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434話「慎重な行動を取る者は決して臆病者ではない」



 冒険者ギルドの騒動から一日が経過した翌日、俺が泊まっていた宿に冒険者ギルドの使いがやってきたとの話を聞いた。だが、会うことはせず宿の人に追い返してもらった。



「そろそろ、ここでの情報収集も潮時かもしれないな。それに何だか嫌な予感がする」



 もう少し旅の資金と情報収集を行いたかったが、冒険者ギルドでの騒動やいろいろとやらかしていることがあり、俺の勘がここを離れた方がいいと言っている。



 こういう時の嫌な予感というものはよく当たるのが相場だ。というわけで、次の拠点へ向けて移動するための準備を行うことにした。



 まずは、次の拠点となる場所の情報を手に入れるべく、市場へと赴く。どこの街でも盛況なのが市場であるようで、このバルルツァーレでもそれは変わらない。



「それなら、隣の地区になるラガンドール区の主都【ゲッシュトルテ】がいいさね。ここよりも中央区に近いから、情報も集まりやすいはずだよ」


「わかった。感謝する」



 市場の中年女性の店員から情報を聞いた。さらにべラム大陸の詳しい国の位置関係を聞いてみたところ、意外なことが判明する。



 なんでも、中央区と呼ばれる場所は、元々はアルカディア皇国の所領だった場所であり、アルカディア皇国を中心として周囲には三つの国が取り囲んでいたらしい。一時期その三つの国の連合軍がアルカディア皇国に抵抗するべく戦争を仕掛けたが、これをアルカディアは退けた。大陸を一つに塗り替えるほどの実力があるのは伊達ではなく、皇国はかなりの軍事大国だったらしい。



 その三つの国の外側にはさらに五つの国が隣接しており、アルカディア皇国はちょうどその真ん中に位置している。言わばドーナッツの穴の部分にアルカディア皇国があるようなものだ。



 次の拠点も決まった。後は、いつ出立するかだが……。明日の朝一番にこの都市を出ていくことにした。



 見納めということで、情報収集がてらバルルツァーレの街並みを観光する。だが、あまりのスリの多さに最終的には途中で断念する羽目になった。やはり、他の基本的な都市と比べても治安が悪くなっているようだ。



「あの、ローランド様でしょうか?」


「あんたは?」


「冒険者ギルドの者ですが、ギルドマスターがお呼びですので、申し訳ありませんが一緒に来ていただけますでしょうか?」


「わかった」



 宿に戻ると、冒険者ギルドの職員が再びやってきており、ちょうど戻ってきた俺とかち合ってしまった。突っぱねることもできたし、俺の方から話すことはないため行く必要性もなかったが、あらぬ嫌疑を掛けられて次の拠点にある冒険者ギルドに悪印象を抱かれても厄介なため、後顧の憂いを断つ意味でも今回は冒険者ギルドへと行くことにした。



 冒険者ギルドに向かうと、開口一番ギルドマスターが頭を下げて謝罪の言葉を口にする。



「すまなかった。俺の独断でこんなことになってしまった」


「その様子だと、他の冒険者から怒られたようだな」


「うっ」



 冒険者ギルドにやってきた俺を見つけた冒険者から「大丈夫だったか?」だの「災難だったな」だの「ギルマスには俺たちから抗議しといたぜ」等々、いろいろと労いの言葉を掛けられていた。だから、ギルドマスターが非難の声に晒されたのは想像に難くない。



 これで、俺がSSランクの冒険者だと言及する声はなくなるだろうし、これ以上俺になにがしかのちょっかいを掛けるのはギルドマスターとしても得策ではないので、今回の騒動はこれで終止符が打たれるものと俺は考えている。



「これに懲りたら勝手な想像で人を疑うことはやめるんだな。じゃないと、今回みたいにまた冒険者たちから反感を買うことになる」


「ぜ、善処する」


「では、今回の件についてはこれで終わりだ。じゃあ、俺はこれで失礼する」



 ギルドマスターとの話を手短に済ませると、俺は早々に冒険者ギルドを後にする。何か言いたげな表情をする彼だったが、これ以上の追及は自身の身を滅ぼすことになると理解しているため、突っ込みたくても突っ込めないのだろう。



 冒険者ギルドを出た俺は、しばらく歩いた後で不意に立ち止まる。そして、顎に手を当てつつ頭の中で現状を整理する。



「これは、マズいかもしれないな」



 俺の中で何が引っかかっているのかといえば、今日助けたお姫様である。言葉を交わしたのはほんの僅かな時間だったが、その言葉には知性が感じられた。もしかすると、視界を塞いだだけでは彼女をだまくらかすことはできない可能性がここにきて出てきた。



 声自体は、コミュニケーションを取るためまったく声を変えることなく接していた。そのことから、俺が成人していない少年であることはすぐに思い至るだろう。そして、そんな身分の人間が生きていくには、腕っぷしがものを言う冒険者か傭兵をやっていると考えるはずだ。



 視界を塞いだことで、俺が目立ちたくないという意思は丸わかりであり、実力を示せば目立ってしまう傭兵の可能性は捨てるだろう。となってくれば、実力を隠して活動が可能となる冒険者、それも単独で動けるソロ活動を行っていることに思い至るのは、ある程度想像力を働かせば難しくないことだろう。そして、冒険者に関する情報収集として最も効率的に動く場合、どこに赴くのかといえば……そう、冒険者ギルドである。



 今頃は、自宅である城に戻って元国王の執政官に事情を説明しているところだろう。となれば、現在進行形で冒険者ギルドに事情を聞きに来る可能性は極めて高い。



「仕方がない。今すぐに出立した方がいい」



 相手がそこまで予想した上で動いているという保証はどこにもない。だが、仮にそうだった場合後手に回ってしまう可能性が高く、そうなった時の対処法に時間を取られるのは目に見えている。であるならば、その未来を断固として回避したいと考えるのは当然の帰結であり、そうならないよう動くのは事前の摂理といっても過言ではないのだ。



 そうと決まれば即行動とばかりに俺は宿へと戻りチェックアウトを済ませる。短い間だったが特に問題点もなかった宿を後にし、すぐに門へとやってくる。



「身分証の提示を」


「ん」


「冒険者か。……よし、いいだろう。通っていいぞ」



 まだあの姫の手は回っていないようで、ギルドカードを提示しても問題なく通れた。相手も俺がさらにその先を予想して動いているとは思っていないようで、特に何も言われることなく都市の外へと出ることができた。



 門を出る際、商人や冒険者たちの口から元王女がボロボロになって帰ってきたという噂が立っており、俺がいろいろと街を散策している最中に戻ってきていたようだ。



 思い過ごしであればいいのだが、あの聡明そうな雰囲気はどことなくティアラやファーレンに通ずるものがあるため、悪い方向にこちらの思惑通りに動く可能性がある。それを考えると、やはりここは今すぐにでもバルルツァーレを出た方がいいと俺の勘が言っている。



 個人的にはもう少し旅の資金を調達したかったのだが、後に待っている面倒事を回避するためにも、今は逃げておいた方が得策だ。まったく、後ろ髪を引かれるとはまさにこのことである。



 ひとまずは、一目の付かない場所へと移動し、体全体に透明魔法を掛け飛行魔法で飛び立つ。収集した情報によると、次の区画の主要都市まで馬車で三月以上は掛かると聞いている。一般的な移動法は徒歩か馬車による移動となるが、俺には伝家の宝刀である飛行魔法がある。さらに本気を出せば瞬間移動という反則技も持ち合わせているので、一日で辿り着くことは決して不可能ではない。



「ん? あれは……。ああ、また盗賊か」



 特に急ぐ旅でもないため、異世界の害虫こと盗賊を潰しながらゆったりと進んで行くことにした。俺としては、潜入捜査の片手間の作業だったがのだが、この大陸は本当に治安が悪いようで、五分に一回は必ず盗賊に出くわすという盗賊フィーバー状態となっていた。



 次の目的地に到着する頃には、討伐した盗賊団の数は百を超えており、俺が通過した地点だけでそれだけの数となってしまったことを考えれば、この大陸の治安がどの程度なのかは想像できるだろう。



 こうして、旧王都バルルツァーレを後にし、次の目的地ラガンドール区の主都【ゲッシュトルテ】に到着したのは二日後のことであった。

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