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461話「全力を出してみた結果」



 まず初めに確認するべきは、現状の把握である。得られる情報は少ないものの、解り切っていることがあるとすれば二つ。一つは、相手が自分よりもステータスの高い格上であるということで、真正面からぶつかればただでは済まない。



 そしてもう一つが、格上ではあるが圧倒的な格上ではないということだ。その根拠として超解析の表示結果が関係している。



 以前格上である魔族の女を鑑定した時、その概要を知ることができなかったことがある。奴については、俺が急成長を遂げたことでその能力を看破することができた。そして、今もなおロリババアことナガルティーニャの詳細は明るみに出ておらず、その二つの事例は圧倒的な実力差が要因となっている。



 だが、今回の相手はこちらの超解析を使ってその能力を垣間見えていることから、推測だが格上ではあるものの、そこには圧倒的というほどまでの実力差がないということではないかと考えた。



 もしそうであるならば、そこが活路を見い出せる点ではないかということで、さっそく実験を開始する。



「【チェーンシャドウバインド】」



 まず、動きを制限するため漆黒魔法を使って奴の動きを封じる。物理的な動きを封じる魔法は力技で解除させられそうだったため、魔法的な拘束力のある魔法を選択。そこから、さらに大技を繰り出すべく魔力を高めていく。もちろん全力だ。



「悠久の時、すべてを凍てつかせる絶対零度の氷塊よ。その力をもって、我が敵に永遠の眠りを与えよ。【コキュートス】!!」



 魔法というものはイメージ力が重要だ。そのイメージ力を引き出すことができるのであれば呪文の詠唱などは必要ない。だが、敢えて口に出すことによって魔法を発動させる際に明確なイメージ力を持たせることができる。



 今回は手加減できない相手であるため、敢えて詠唱という選択肢を取り、魔法に確実なイメージ力を持たせることにした。俺が魔法を発動させると、ドラグニールの足元に巨大な魔法陣が顕現する。その輝きは凄まじく、それだけでどれほどの魔力が込められているがが素人目でもはっきりとわかるくらいだ。



「な、なんだこの魔法は!?」


「ふむ、とりあえずは動きは止まったか」



 魔法陣の輝きが最高潮に達したと思った瞬間、ドラグニールの足元から一気に氷の柱が出現する。それはいとも簡単にドラグニールの巨体を包み込み、まるで最初からそこに存在していたのではないかと言わんばかりの氷の彫像ができあがった。



 俺が使える氷系統の魔法の中でも最強クラスの魔力が込められているため、もし仮にドラグニールの実力が俺とさほど差がないという仮説が正しかった場合、これは有効的な手段であるはずだ。だが、残念ながらこれだけでは先に使ったチェーンシャドウバインドの魔法とあまり大差はなく、倒すことはできない。そこで俺は次の魔法を使うため、大気に存在している周囲の魔力をかき集めた。



「どうしたのだドラゴノイド!? こんな脆い氷などさっさと壊してしまえ!!」


(また名前が変わってやがる。一貫性のない奴だ)



 心の中でそんな突っ込みを入れながらも、大気中の魔力を少しでもかき集めるべく、その場で棒立ちになりながら集中する。こういう時スキルの並列思考があるのは便利である。



 そうこうしているうちに、あれほどの魔力を込めた氷に罅が入り始める。やはり、腐っても格上であることに変わりはなく、いかにコキュートスといえども封じ込めておけるのはそう長くはなかったようだ。だが、それも想定の範囲内である。



「これで終わりだ。業灼の果て、すべてを飲み込む紅き珠よ。理不尽なまでなるその力をもって、生きとし生けるものすべてに等しく滅びを与えよ。超絶極大魔法【炎帝天体エンペラーセレスティアル】!!」



 魔力の高まりに合わせて、俺は飛行魔法で空へと飛び上がる。腕を天へと突き出すと、そこからドラゴノイドの足元から出てきたものとは比べ物にならないほどに巨大な魔法陣が顕現する。そしてそこから現れたのは、一見すれば宇宙空間に漂う太陽のような球体だった。その大きさは、百メートルに届くのではないかというほどの大きさをしている。

 しかしながら、太陽のようなという表現は見た目だけのものであり、実際は溶岩で構成された数千度はあろうかというただの超高温な物体の塊に過ぎない。



 圧倒的な存在を放つそれは、今は俺の制御下に置かれているため、その猛威を振るったりはしていない。だが、これを放ったが最後すくなくともこの辺り一帯が溶岩地帯へと様変わりすることは確実であり、沼地ならぬ溶岩地という新たな環境地帯ができあがってしまうだろう。だが、そんなことを言っていられる状況でもないため、俺が生き残るためにここは我慢してもらうとしよう。



 あまりの力の奔流に轟音を吐き出す球体を横目に目標となるドラゴノイドを見つめる。その隣では、クラウェルが何か叫んでいる様子だが、轟音を出す球体にかき消されて何を言っているのかは聞こえない。



「行くぞぉー! くたばりやがれぇー!!」



 天高く突き上げていた腕をまるでエネルギー弾を放つようにドラゴノイドに突き出すと、今まで俺の制御下にあった球体が標的を捕捉したとばかりにゆったりとした速度で向かって行く。徐々に球体が迫りくる中、ドラゴノイドもまたようやくコキュートスの呪縛から逃れたようで、奴を封じていた氷塊が粉々に砕かれた。

 だが、時すでに遅く目の前には圧倒的熱量を放出する球体が目の前に迫っており、とても回避できるような状況ではない。



「グオオオオオオオ」



 奴の身体が球体に飲み込まれる寸前に上がった咆哮は、はたして絶望によるものなのか、それともこの状況をどうにかしようという意気込みのようなものなのか、それは本人以外は窺い知れない。



 ドラゴノイドがいた場所に巨大な球体がめり込んでいく。だが、これだけでは済まない。魔法によって超々高エネルギーが凝縮されている以上、その効果を発動させた時に巻き起こるのは行き場を無くしたエネルギーによる超爆発である。



「【防御結界×100】!!」



 俺の残り少ない魔力を使い、少しでもエネルギーの流出を食い止めようと球体を覆うように百枚の結界を張る。百枚の結界が球体を覆い尽くしたとほぼ同時にコントロールを失ったエネルギーが外へ外へと逃れようとする物理的な運動によって巨大な爆発が起こった。



 その破壊力は凄まじく、結界がまるで薄っぺらいガラスのように一枚また一枚と割れていく。その数が十枚二十枚三十枚と積み重なり、そしてついに残りの結界が三十枚となったところで、俺はストレージから魔石を取り出し、それを結界に向けて突き出す。



 この魔石はSランクモンスターから取れたもので、内在する魔力量は十万から三十万ほどある。しかし、それほどの魔力でも今起きている爆発を食い止める力はなく、精々が結界が割れる時間が数秒伸びた程度だ。



「くそっ、これじゃあ魔石がいくらあっても足りないぞ」



 そうぼやきつつもすでに体内の魔力はほとんど使い果たしているため、今はこれに頼る他ない。そうこうしている間にも、魔石内の魔力がなくなり、一つまた一つと魔石が砕け散る。



「ええい、ならばこれでどうだ!!」



 一つずつ取り出していた魔石を一気に十個取り出し、右手に鷲掴みにした状態で結界に注ぎ込む。Sランクモンスターの魔石十個分の魔力は伊達ではなく、目に見えて結界が割れるスピードが落ちてきた。だが、それでも爆発の勢いがおさまることはなく、残りの結界が二十を切ってしまう。



 このままでは、爆発が結界を突き破って周辺に甚大な被害をもたらしてしまうだろう。ここはなんとしても、食い止めねばならない。



「SSランクじゃあこらぁー!!!!」



 これでは埒が明かないと判断した俺は、出し渋っていたSSランクモンスターの魔石をここで投入する。ランク的には一つしか違わないが、その内在している魔力量は桁違いだ。その倍率は最低でも百倍とされ、内在魔力は一千万を軽く超える。だが、SSランクとはいえ、モンスター自体それほどの魔力量を所持していない。



 一説には、モンスターが死ぬ間際、体内にある魔力すべてが魔石に移動し、それが圧縮されることで数十倍という魔力量に跳ね上がるらしいのだが、SSランクモンスターの存在自体が珍しく、ましてやそれを意図的に死に至らしめる存在も皆無であるため、今までその説が立証されたことはない。その説自体は、DランクやCランクのモンスターの中にそういった種類の魔石が手に入ることが稀にあり、Bランク以上でもそういった魔石が散見されるということから“じゃあSSランクもそうなんじゃね?”という希望的観測から出た俗説なのだ。



「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれぇー!!」



 こうして、SSランクの魔石対炎帝天体エンペラーセレスティアルの綱引きめいた攻防が始まったのだった。

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