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479話「まとまりかけた話の腰を折る奴はこうなるという良い事例」



「ア、アルヴァトス! いきなりなんのつもりだ!?」


「それはこっちが聞きたい。なぜ、あいつがこの神聖な天界に存在している?」



 そこに現れたのは、一回目の修行が完了した俺とナガルティーニャでボコボコにした翼人のアルヴァトスだった。その声色には苦々しい色が含まれており、明らかに歓迎されていない。



 一体、どういった手品を使ったのかはわからない。俺とナガルティーニャが開けた風穴が、最初からなかったかのように塞がっている。おそらく、相当な回復魔法の使い手がいるようだが、それでも体力は戻っていないようで、あまり余裕はなさそうである。



「やれやれ、どこの世界にも話がまとまりかけたところに横から割って入ってくる愚か者はいるものだな」


「……世界か」


「ば、馬鹿な! 直撃だったはず!!」


「あのアルヴァトスの攻撃を受けて、傷の一つも付いていないとは」



 このまま瓦礫の下にいても何の面白みもないので、何事もなかったかのように這い出てくると、翼人の間に衝撃が走った。おそらくはアルヴァトスがただの翼人ではなく、上級翼人の位を持つオファニムであり、その実力も確かなものであったからだ。



 しかしながら、あの妖怪ロリババアことナガルティーニャとの地獄の特訓のお陰もあって、今ではその翼人ですら凌ぐ実力を手に入れている俺からすれば、精々がS+6や7程度の能力しか持たない相手の攻撃など蚊ほども効かないのは道理である。



 自らの化け物さ加減を自分で言っていて自覚することになる日が来るとは思わなかったが、兎にも角にも邪魔が入ったことだけは明白であり、これは翼人にとっては良くない状況へと進んでいる。



「長、さっきの続きだ。ここにサインを」


「あ、ああ」


「待て貴様! ここで一体なにをしている!? 何が目的でわれらが住まう神聖なこの天界へとやってきた!」


「先に契約を締結させてしまおう。サインを」


「俺の質問に答えろ!!」



 どうやら、自分が無視されたことに腹を立てたアルヴァトスが再び俺に攻撃しようと構えを取った。さっきは不意打ちで吹き飛ばされてしまったが、今は明らかに敵として認識している状態であるため、奴の攻撃が当たることは万に一つもない。



 俺は、反撃するため人差し指に魔力を込め始める。だが、それは意外な形で止められることとなってしまった。



「ぐっ」


「……」


「ガ、ガブリエル……きさまぁ」


「おまえは少々思慮に欠けるところがある。今までは同胞ということで見逃してきたが、今は翼人存続の危機という状況だ。悪いが、翼人の未来のためここで死んでくれ」


「く、くそが……」



 その動きは見えていたものの、翼人たちの目から見れば一筋の閃光が走っただけにしか映らなかっただろう。ガブリエルが何をしたのかというと、片腕に魔力を剣状の形に生成したものを出現させ、そのままの勢いでアルヴァトスの懐に潜り込みそのままその剣を横になぎ払ったのだ。



 込められた魔力の量はそれなりに多く、それこそ翼人であればその体を切り裂くことは難しくない。それはアルヴァトスも例外ではなかったようで、奴の上半身と下半身が二つに分断されてしまった。



 いくら翼人と言えども、体の構造は普通の人間とほとんど変わらない。であるからして、そんな状態になっても生き続けることは不可能であり、アルヴァトスが立ち上がってくることは二度とないだろう。



「奴は死んだ、これで奴のしたことは平にご容赦いただきたい」


「別に問題ない。おまえがやらなければ俺が動いていたからな。一つ小言を言うのならば、俺が直接この手で制裁できなかったくらいだろうか」


「感謝する」



 そう言葉を締め括ったガブリエルだったが、周囲の翼人たちは気が気でなかった。翼人の攻撃を食らっても傷一つすら付かない見た目がただの人間という未知の存在が現れたばかりか、翼人の最高位であるセラフィムの位を持っている彼女が、突然同胞相手に襲い掛かる場面を見て、戸惑うのは無理からぬことかもしれない。



 しかしながら、そうせざるを得ない状況であるということは何となく察したようで、誰も彼女の行動を咎めることもなければ、俺という存在を非難する声も鳴りを潜めた。



「では翼人の長よ。改めて、ここにサインをいただこう」


「わ、わかった」



 ちょっとしたもめごとがあったものの、契約はあっさりと完了し、これで俺と翼人との間で絶対に逆らえない関係ができあがる。俺としてはこのような回りくどいことはせず、長に提示した一つ目か二つ目の選択肢のどちらかを問答無用でやった方が簡単で手っ取り早いのだが、それだと何となく今までの翼人たちと同じことをしているように思えてあまりやりたくはなかった。



 そこで、三つ目の選択肢である更生の道という選択を与えることとし、これから世界の平穏のために頑張ってもらおうという俺の優しさを示したつもりだ。もっとも、翼人たちにとっては最悪の選択肢であったかもしれないが、何の説明もなく皆殺しにされたり永久に結界で閉じ込められるのとどちらがいいかと問われれば、ぜひもないことだろう。



 その一連の思惑をすべて理解できないほど今この場にいる翼人たちは馬鹿ではない。腐っても上級翼人の肩書は持ち合わせていないのだ。アルヴァトスが数少ない好戦的な頭の足りない翼人であったというだけであって、もともと翼人の地頭については決して悪くはないと言えるだろう。だからこそ、ガブリエルがアルヴァトスを手にかけた理由と長が俺との契約に同意しようとしている考えもすべて理解しているのである。



「これで契約は成立だ。この先、おまえたち翼人は、管理者によって与えられた本来の役目を果たしてもらうことになる」


「管理者?」


「村一つを管理する存在は村長。町一つを管理するのは町長。領地一つは領主、国一つは国王といった具合に一つの媒体を管理する存在がいる。そして、世界一つを管理しているのが、管理者……おまえたちで言うところの神というやつだ」


「なるほど、転生者の間では神をそう呼ぶのか」


「転生者?」


「おまえたちは前世の記憶があるのだろう? そういった存在を俗に転生者と呼ぶ。一説では、われわれ翼人のように神が遣わした使徒と呼ばれることもあるが……」



 そう言いながら、長は俺に視線を送る。おそらく俺がその使徒ではないのかということを聞きたいのだろうが、残念ながら俺の答えはこうだ。



「俺はその使徒ではない。もし俺がその使徒であれば、もっと効率のいいやり方で物事を解決しているだろう。

このやり方は明らかに非効率だ」


「だが、われらからすれば最善の選択であった。もしローランド殿がわれらと敵対することになれば、われわれにはローランド殿を止める術がない」


「だろうな。そうなるまで鍛えた。人間もそうだが、人が人の話に耳を傾ける条件は二つしかない。一つは自分にとって有益となる話を持ち掛けられた時、そしてもう一つが圧倒的なまでの暴力で無理やりに従わされた時だ」


「なるほど、今回は後者というわけか」


「最初は後者だったが、今は前者だろう。

この契約によって、翼人があるべき姿に戻れるのだから」


「そう言われると、そうかもしれんな」



 念のため契約には、契約を破った翼人のみを罰の対象としており、今回は翼人を代表して長にサインをもらったが、この契約によって仮に契約者以外の人物が契約違反をしたとしても、契約を破った人物のみが罰を受けることになり、契約者である長に危害が及ぶことはない。しかしながら、契約を破った者が長の指示を受けて意図的に契約違反した場合は、その契約違反者と指示を出した長の両方が罰を受ける仕組みだ。



 どちらにせよ、今回の契約で罰を受けるのは契約違反した者とそれを指示した黒幕のみであり、間違ってもたった一人の翼人が犯した違反で翼人全員が死ぬなどというとんでもない理不尽な契約ではないということを、声を大にして伝えておく。



「じゃあ、これで俺の用は済んだ。では、サラダバ――」


『感謝する』



 翼人との契約も終わったので、これ以上天界にいる用事もない。そのまま長に別れのあいさつを告げて帰ろうかと思ったその時、どこからともなく声が響き渡った。

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