480話「管理者? ケチ? 覗き魔? ハゲ? 引きこもりのニート?」
「誰だ」
「これは、我らが神よ。よくぞおいでくださいました」
「神だと? 噂のこの世界の管理者か」
『いかにもである。吾輩の名はゴウニーヤコバーン。この世界を創った創造神である』
「……創っただと? ただの管理者じゃないということか?」
いきなり頭の中に響いてきた声は、自身をこの世界を創造した神であると宣った。それを否定したいところではあるが、頭の中に響いてくる声が影響しているのか、思うように体が動かない。おそらくは生物としての格の違いによってまるで蛇に睨まれた蛙状態となっており、何もされていないにもかかわらず、まるで重圧を掛けられたかのような状況になっているのだと結論付けた。
そして、その自称神を名乗る謎の人物Xの言葉が正しいのならば、世界を創造することが可能な格の高い高次元の存在であることを示唆している。
『まあ、そういうことである。それよりも、改めてお主に感謝の言葉を伝えたい。本来であれば、吾輩がどうにかする問題であったが、肩の荷が一つ降りた。感謝する』
「別に問題ない。ただ自分の思う通りにやっただけだ」
『……おお、これが主人公の器というやつか。これは、いいネタになるぞぉ……メモメモと』
「何をぶつぶつと呟いているんだ?」
『い、いやなんでもない! 【小説家をやろう】になんて投稿してないぞ!?』
「何を言っているんだお前は?」
管理者の口から出たのは、意外な単語であった。それはかつて、俺が日本にいたときに暇つぶしで利用していたWbe小説投稿サイトの名前だ。今の俺の状況と似たような境遇の異世界転生や異世界転移した主人公が無双する話が多く掲載されており、暇を見つけてはちょくちょく読んでいた記憶がある。
それにしても、なぜこのタイミングでそんな今回とは無関係な話をするのだろうかと少し気になり始めた。そこで、俺は奴に対しカマをかけてみることにした。
「ところで、俺を主人公にした小説の反応はどうだ?」
『ん? なかなか好評だぞ。最近、総閲覧数が六百万を超えてな。このままいけば、ランキングの上位に食い込める……あっ』
「なるほど、俺をダシにして自分だけ楽しんでいたと?」
『ち、違うぞ! お主をダシにしたわけではない。たまたま取り扱った題材がお主だったというだけだ!』
「そういうのをダシにするって言うんだ。ところで、管理者。今回の礼についてなんだが、一つ欲しいものがある」
まさか、神ともあろう存在が、Web小説を執筆しているという人間臭いことをしているとは思わなかった。だが、これは同時に報酬を吹っ掛けるチャンスでもある。
修行を行っている際、パラメータについて少々気になっていた点があった。それは、パラメータの桁が【パラメータ上限突破】というスキルに依存していることである。
パラメータの桁数が、この一見するとしょぼそうなスキル一つに左右されているというこの世界のシステムに疑問を感じた俺は、独自で検証を進めてみた。すると、これはあくまでも予想の範疇を脱してはいないが、かなり高い確率でパラメータの桁数に上限が設けられていると俺は判断した。
その根拠として、パラメータの桁数とパラメータの上昇は別物扱いという点だ。これは、どれだけ修行を行っても、パラメータ上限突破のスキルによって、ある一定の強さにならないように制限を掛けているのではないかと考えた。
今俺の【パラメータ上限突破】はスキルが進化し【パラメータ上限突破・改】となってはいるが、レベル3の時点でパラメータの桁数は十二桁となっている。仮にこのスキルがレベル9になった場合、パラメータの桁数は十八桁となるのだが、そこからこのスキルがレベルMAXとなったら果たして際限なく桁数を増やすことができるだろうかと思ったのだ。
他のスキルの傾向から、改の次は極というスキルの種類があるため、可能性としては改から極にスキル進化するのだろう。そうなったとして、パラメータの最大桁数は三十一桁で止まるのではないだろうか?
スキル自体がどこまで進化するのかは未だに判明していないが、際限なく桁数を増やせるとは考えにくい。理由として、仮にこの世界のシステムがそうなっていた場合、オンラインゲームを例に挙げれば、バグに相当するものであるからだ。
そのことから、この世界はパラメータの上限が設定されており、ある特定のところまで強くなると、それ以上は強くなれない仕様となっているのではないかと結論付けたのである。
『欲しいもの? ……ふむ、そうだな。此度はお主に助けられた面もある。吾輩ができることであれば、一つだけ願いを叶えてやろう。さあ、願いを言え。どんな願いでも、可能な限り一つだけ叶えてやる』
「完全にド〇ゴンボ〇ルじゃないか。……まあいい。俺の願いはたった一つ。この世界のパラメータの制限を俺だけ制限なしにしてくれ」
『……なんだと?』
俺の願いに、管理者は初めて真剣な声に変わる。どうやら、この世界の真理のようなものだったらしく、その雰囲気は少しヤバめだ。だが、すぐに元の鷹揚な声に戻って話し始める。
『よく気付いたではないか?』
「まあな。そもそも、パラメータの上限がたった一つのスキルに依存している時点でおかしい。まるで、最初から限界がありますよと公言しているようなものだ」
『ふむ』
「で? 俺の願いは叶えてくれるのか?」
ここまで、何が何やらといった様子で見守っている翼人たちが反応を見せる。まさか、たかが人間が世界の真理に辿り着いたことも驚愕だが、それを世界を管理する神本人に制限をなくすよう願い出るなど、彼らにとっては不敬以外の何物でもない。
「待てローランド殿。それはいくらなんでも、あんまりな要求ではないか?」
「では、長よ。おまえならどんな要求をするというのだ?」
「そもそもだ。神であるこの方に何かを要求するなど、恐れ多くてとてもできん」
「それは翼人という種族としての価値観だな。人間の中にも神を信仰する敬虔な者もいるのだろうが、残念ながら俺はそんな連中のように神を崇め奉るようなことはしない」
確かに、神という存在に祈りは捧げても、直接的に自らの願いを叶えてもらおうなどということはあまりしない。日本では、祈願という形で寺や神社などにお参りに行ったりはするが、どちらかと言えば願掛けのようなもので、神という存在にお願いしているわけではない。
だが、今回は管理者という形で確かにそこに存在している存在であり、本人も言った通り俺の行動によって助かった一面があると口に出してしまっている。つまりは、俺は管理者に対し、その行動に対する対価をもらうことができるということである。
『わっはっはっはっはっ! よくぞ気付いた。お主の言う通り、この世界は強さの上限を設けておる』
「それで?」
『そうさのぉー。今回の件で世話になっておいて何の礼もしないというのは、神以前に知性ある者としての礼儀に反する。よかろう! その願い叶えてやる!! ぱっぱらぱぁー』
「……」
最後の掛け声が何ともアレだが、ステータスで確認してみると【パラメータ上限突破・改】というスキルが、新たに【パラメータ制限解除】となっている。だが、以前のスキルと同じくレベルが1となっているところを鑑みるに、どうやらスキルを育てて最終的に制限が無くなる仕様になっているようだ。確かに、願いを叶えたのだろうが、ちょっとばかしケチ臭いと思うのは俺だけだろうか?
『ね、願いは叶えてやったぞ!? そんな非難めいた顔をされる筋合いはない』
「ケチ」
『ふん、何とでも言うがいい』
俺が率直な感想を短く口にすると、まるで開き直ったかのように宣う。それが妙に子供っぽく人間味があったが、いい大人がそれをやるのは流石に腹立たしい気分になったため、何とでも率直に言ってやることにした。
「覗き魔」
『ぐっ、ま、間違ってはいないから否定できんっ』
「ハゲ」
『はぁ!? ハゲとらんわ!! そもそも吾輩の姿を見たことがないだろう!!』
「ムキになるところがますますもって怪しい。引きこもりのニートのくせに」
『何を言うかっ! こちとら世界の管理という崇高で偉大な仕事をだな――』
「小説を書く暇がある、崇高で偉大な仕事とはこれ如何に?」
『ええい、ああ言えばこう言いおって!!』
「何とでも言えと言ったのは、そちら側かと記憶しているのだが? やはり歳を重ねると記憶力の衰えというのは、抗えないもののようだな。だから、ハゲるんだ」
『ハゲてないというておろうに!!』
それから、ああでもないこうでもないという、管理者と少年の漫才が繰り広げられた。惜しむらくは、その漫才を聞いても誰も笑わなかったことと、それを聞いているはずの翼人たちの神に対する信仰心が少しだけ揺らいでしまったことであった。
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