のためにやったわけじゃない。さあ、話してもらおうか? 今ドラゴンたちの間で何が起こっているのか? 【竜刻の時】とは、一体なんだ?」


「ふむ、そうだな。こうなった以上は、おまえにも知る権利があろう。よかろう、そこまで聞きたいのであれば話してやる」



 あくまでも不遜な上から目線の態度に若干イラっときたが、ドラゴンという生き物はすべての生物の生態系の頂点に君臨する存在であるため、こういった言動を取っても不思議ではないと考えた。



 圧倒的な力でどっちが上位者かわからせてやることは容易い。だが、そんな餓鬼のようなことをするわけにはいかない。年齢的には餓鬼だが、精神的には大人なのよね俺。これ大事。



 そんなわけで、偉そうなロックドラゴンの説明を聞くと、何でもこの世界に住まう竜族には、ある特定の決まった制約があるらしい。



 それは、数千年に一度の割合で起きるとされている【竜刻の時】と呼ばれる厄災事であり、竜の血に含まれる魔法的な要因によって一種の錯乱状態となり、敵味方の区別なく暴れるというものだ。



 特に、その状態になったドラゴンがよく標的にするのが人間であり、今回のスタンピードはロックドラゴンがその竜刻の時の影響で自我を失い、人間が密集している場所へ向かっていた結果起きたものであった。



 なぜそのようなことが起こるのかについては、ドラゴン族の間でも謎とされており、長年に渡って研究されてきたが、その明確な原因については未だ解明されていないそうだ。



「自我を失った結果、人間がいる都市に突っ込むとか、俺らからすれば傍迷惑な話だな」


「それについては、面目次第もない」


「それで、竜刻の時なんて名前が付くということは、おまえ以外にもそういう風になるドラゴンがいるってことだよな?」


「無論だ」



 ロックドラゴンの話では、竜族というのは世界に存在する属性の数だけ存在しているということらしい。ということは、今回はロックドラゴンだったが、今後火のドラゴンや水のドラゴンなどといった各属性のドラゴンたちが、今回のような暴走を引き起こす可能性があるということだ。



 しかも、竜刻の時が起きる割合は数千年に一度という、俺の個人的な感想だが割とよく起こる出来事だ。感覚として、皆既日食が起きる割合が、大体三百年から四百年に一度とされているが、それに近い印象を受ける。



 年数的には十倍くらいの差があるし、周囲に与える影響は比較にならない。だが、この世界的には地球でいうところの皆既日食に相当する出来事ではないかと判断した。



「次にそうなるドラゴンに心当たりは?」


「ファイヤードラゴンだな。我と同時期に誕生したドラゴンだからな。もう、狂乱状態になっていてもおかしくはない」


「そうか、ドラゴンの事情は大体把握した。おまえは、もう大丈夫だろうから山へ帰れ」


「断る」


「なに?」



 これから、ドラゴン退治……もとい、ドラゴンを正気に戻す作業が待っているかと思うと、嫌気が差してくるが、やらなかったらやらなかったで、後々面倒なことになるのは目に見えている。



 しかも、ドラゴンが狂乱状態になったことで普段定位置にいるはずのドラゴンが移動をしてしまう。その影響で、各地にスタンピードが発生するとなれば、あのクラウェルが作ったエクシードという機械と何も変わらないということになる。



 そうなってしまえば、各地で多くの人間が犠牲になる。まったく顔も知らない赤の他人がどうなろうと知ったことではないが、その原因を知っていてかつその原因をどうにかできてしまう力を持っているとなれば、面倒なことであるとわかっていても動いた方が、後味的な意味でもいい気がする。



 毎日どこかで人は死んでいる。だが、その原因が突発的な事故や病気などであれば、俺になんの落ち度もない。だが、今回の一件を聞いても動かず、ドラゴンたちが各地で暴れ回った結果、多くの犠牲者が出た場合、これは動かなかった俺に責任があるのではないだろうか?



 それを責める人間はおそらくこの世界にはいないだろうし、それを知ったところで、人ひとりに世界の命運を託すなどという重荷を背負わせることなど、誰もできはしないだろうしやりたくもない。



 しかしながら、動けばどうにかできてしまうという自覚はあるし、実際のところどうにかなるとは考えている。だが、それは俺が望んでいるスローライフとは大きくかけ離れたまさに異世界ファンタジーで無双するというラノベでよくありそうなシチュエーションではないだろうか。



 そんなことをすれば、あの管理者に余計なネタを与えかねないことになり、あの不遜な態度で「お主のお陰でPV数が爆上げだ! もっと、無双するのだ!!」と俺の人生に注文を付けてくることもあり得る。



 どのみち、目の前で暴れているドラゴンがいれば、何かしらの対処はせざるを得ないだろうし、今回の件を片付けるつもりなら、俺が単独で動いた方が手っ取り早いため、結局のところ動くことになるだろう。



 少し話が脱線しかけたが、今は目の前のロックドラゴンである。俺が“山へ帰れ”という某有名アニメの山犬に育てられた女の子にしか言わないような台詞を口にしたのだが、ここでまさかの断られるという事態が起きてしまった。



「どういうことだ?」


「貴様、あの時よりもかなり力を付けているようだな。実に興味深い。我はおまえに興味が湧いた。だから、山へは帰らない」


「……」



 どうやら、懐かれてしまったようだ。いや、懐くというよりも興味を持たれるといった方が正確なのだろうが、どちらにせよこんな図体のデカい存在が王都で暮らすなど不可能である。



「その体では、人間のいる場所では目立ちすぎる。残念だが、やはり山に帰るしか――」


「【トランスフォーム モデルヒューマン】。これで問題あるまい?」


「……」



 そこに突如として現れたのは、プラチナブロンドの美女だった。肩まですらっと伸びた髪に人間らしからぬ黄色い眼光は、人とはかけ離れてはいるものの、姿形としては人間に限りなく近い状態だ。



 そして、何よりも種族的なものなのか、それとも個人的なあれこれなのかはわからないが、たわわに実った二つの膨らみは、形も良くまさに芸術的な完成すら感じさせるものだ。



 問題があるとすれば、ドラゴンのみならず基本的にモンスターに分類される生物は、普段から衣服を身にまとうという習慣がない。毛皮に覆われた狼や植物の体を持つ植物系モンスターなど、衣服をまとう必要性のないモンスターがほとんどであり、そういった習性を持つモンスターは、人型に近いゴブリンやオークくらいである。



 その人型モンスターですら、局部のみを隠す程度に過ぎず、人間のように頭のてっぺんから足のつま先まで見た目にこだわる文化がある種族は人族のみなのである。



 当然だが、ドラゴンである彼女に衣服をまとうという習慣があるはずもなく、頭のてっぺんから足のつま先まで衣服のいの字も身に着けてはいなかった。要するに、すっぽんぽんの状態であった。



「大ありだ。まず服を着ろ。そんな姿だと娼婦か何かだと勘違いされるぞ」


「おお、そうであった。人間というのは、服というもので裸体を隠す生き物であったな。失念しておったわ」


「間違ってはいないが、何か釈然としない言い方だ。まあいい、とにかくその格好をなんとかしろ」


「貴様、先ほどから我の胸ばかりを見ておるが、触りたいのか? なんなら特別に触らせてやっても良いぞ?」



 女は男の邪な視線に気づくとよく言われているが、どうやらそれは他種族同士の男女間でも有効らしく、俺の視線を感じたロックドラゴンが両腕を胸の下に持って行き、胸を強調するようなポーズを取る。



 悔しいが、その強調された胸は妖艶さを放っており、彼女の引き締まった肉体と相まってとんでもない色香を放っていた。



 だが、残念ながらここで理想と現実というものが、俺の頭を冷静にさせた。それが一体なんなのかといえばだ。



「臭い」


「な、なに?」


「そんな土臭い体を触るなどありえない。そんな戯言は、もっと人間らしい生活が送れるようになってから言え」



 物語に登場する女の子のほとんどが、甘い良い匂いをさせているという描写で表現されることが多い。だが、現実は大抵の場合その真逆であったりする。



 いくら女といえども、何日も体を清めていなければ、当然ながら体臭がきつくなってくるし、着ている服も汚れてくる。ましてや、ドラゴンである彼女が身を清めるための水浴びをするにしても、その頻度は数か月に一度、下手をすれば一年に一度あるかないかといったところだろう。



 そんな状態の女性からいい香りがするわけがなく、逆にそんな状況でそんな香りを漂わせているとしたら、病気か何かの症状であると疑うところだ。



「お、おのれぃ、覚えていろっ! 必ずや貴様に我の胸を触らせてみせるからな!!」



 妙なことを宣うロックドラゴンを無視して、俺は未だに様子を窺っているメランダたちのところへ向かった。

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