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421話「後処理からの防具破損」



 俺が瞬間移動した先は、ある建物の屋上だった。散策していたとはいえ、未だすべての地理を把握していなかった俺は、人気がなくそれでいて人通りが多い場所に出やすいという限定された場所へ移動する方法を取った。



「ここか」



 そこは偶然にも、前日にブ男貴族とゼノスとかいうまともそうな貴族がやり合っていた場所の近くだった。とりあえず、危機は脱したが再び彼女が連れ去られる可能性もあるため、彼女の目を塞いだまま彼女の耳元で話し掛ける。



「とりあえず、安全な場所に移動した。一度しか言わないからよく聞け。移動した場所は、建物の屋上になっている。後ろの方に一階に降りるための階段があるからそこから建物の外に出ろ。そしたら、向かって右側に進んで行くと人通りの多い場所に出るから、そこでお前を探している人間を見つけて家に連れて行ってもらえ」


「んっ(コク)」



 俺の言葉に彼女がこくりと頷く。それを確認したのち、俺は彼女に最後の言葉を投げ掛けた。



「じゃあ、俺はこれで行くからあとは自分でなんとかしてくれ」


「んー、んー」


「俺がどこの誰だとか何者なのかとは教えるつもりはない。俺がいなくなってしばらくしたら、お前を縛っているロープは自然に切れるようにしてあるから、後はさっき言った通り家に戻れ。じゃ、そういうことで」



 それだけ伝えると、俺は瞬間移動でその場から近くの建物の屋上へと移動する。こうしておけば、俺が突然いなくなったように見えるだろう。



 一応だが、彼女を攫った人間が再び彼女を連れ戻す可能性も視野に入れ、彼女が安全な場所まで辿り着くのを見届けるつもりだ。



 突然いなくなった俺を探そうときょろきょろと視線を巡らせているが、自分を縛っていたロープが切れたことを確認すると、口に詰め込まれていた布を剥ぎ取り、俺の指示通りに建物の一階へと降りていった。



 そのままさらに通りに出る方へと足を進めると、やはり捜索隊が出ていたらしく、すぐに彼女を探していた兵士と出会った。一人の兵士が報告のために駆け足で去って行くのを確認してから、俺はその場を後にした。



 攫ってきた人間にも攫われた人間にも、俺の姿は見られていないため、彼女を攫った人間が俺に報復することはなく、俺の姿を見ていない彼女もまた俺を探す手がかりはないだろう。



 手の大きさと声質から俺が少年であるということには行きつくかもしれないが、数十万という大規模な人数の中からたった一人の少年を見つけ出すなどそれこそ奇跡でも起きない限りは不可能に近いだろう。



 路地裏探索から始まった救出劇も終わりを迎え、俺は再び散策を開始する。比較的都会の部類に入る都市だけあって往来する人の数が多いが、それ以上に警らしている兵士の人数もそれなりに多いようで、頻繁に兵士とすれ違うことがあった。



 それでも、治安が良くないようで俺が確認しただけでも五回以上何かの罪を犯して兵士に連行される人間の姿が確認できた。



「この治安の悪さなら誘拐事件が起きても不思議じゃないな」



 俺が散策で出歩いていた時間は長くても数時間だったが、それでもこれだけの犯罪が頻発していることを鑑みれば、大陸統一の影響がかなりのものであるのだと嫌でも理解させられる。



 人々を観察してみると、どことなく警戒しながら街中を歩いており、露店を出している人間もどこか訝し気に商売をやっているように見えた。



 情報収集のため、露店をやっていた店員にも話を聞いてみたが、やはり以前と比べて治安が悪くなっており、無銭飲食や窃盗などの比較的軽めの犯罪で兵士に連行される人間が後を絶たないらしい。



 ますます他大陸に勢力を伸ばす意味がわからないと、アルカディア皇国の上層部たちに呆れの感情を向けていると、突然ビリッという音が聞こえてきた。



「ああ、もう寿命だったか」



 音のした場所を見てみると、そこには破れた装備の姿があった。あれから高い身体能力とスキルにものを言わせて戦ってきた俺だが、どうやらその戦いに付いてこられなくなったらしい。



 いきなりのことに戸惑う俺だったが、今まで持ってくれていたことの方が不思議であったため、急遽予定を変更して装備屋へ赴くことにした。



 やって来た店は何の変哲もない外装をしていたが、内装はありとあらゆる武器や防具がところ狭しと並べられており、まさに装備屋といった感じだ。



「いらっしゃい、何の用だ」


「これなんだが」



 ぶっきらぼうに対応する店員に対し、身に着けていた装備の現状を見せる。すると、店員はすぐに結論を口にした。



「こりゃあもうダメだな。新しいのに買い替えた方がいい」


「だろうな」


「すまないが、お前さんの体型に合う防具がない。となってくると、新しく作ることになるんだが、今受け持ってる仕事がごたついててな。それを片付けるまで二月かかる。お前さんの防具はその後になっちまうんだが、どうする?」



 そう言われて改めて考えるが、現状の俺は装備の力ではなく魔法と身体能力だけで戦っているので、しっかりとした装備を用意する必要性はない。だが、この先何が起こるかわからないという懸念もあるので、ここらでちゃんとした装備を整えた方が得策であるとは考えている。



 そもそも、今まで装備のことを一切気にせずやってこれたこと自体が異常であり、本来ならばもっと早く装備に関心を向けるべきなのだ。



 新しい装備は欲しいが、作ってくれるまでの時間が二月待たなければならないと考えれば、完成するまで防具なしで戦うことになる。それはいくらなんでも問題がある。ならば、こうするしかない。



「工房を借りてもいいか?」


「何? それってまさか」


「俺に合う装備がないなら、自分で作るまでだ」



 そう、作ってくれる職人の手が空いていないのであれば、自分で作ってしまえばいい。まさに、パンがないならケーキを食べればいいじゃない理論である。



 幸いなことに、今までやってきた生産活動において【錬金術】と【鍛冶】のスキルを獲得している。普段はそれを装飾品の加工に用いているが、それを防具作りに応用すればいいだけの話だ。もともと、鍛冶については武器と防具の製作に適性があるスキルなので、その能力を遺憾なく発揮してくれることだろう。



「お前さん、鍛冶仕事ができるのか? 見たところ成人してないみたいだし、身なりからして冒険者見習いだろ?」


「俺に関してはどうでもいい。問題はここの工房を借りられるか借りられないかだ」


「……ついてこい」



 こうして、ファンタジーのお話らしい防具製作について考えることになった。

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