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455話「皇帝による貴族たちの説得」



 ~ Side バルバトス帝国 ~


「陛下、それは誠にございますか?」


「にわかには信じ難いことですな」



 ローランドが皇帝に接触してから半日が経過する。得体の知れない少年の言葉など普段の皇帝であれば一笑に付すところであったが、そうも言っていられない事態が起こってしまった。なんと、帝都全体を謎の結界が覆い尽くし、出入りすることができなくなってしまったのである。



 幸いなことに、人以外であれば通れるという知らせを受けているため、物資が帝都に入ってこないという事態は避けられたが、人の流通が完全にストップしてしまったことは大きな問題であった。

 元々、バルバトス帝国はその圧倒的な軍事力を誇る国であるため、国内の内政については他国と比べても一歩遅れている。特に、街道などの整備については流通が滞らない程度の必要最低限の質に留まっており、国内の貴族たちもあまり乗り気ではない。



 他国を攻め落とし自国の領土を拡大することに心血を注いだ結果、他国との国交も必要最低限の付き合いしかなく、そういった内政関連に強い貴族がほとんどいない悲惨な状態となっていた。



 そして、先のローランドの言葉が皇帝の頭の中で響き渡る。“余計なことをしてくれるな”という彼の言葉をそのまま受け取るのなら、他国に対する軍事侵攻によって他国を脅かす行為を彼が疎ましく思っているということだ。



 それだけであれば、皇帝自身も彼の言葉を無視すればいいだけの話なのだが、ローランドがただの少年ではなく、四人目となるSSランクの冒険者であるということと、先のセコンド王国とシェルズ王国の戦争においてセコンド王国が得体の知れない結界で国交断絶状態にあるという情報を事前に得ていた。そして、彼の言葉が正しいのであれば、その結界を張ったのが自分であると宣ったのだ。



 そして、かのセラフ聖国でも同じ結界が張られており、奇しくもアロス大陸において他国と足並みを揃えようとしない国が尽く断絶状態となっている。これを受けてローランドの言葉が彼自身の謀りであったとしても、少なくとも結界を張った人物と深い関わりがあるということは間違いないと皇帝は判断するに至った。



 そう判断してからの皇帝と宰相の動きは早く、その日の内に主要な貴族たちに招集を掛け緊急会議の場を設けることにしたのである。



 そして、集まった貴族たちに事の顛末を説明すると、実際にローランドを目にしていない彼らからすれば、そのような得体の知れない少年が自国にとって脅威足り得るのだろうかと首を傾げざるを得ないといったところなのだろうと皇帝は考えたが、長年皇帝の座にいた彼の勘があの少年は敵に回してはいけないタイプの人間だということを如実に物語っていたのだ。



「とにかくだ。このままでは我が帝国にとってかの少年は脅威になると余は判断した。そこで三日後にやってくるというかの少年の対応について話し合いたい」


「そのような少年の戯言など聞き流してしまえばよいのです。SSランクの冒険者か何か知りませんが、我々はバルバトス帝国。そういった連中は、力でねじ伏せてきたではありませんか」



 一人の貴族の言葉に他の貴族たちが「そうだそうだ」と同調する。だが、実際に対峙したからこそわかることもある。ローランドという少年が持つ底知れぬ力と、まるで巨大なドラゴンを相手にしているのではと錯覚するかのような生物として圧倒的な力の差を肌で感じてしまったのだ。



 その場にいた宰相もその力に充てられたのか、まるで淫魔に催淫されたかのように惚けた状態となっていた。実際は、整った顔立ちとミステリアスな雰囲気を持ったツンツン少年という存在に彼女が持っていた性的嗜好にがっつりと嵌っただけなのだが、常に行動を共にしている皇帝ですら今の彼女がまともだとは言い難い。



「し、失礼いたします! 緊急の報告したきことがございます」


「なんだ。申してみよ」


「はっ、実は……」



 そんな皇帝の勘が当たっているとばかりの報告が舞い込んでくる。なんと、セイバーダレスとの国境に陣を敷いていたはずのバルバトス軍十五万が、突然帝都近郊にまで移動したという知らせだった。



 随伴させていた者たちによる報告では、間違いなく国境にまで辿り着いていたという報告を受けている以上、この短期間で何故そんな場所に移動しているのかということになるのだが、皇帝は報告の内容を聞いて戦慄すると同時に自身の勘がまだ鈍っていなかったことに安堵の表情を浮かべる。



「そんな馬鹿な」


「あり得ない! 僅かな時間で十万単位の兵士たちを移動させたとでも言うのか!?」


「何かのからくりを使ったに違いない」


「静まれ!!」



 上がってきた報告に狼狽える貴族たちを制するように、皇帝の鋭い声が響き渡る。それを聞いた貴族たちも途端に口をつむぐ。

 悪い意味で期待を裏切らなかったかの少年に内心苦笑いを浮かべつつ、皇帝は静かにゆっくりと貴族たちに語り掛けた。



「聞いた通りだ。我々はそれだけ強大な存在の不興を買ったということになる。だが、まだ話し合いで解決する余地は残されておる。三日という期間を設けたのが良い証拠だ。とにかく、三日後にやってくる件の少年についてはその話し合いで詳細を決めることとする」


「陛下、一つよろしいでしょうか?」


「ベルモンド侯爵か。何かあったか」



 一際存在感のある低い男性の声が部屋に響き渡る。バルバトス帝国侯爵家当主バデラー・フォン・ベルモンド。軍事国家と言われる貴族の中でも、群を抜いての武闘派で知られているかの家は、その圧倒的な武力も相まって帝国内でもかなり発言力のある家柄だ。そんな存在が今まで皇帝の説明を黙って聞いていたことに一部の貴族からは不気味さを感じ取っていたが、ここにきてようやく重い腰を上げるかのようにベルモンド侯爵が動いた。



「そのローランドとかいう冒険者ですか。討ち取ってしまうことはできぬのでしょうか? いくら人類最高戦力といえど、一国……それも軍事国家と謳われた我らバルバトス帝国が一丸となれば人ひとりをどうこうするなど容易きことではないかと愚考いたしますが?」



 確かに、ベルモンド侯爵の言っていることは的を射ている。戦いとは時に個の力よりも数の暴力が勝ることがあり、たった一人の少年にそれほどビクつくことはないのではという侯爵なりの意見だったのだが、それでも皇帝は確信があった。いかに軍事国家といえども、本物の化け物には敵わないということを……。



「ベルモンド侯爵の意見も尤もだと思う。だがな、儂の勘が言っておるのよ。アレには逆らってはいけない。逆らえば我らに待っているのは破滅の道であると」


「それほどなのですか? かの少年の力というのは」


「……」



 これは実際に目の当たりにした人間にしかわからない。皇帝はそう考えていた。あの【氷の宰相】とまで言われた皇帝の右腕である宰相が、あの少年と敵対するのではなく彼の要求を受け入れる方向で貴族たちを説得しているのだから。本来であれば、帝国の全戦力をもって叩き潰す選択を彼女は何の躊躇いもなく取るはずだ。だが、自分と共にかの少年と対峙したからこそ彼女もまた理解しているのだろう。アレには数の暴力など役に立たず、ただただ無駄に人が死んでいくだけであると。



 だからこそ、無駄な血を流さずこちらの被害を最小限に抑えるには、少年の出す条件を受け入れた方がまだマシという結論になるのは自然であり、彼女にそう判断させるほどの何かがあの少年にはあったということだ。尤も、あの少年の姿を思い出してピンク色の妄想に浸っている彼女に見い出せるものがあるのかと問われれば甚だ疑問ではあるが……。



「侯爵もあの少年に会えばわかる。否、解らせられると言った方がいいだろうな。圧倒的な力量差というものを」


「わかりました。その者がいかほどなのか、実際に自身の目で確かめさせていただきます」



 こうして、ベルモンド侯爵の言葉もあってとりあえず三日後の少年との会見ですべてを結論付けるということで話が決着した。だが、それは問題の先延ばしをしているに過ぎず、この先における帝国の命運は三日後に決まるということでもあった。果たして、三日後にやってくる少年の要求とは一体何なのであろうか?

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