465話「決着とその後の漫才」
「ば、馬鹿な! あり、得ない……」
自分が放った攻撃がいとも簡単に無力化されてしまったことに驚愕を隠せないようで、ここにきて余裕がなくなってきている様子だ。そんな奴に追い打ちを掛けるかのようにナガルティーニャが挑発の言葉を重ねる。
「今の攻撃がまさか全力かい? だとすれば、どうやらこの二百五十年という時間でずいぶん差がついてしまったようだね」
「くっ、そんなはずはない! 高貴なる一族に生まれた私よりも貴様如き矮小な人間風情が強者などあってはならない。否、許されるはずがな――ぐはっ」
「もういい、それ以上喋るな。こちとらどっかの馬鹿な種族と違って、相手をいたぶる趣味はないのでね。すぐに片を付けさせてもらおうか、ねっ!!」
「うわぁ」
奴の言葉を遮り、ナガルティーニャがその腹に拳を突き立てる。彼女が言ったように、相手を嬲るような真似はせず確実にダメージを与えている。与えてはいるのだが……。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」
「ガガガガガガガガガガガガガガガ」
「……」
その光景はどこかで見たような気がする。だが、そのお陰かボロボロになった奴はとうとう地面に倒れて立ち上がれなくなった。動けなくなった奴に近づいたナガルティーニャが、最後に問い掛ける。
「最後に何か言うことはあるか?」
「わ、悪かった。今回のことは謝ろうと思う。だ、だから、命だけは助けてく――れ……」
「そう言ってきた人間を、お前は一体何人殺してきた? そんな奴の命乞いを聞くほど、あたしは善人じゃあないよ」
ナガルティーニャに勝てないことを悟った奴が、助かろうと彼女に命乞いをする。だが、そんな願いも虚しくナガルティーニャが奴の首元に手刀を一閃すると、その首が胴体から切り離される。そのまま首が地面へと転がっていき、勢いを失ってそのままぴたりと止まった。
「くそ。まさか人間にこの私が。だが、覚えておくといい。私がやられたことで、貴様らは完全に我々を敵に回した。ここで私は死ぬが、いずれ必ず我が同胞が私の仇討ちに出てくることになるだろう。そうなった時、貴様らが私を殺したことを大いに後悔することになる――ぶべっ」
「ピーチクパーチクとうるさいね。お黙りよ」
何かいろいろと不穏なことを言っていたのだが、最後まで聞く前にナガルティーニャが奴の首を踏みつぶしてしまった。それを確認すると同時に、緊張の糸が切れたように俺の意識はそこで途切れてしまった。
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「んっ、んぅ……」
一体どれくらいの時間眠っていたのか、それは定かではない。だが、俺が負っていたダメージを鑑みるに、それなりの時間が経過しているように思える。そして、今俺は窮地に立たされていることを瞬時に理解した。
「んー」
「……何をやっているんだぁ! バカタレが!!」
「ぐべらぼろばらべ」
起き抜けにしてはかなり強力な右ストレートが彼女の顔面に食い込み、そのまま錐揉み回転しつつ木製の床を突き破って下半身のみが露出した状態になる。そう、今俺は奴ナガルティーニャに純潔を奪われそうになったのだ。
不思議と体の倦怠感はなく、おそらくはあのあとナガルティーニャが連れ帰ってくれたのだろうと予測する。そんな恩人にいきなり顔面パンチを食らわせるのはいかがなものかとも思わなくはないが、人が無防備の状態を狙って邪なことをしようとする人間にかける慈悲はない。
「それで、あれから何日経った?」
「ぷはっ、ちょっとローランドきゅん! それはいくらなんでも酷過ぎないかい!? あの瀕死の状態から元に戻してあげた上に、こうして君の屋敷まで連れてきてあげたんだがね?」
「だからといって、寝込みを襲っていい理由にはならない。助けてくれたことについては感謝しているし、あの時お前が来てくれなかったら奴に殺されていたことも事実だ。だが、それと今お前が俺の寝込みを襲おうとしたことはまったく関連性のない別問題だと思うんだが?」
「ぐっ。あの日はチューしてくれたじゃないか」
「あの日? なんのことだ?」
「ナチュラルに忘れていらっしゃるぅー!?」
「過去にはこだわらない質なんでね」
「カッコいいこと言ってるように聞こえるけど、それって過去に犯した過ちも気にしないってことだよね!?」
「黙れ小僧!」
「あたしは女よ!」
などという漫才が繰り広げられる中、それを止める者は誰もいない。だが、そうも言っていられない事情があるのか、すぐにナガルティーニャが折れてくれ、状況の説明をしてくれた。
「はあー、時間的にはあれから三日経っているよ。あのあと、気絶したローランドきゅんを回復魔法で治療して、そのままシェルズの王都にある君の屋敷に連れてきたんだ」
「そうか、苦労を掛けたな」
「なら、ここは一つ迷惑料ということで、接吻をば――」
「でだ。あの羽の生えた奴は一体何者だったんだ? えらく人間を馬鹿にしていたような態度を取っていたが」
「……まあ、ローランドきゅんもいずれは連中とぶつかることになっていただろうし、あいつと戦った時点でもうすでに巻き込まれてるか。オーケーローランドきゅん。じゃあ、順序立てて説明してあげるよ」
こうして、ナガルティーニャの口からとんでもない事実を聞かされることになった。
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