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462話「何とかなったと思った矢先」



「ぐっ、ぐぐぐぐぐぐ……」



 新たに投入したSSランクの魔石によって、結界と炎帝天体エンペラーセレスティアルの均衡は一進一退の攻防を繰り広げていた。残りの結界の枚数は十五となり、今一枚を失ってこれで残りは十四だ。だが、その勢いは確実に押さえ込まれており、結界の割れる時間にもある程度の間隔が出てきている。これは結界一枚当たりの耐久度が上がっていて、結界自体の強度が上昇しているためだろう。



「くそう、せめて片手が使えれば……いや、物理的な問題じゃないから無理か」



 今の俺は、あのドラグノイドだかドラゴノイドだかドラグニールだか知らない格上の相手によって左腕を吹き飛ばされてしまい、片腕が欠損した状態だ。血が出ないよう切断面を魔力でせき止めているため、失血死することはないが、あまりいい状態ではないことは確かだ。



 そんなわけで、今の俺は実質的に片腕だけであの圧倒的な力を秘めた魔法を押さえ込んでいることになる。実際のところは魔力がものを言うので、例え両手を使ったとしてもあまり変わりはないのだが、両手と片手では心情的に前者の方が強い気がしているため、ぽろっと詮無きことが口から出てしまった。



 しかしながら、状況的にはかなり好転しており、今し方結界が一枚割れ、残りの枚数は十三枚となっているものの、未だ十枚を切っていないため、まだ余裕がある。



「な、なにぃ!? バックドラフトだと!!?」



 気密性の高い構造の室内で出火した火災の場合、空気不足による不完全燃焼で燃焼が緩慢になりますが、このとき不用意に開口部を開けると急激に空気が流入し、爆発的に燃えることがある。そういった現象をバックドラフト現象と言うのだが、それと似たようなことが起きてしまう。



 今まで何十枚という結界に覆われていたことで、密閉された状態となっていた結界内の魔力がエンペラーセレスティアルの魔力とぶつかり合い、まるで燃え盛る火に強風を当てたかのような状態となり、さらに大きな力となって結界に負荷を掛けてきた。その力によって十三枚だった結界が一気に五枚にまで減ってしまう。ここまでくると余裕などあるはずもなく、いつ結界が決壊してもおかしくない状態だ。言っておくが、駄洒落ではない。断じてない。



「これで止まれぇー!!」



 これはまずいと感じた俺は、残っていた魔石の魔力をすべて結界につぎ込むつもりで魔石を前に突き出す。それに呼応する形で結界が淡く緑色に光り輝き、内部で暴れている猛威を押さえ込む。だが、相手もそれで大人しくなってくれるほど甘くはなく、さらにその力を暴走させていた。



 また一枚結界が割れ、これで残りは四枚になってしまう。すでに、魔石の制御にすべてのリソースを使っているため、新たに魔石を追加することもできない。仮にできたとしても、片手がない今の状態では新しい魔石を手に持つことができないため、実質的に詰んでいる。



「くそぉぉぉぉおおおおおお!!」



 また一枚割れた。これで残り三枚。人は余裕のない状況に陥った時、体裁など気にしてはいられない。普段発することのない雄叫びを上げながら、魔石の出力をさらに上げる。その一方で圧倒的な力と力の綱引きが行われており、もはやどちらが勝つかわからない状態だ。



 さらに一枚が割れ、百枚あった結界の内残った結界はこれで残り二枚となる。もう後がない。このままでは国境付近ではなく、下手をすればセイバーダレス公国とバルバトス帝国の二国そのものが火の海と化すかもしれない。



「はああああああああああああああ!!!!!」



 気合と共にすべての魔力を解放すると同時に残った結界がさらに割れ、後は一枚を残すのみである。これこそ本当に崖っぷちである。あの結界が俺にとっての生命線であるということはなく、もし割れてしまった場合術者である俺は術者を守るための魔法障壁があるため、おそらく死ぬことはない。だが、周囲に与える影響は計り知れないものとなるのは明白である。



「なんとかなれぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」



 いよいよもって魔石の残り魔力が底をつき始めたその時、エンペラーセレスティアルもまた衰えを見せ始める。最後の結界ということもあり、これ以上進ませるわけにはいかないという強い意志がそうさせたのか、はたまた偶然なのかはわからないが、想像以上に最後の結界が奮闘を見せていた。



 目に見えて炎の勢いがなくなっていき、次第に小さくなっていくが、ここで残念なことに最後の砦だった結界が決壊し、残っていた爆炎が周囲にまき散らされる。咄嗟に片腕で顔を庇ったが、その爆発の勢いは衰えたとはいえ、凄まじいものであり、あっという間に視界が炎に包まれる。魔法によって作用される炎自体は熱くはないが、抑え込んでいた爆発の衝撃と爆風は魔法的な要因でないため、その影響をもろに受けてしまう。



 しばらく、その場で耐えていると、衝撃が来なくなったため手を退け周囲を確認する。すると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。



「これは、さすがにやりすぎだな」



 俺の視線の先に広がっていたのは、その全長が数百メートルに及ぶのではないかと思うほどの巨大なクレーターだった。しかも、その地面は数千度という規模の温度で晒されたためか、赤いマグマのようにドロッとした物体のような状態となっており、それすらも数百度というとんでもない温度を持っているようであった。



 当然だが、そんな状態で生きていられる生物など存在せず、ドラグニールもクラウェルもその影も形も確認できなかった。もしこれで生きているとなれば、それこそ世界を脅かす脅威となるだろう。



「念のために球体に結界を展開しておいて正解だったな。下手をすれば、この惑星の核にまで届いていたかもしれん」



 百枚の結界を展開する際、地面の下に結界を張らないドーム型と地面の下も含めた球体型の結界で悩んだが、地面にまで影響を及ぼすことを考えて最終的に球体型の結界を選んでいた。それが功を奏し、地面の奥深くにある核にまで届くことなく、その表面を数百メートル程度傷つけた程度にまで抑えられていた。


 もし、ドーム型の結界にしていた場合、その余波がこの惑星の核にまで届き、場合によっては数万メートル下の核にまで到達し、惑星そのものが爆発していた可能性もあったのだ。



 球体型の結界にした自身のファインプレイを自画自賛していると、突如として右肩に衝撃が走った。



「ぐっ」



 それはまるでレーザー光線のような一筋の光の筋のようなもので、感じられる魔力から見て、誰から放たれた魔法であることはすぐに理解できた。光線が飛んできた方に視線を向けると、それを放った存在がこちらを見下ろしている姿が目に映った。

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