481話「前触れは、誰かが放った何気ない一言から始まる」
『はあ、はあ、はあ、はあ』
「なぜそんなに疲れているんだ?」
『誰のせいだと思っとるかぁー!!』
「はあ、もういい。もらうものはもらったから、もう帰れ」
『神に対する扱いが酷過ぎないか!? そんなんじゃ炎上するぞ』
「大丈夫だ。おまえを卑下したところで精々が“いいぞ、もっとやれー”とか“神が主人公に逆らうな!”とか“だから、しゃしゃり出るなとあれほど言ったのに……”というコメントが寄せられるのがオチだ」
『くそう。あやつらなら、やりかねないから全力で否定ができないっ』
あれから、自称神を名乗る管理者とやり取りをした。やり取りといっても、それは傍から見ればただの漫才をやっているようにしか見えなかったと思うが……。
現に、その様子を見ていた翼人たちは、なぜだか疲れ切ったような表情を浮かべており、俺がここに来た時よりも明らかに何歳か老け込んだのではないかと思う位には、意気消沈している様子が見えた。
おそらく、自分たちが今まで信仰してきた神の本質を見て少々……いや、かなり幻滅したのではないだろうか。
「まあ、あれでも世界を管理している存在に変わりはない。いざとなった時の対処はきっちりとやるはずだ。……多分」
「そ、そうだな」
一応だが、フォローのつもりで翼人の長に言ったつもりだが、彼とてそんなことくらいは理解しているはずだ。だが、それを差し引いても自分たちがイメージする神とかけ離れていることに変わりはなく、俺のフォローもあまり意味を成さなかった。
「とりあえず、翼人に釘を刺すこともできたし、管理者のハゲからもその報酬をもらった。もうここに用はないから、帰らせてもらうぞ」
『待て小僧! 言うに事欠いて、誰がハゲだ誰が!?』
「じゃあ、自分たちの役目を忘れるんじゃないぞ? 改めて、サラダバー!!」
もうこんな連中に関わりたくはなかったため、俺は抗議する管理者の声をガン無視して瞬間移動で逃げるように転移した。
こうして、一連の翼人事件は終息し、世界が再び平和になった……と思いたい。
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~ Side 翼人 ~
『行ったか……』
「あのまま行かせて、よろしかったのですか?」
ローランドが翼人たちの前から逃げ……姿を消した後、翼人の長ミカエルは神に問い掛けた。
個人的には、神のことは信仰の対象であるため、ローランドとのやり取りで多少は驚いたものの、少しだけ神の意外な一面が見れたことで、畏敬の対象から若干好感度が上がっている。
自分たち翼人を生み出したということは、それだけ自分たちを似通った点があるということを再認識した形となったわけである。子が親に似るのと似たような原理だ。
『問題ない。あの小僧とは一度話してみたいと思っておったからな。まさか、天界にまで来るとは思わなかったが』
「時に神よ。あの少年に与えた報酬ですが、本当に与えてしまってもよろしかったのですか?」
『む?』
「いくらあの少年が、我ら翼人よりも圧倒的実力を持っていようとも、ただの人間であることに変わりありません。もしかすると、次の翼人のようなことにならないかと私は考えております」
人間は心の弱い生き物だ。その心の弱さ故、時として大きな間違いをすることもあるとミカエルは言いたいのだろう。
前世の日本でも政治家としてある役職に就いた人間が国民に向けて発言した内容が、実際にかの政治家が行った政策を見てみると、まったく逆のことをやっていたという事例もある。
人間とは、矛盾だらけの生き物であり、場合によっては間違った方向に進んでしまうこともよくあることなのだ。
『問題ない。もしそうなった時は、吾輩が持つ権限を行使してあの小僧に出した許可を取り下げればいいだけのことだ』
「私としては、もっと相応の願いがあったと愚考します。例えば、不老不死にするとかではダメだったのでしょうか?」
神の答えに納得のいかなかったミカエルは、自身の考えを口にする。だが、神はそんなミカエルの考えを鼻で笑ってこう口にした。
『もうすでにあの小僧は不老不死になろうと思えばなってしまえる。そんな者に不老不死を与えたところでありがた迷惑だっただろう。それに、あの小僧が不老不死になってしまったら、おまえたち翼人のことを一生監視し続けることになる。そうなった場合、おまえたちとってあまりいい気分ではないだろう?』
「確かにそうですな」
神の答えに、ミカエルはようやく納得の表情を見せる。だが、さらに続けた神の言葉に再び眉根を寄せることとなる。
『それに、これからやってくる面倒事を解決するにはあの小僧の力が必要となってくるだろう。そういった意味では、迷惑料の先払いということで、ちゃんと採算は取れているのだよ』
「神よ。それは、一体どういう意味ですかな?」
『いずれわかる。まあ、その時になって初めてあの小僧は気付くことになるだろうよ。吾輩があっさりと能力の制限を解除した本当の意味にな。さて、吾輩はそろそろ新作のアップロード……もとい、神界にてやるべきことがある。では、さらばだ!!』
「……」
神はそれだけ言うと、声が聞こえなくなった。去り際に何やら訳のわからないことを言っていたが、きっととても重要なことに違いないと考え、特に突っ込んだりはしなかった。
だが、その場にローランドがいればすかさずこう突っ込んだだろう。“それって神界じゃなくてもできることだよな? 何が新作だ。おまえの駄作にどう批判してやろうかと読者が手ぐすね引いて待ってるぞ”と……。
しかし、神にとって都合がよかったのは、すでに彼がこの場からいなくなっていたことだろう。それだけは、間違いのないことであった。
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